JCBは中小企業向けの決済代行サービスを強化する
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 JCBが法人向け事業のてこ入れを図っている。小口の与信ノウハウを生かして、企業間取引の支払いを立て替える決済代行業務を積極的に推進する。この一環として5月に、中小事業者が数多く介在する卸売市場の電子決済に参入した。

 JCBは、5月から生鮮品などの卸売市場における企業間取引の決済代行サービス「@マーケット」を開始した。このサービスは、青果や水産物、食肉、草花など、全国に1500カ所近くある卸売市場における仲卸業者と小売業者の決済を代行するもの。取扱高の合計が約11兆円という巨大市場の電子決済化を促進する動きとなる。

 電子商取引とは無縁だった「市場(いちば)」を、個人商店主などを対象にした巨大な電子調達市場へと生まれ変わらせる可能性を秘めている。

消費者向けのシステム生かす

 @マーケットは、個人向けのクレジットカード業務で蓄積した小口与信のノウハウや精算のシステムをフルに活用。中小規模の卸の与信管理や代金回収業務を肩代わりする。

 手始めに東京中央卸売市場の板橋市場(東京都板橋区)と世田谷市場(同世田谷区)の2つの花卉(かき)市場から決済代行業務を受託した。「初年度の取扱金額は約150億円を想定している。手数料はクレジットカード加盟店向けの決済額の3~5%より少ないが、安定的な収入が見込めるうえに市場規模が大きいため、期待は高い」(事業部営業グループの三井正滋係長)という。

 これまでJCBは、法人向けの事業として経費精算用の法人カード発行を中心に、集金代行などを行ってきた。法人カードだけでも契約社数は大手企業で3000社に上る。

 しかし、「経費削減を推進する企業が多いなかで法人カードは、利用を促す販促が打ちにくい。カード決済の仕組みやノウハウを生かした法人向け事業の展開は急務だった」(法人カード部営業IIグループの齋藤裕之係長)。

集金と与信を肩代わり

 こうした背景もあり、@マーケットをはじめとする法人向けの決済代行サービスを積極的に展開する。例えば文具や備品を扱う中小規模の卸や、中小の取引先との決済を効率化したい企業に対しても同様の仕組みを提供。調達や資材の仕入れに限定した購買専用カード(パーチェシングカード)を発行するケースも増えている。

 @マーケットでは、卸売市場の組合が小売業者に利用者ID(識別符号)を入れたクレジット機能を持たない会員証を発行。顧客である小売業者から注文を受けた仲卸業者は、売り上げ管理用のパソコンに顧客のIDと売り上げ情報を入力する。JCBは、このデータを基に毎月15日に仲卸業者に取引代金を立て替える。

 小売業者からの支払いはクレジットカードの代金回収と同様に、JCBが翌々月の10日に指定口座から自動振り替えで徴収する。これによって仲卸業者と小売業者の代金回収業務および支払い負担を大幅に軽減する。

卸売市場の電子化へ要請高まる

 卸売市場を狙った決済代行業務は、JCB以外にも広まりつつある。信販大手のオリエントコーポレーションも、4月末から東京中央卸売市場の大田市場花卉部を対象に仕入れ専用の「大田市場バイヤーズカード」を発行。JCBと同様のサービスを開始した。

 各社が生鮮の卸売市場に着目する理由は、一見、アナログな世界においても電子決済へのニーズが高まってきたため。すでに一部の卸売市場では電光掲示板を使って競りを実施する「電子セリ」の仕組みを導入するなど、取引を電子化する試みが進んでいる。

 ところが決済に関しては、特定の仲卸業者と小売り業者の間では信用取引による掛け売りが基本だ。新規参入した小売業者が取引を始める場合には、現金取引を強いられる。しかも、多くの仲卸業者が代金の精算業務を手作業で行っており、事務が繁雑なうえに、取引先の与信状況を逐一把握できるような体制を整えていない。

 金融機関の貸し渋りなどと相まって、中小事業者の資金繰りは極めて厳しい。こうした状況から仲卸業者を取りまとめる組合などが、卸売市場における決済の電子化を求めていた。

与信ノウハウが問われる

 @マーケットのシステムは日立ソフトが開発した。卸売市場にある各仲卸業者の事務所に設置したパソコンから新たに設立したデータセンターに接続し、そこからJCBにデータを送信する。@マーケット事業の運営を目的に設立したマーケット情報サービス(本社東京)が、卸売市場に参加する仲卸業者や小売業者に対する営業を担当している。

 @マーケットの取り組みは、JCBの法人向け事業が転換期に来ていることを示すものといえる。JCBは2000年9月に、伊藤忠商事などと共同で企業間EC(電子商取引)サイトにおける決済業務を担うイー・ギャランティ(本社東京)を設立。1000万円以下の少額取引における決済代行を請け負ってきた。しかし、これまでにJCBが受託したのは5サイトと苦戦を強いられている。

 「ネットで新たな取引関係を作り上げる難しさを痛感しただけに、前近代的だが、毎日のように活発な取引が発生する卸売市場は大きなビジネスチャンス」(三井係長)と期待する。

 オリエントコーポレーション以外の信販系やノンバンク系などもこうした市場への関心を示しており、JCBは先手を打ったといえる。今後は各社が持つ与信管理ノウハウが顧客獲得の勝敗を分けそうだ。

三田 真美 mmita@nikkeibp.co.jp