eラーニングを導入し、社員の販売力アップを図る企業が増えている。
今回、独自のやり方で成果を上げている先進企業2社に密着した。
「アメ」と「ムチ」を使い分けて社員の学習意欲を高めたオートバックスセブンと、
ゲーム感覚で学べるソフトを導入したフォルクスワーゲングループジャパンだ。
成果を上げるポイントは、運用方法とコンテンツ内容の工夫にある。
オートバックスセブン: |
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国道1号線沿いにある「オートバックス大田馬込店」(東京都大田区)で働く新入社員のA君。久しぶりの休みを利用して、愛車でドライブを楽しんでいたが、たまたま自分が働く店舗の近くを通りかかった。「近くまで来たついでに少し寄っていこう」――。
A君は店舗に入ると、そそくさとパソコンが置いてあるオフィスの一角に移動。パソコンを操作して、店内のサーバー上にあるeラーニングのソフトを稼働させた。
「昨日は『バッテリー基礎コース』の第4章まで進めたはず。このコースは今日中に片付けよう」。A君は早速、バッテリー基礎コースの最終章に取り掛かった――。
遊び盛りの若手社員なら、急を要する仕事があるなど特別な事情がなければ、休日はゆっくりと羽を伸ばしたいと考えるのが普通だ。しかし、オートバックス大田馬込店ではA君のように、「休日を利用してeラーニングを受講する新入社員やアルバイトが珍しくない」(岩井紀行フロア長)という。これは、大田馬込店だけでなく、ほかの店舗にも当てはまる。同社のeラーニングは、自宅のパソコンからは利用できない。このため、わざわざ出社してくるのだ。
一般に、外回りの営業担当者に比べて、販売店の従業員は商品販売への執着心が少ないと言われる。外回りに比べて、明確に販売額が自分の給与に反映されない。そのため、eラーニングで販売力を向上させようにも、利用率を上げることすら難しい。
順位公開で競争心刺激
オートバックスセブンのeラーニングの場合、1コース当たりの標準所要時間は、修了テストも含めると2時間30分から3時間30分。従業員の負担は決して軽くない。それにもかかわらず、オートバックスの店舗で働く従業員のモチベーションが高いのは、eラーニングを統括するオートバックスセブンの研修担当者が、アメとムチの両方をうまく使い分けているからだ。
従業員のやる気を引き出す最大の要因になっているのが、eラーニングの進ちょく状況や成績を原則的に公開している点だ。店舗の従業員は、同じ職場であれば無条件で全員のデータを閲覧できる。店舗を対象にしたeラーニングを統括する石井幸雄ストアサポートセンター人財開発プロジェクト企画管理グループグループマネジャーは、「自分の受講状況やテストの点数がほかの従業員に見られるため、全力で取り組まざるを得ない」と言う。
eラーニング受講の強制力になる仕組みを作る一方で、従業員の自発性を引き出す「アメ」も用意している。「バッテリー基礎コース」「オイル基礎コース」など10種類のコースを修了した従業員向けに、社内資格である「カーライフアドバイザー」を授与。本部は修了者に認定証やバッジ、お菓子などを配布して資格の取得を祝福する。ソフトには画像と文章だけでなく、音楽やナレーションも流して、従業員が楽しく学習できる工夫も凝らしている。
販売店の従業員を飽きさせない仕組みが功を奏し、現在では販売店における従業員の約7割がカーライフアドバイザーの資格を取得している。現場の従業員からは、「商品知識を整理できるので、的確に顧客の質問に回答したり、商品を提案できる」という声が寄せられており、販売力向上の効果も着実に出始めている。
集合研修の経験が教訓に
オートバックスセブンが、受講者を退屈させないような仕組みを用意している背景には、集合研修での失敗がある。石井グループマネジャーは、新入社員の集合研修も担当しているが、参加者のモチベーションが低いことに悩まされていた。ひどい場合は、居眠りを始める人もいたという。
このため、eラーニングの導入を検討した際も、従業員のやる気を引き出す仕組みがないと絶対に普及しないと判断。eラーニングソフトの制作を委託していた富士通ラーニングメディア(本社東京)の担当者と相談を繰り返し、1億数千万円を投じて現在のソフトを完成。1999年6月から稼働させた。