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DVDやCD-Rといった主力製品が急激な価格下落に巻き込まれた日立マクセル。この苦境を乗り切るために導入したのが新SCMシステムだ。このIT投資には、どのような意思決定プロセスがあったのか。

録画用DVDディスク「DVD-R HG」。DVDのほかMDやCD-Rなどの記録用メディアを製造
●全世界の需要情報が週次で集まるシステムを構築するまで
●世界中の需要情報を集約し、週次で生産計画を立案する体制に
 「当社にとっては思い切った投資額。製造・販売部門など社内で議論を尽くして決断した」(IT推進室の岩崎真明・部長代理)――。日立マクセルは、2006年までに約10億円を投じてSCM(サプライチェーン・マネジメント)システムを刷新する。世界中に9社ある販売会社からの需要情報を週次で吸い上げることで、欠品防止と在庫削減の両立を目指す。将来的には、同社が製造する6000品目の情報を一元管理する。

 同社は、DVDやCD-Rといった記録用メディアや乾電池などを製造している。DVDレコーダーなどの低価格化に伴い、記録用メディアも価格下落が急速に進んでいる。「ワールドワイドで競争が激しい。月次ではとても需要をきちんとつかみきれない」(岩崎部長代理)。そこで、生産計画を週次で立案する体制を築くことにした。

 新システムは、販売計画や生産計画、拠点や工場にある在庫など、すべての情報を一元管理する。世界中にある9社の販社が販売計画を週次で登録する。各拠点の在庫情報は日次で登録するので、全体で在庫がどれだけあるのかが容易に把握できるようになる。まず、昨年11月につくば事業所でシステムが稼働。2005年度上期中に米国とアジアの販社に導入する予定である。

徹夜の議論で課題を洗い出す

 改革に取り組むきっかけとなったのは、2004年2月に発足した業務改革委員会だった。全社レベルでどういった業務改善に取り組むべきかを検討する場だ。そのなかにSCMの強化を検討する分科会を作った。過剰な在庫を持たずに販売の急速な変動に追随していくには、これまでの月次による業務プロセスでは対応できないと考えていた。そこで同年4月、週次に移行するうえでの課題を検討するために、30人以上が集まり合宿を開いた。合宿には製造、資材、営業、IT(情報技術)部門など業務プロセスにかかわる担当者が参加。「販売出荷」「製販調整」「調達・設計・生産」の3グループに分かれて現状分析を行った。

 販売出荷グループからは「固定費を削減しながら売り上げを拡大」、製販調整グループからは「製販調整などの業務は、どうすれば生産性が向上するのか」といった課題が噴出。主要なメンバーが集まった議論は徹夜に及ぶほど白熱した。課題は、パワーポイントにして300枚以上にもなった。

 議論の末に、課題を解決するには現状のシステムではなく、「新しいSCMシステムが必要だという結論に至った」(岩崎部長代理)という。そこで、月次から週次に業務プロセスを切り替えることと、業務プロセスが一気通貫で見える仕組みを構築することを改革の柱とした。

 新システム導入前に、実際に週次で業務ができるのかを試した。既存システムと表計算ソフト「エクセル」を使いながら、DVDディスクを製造するつくば事業所で実験することにした。DVDディスクを対象に選んだ理由を「消費者向けの市場で久々の大ヒット商品。需要が国内だけでなく世界中で伸びており、市場の競争も激しい。業務の週次化の経験を積むにはピッタリの製品だった」(同)と話す。

 実際に週次で業務でこなすことによって、課題も見えてきた。「これまでよりも4倍のスピードが要求される。改善すべき業務プロセスが分かった」(IT推進室の武田弘利主任)という。

必要な機能だけでいい

 新システムには、スウェーデンにあるIBS社の「ASW」というパッケージを採用した。システム選定段階では、SAPジャパンや日本オラクルなどの著名なパッケージ製品が候補に挙がったが、最終的に導入を決めたのはASWだった。国内に販売代理店もないソフト会社の製品である。

 国内で発売元の技術サポートを受けられないパッケージ製品を基幹システムに採用する企業は少ない。基幹システムがダウンした場合、長時間にわたり、業務が滞る危険性があるからだ。

 にもかかわらず、ASWを採用したのには大きな理由がある。決め手となったのは2003年から英国の販社でASWを活用し、欧州の10拠点の在庫を管理していたからである。在庫削減などの成果が出ていることを聞いていた。欲しい機能はそろっている。会計もパッケージ製品の機能としてあったが日本の制度会計に適さないため使えない。だが、ほかのシステムと連携する機能がついており既存の会計システムが使える。

 武田主任が英国に出張し、ASWを活用した業務プロセスを視察してきた結果、柔軟性があり、必要な機能がそろっていることが分かった。「ASWは、我々が必要とする機能がそろっていてコンパクトなシステム。ほかのパッケージソフトを使うと、機能は盛りだくさんだが、1ケタ変わる投資額になっていたかもしれない」(岩崎部長代理)と振り返る。

 今後、販売や資材部門が利用しているホストコンピュータの機能もASWに置き換えていく。「数年間の運用コストだけでも投資額をペイできると期待している」(同)という。

西 雄大