成功事例のこと。単に事例を指すケースもあれば、他の組織が導入できるよう業務プロセスをモデル化した成功手法のことを呼ぶケースもある。

 ほかの企業のやり方に学び、良いところをまねする——。これは昭和の時代に日本企業のお家芸のように言われてきたことです。米国の大手企業でも1980年代から1990年代にかけて、優良企業に学び、優れた業務プロセスや経営手法を取り入れる動きが盛んになりました。こうした取り組みにおいて、学ぶべき対象である成功事例や手法のことを「ベストプラクティス」と呼んでいます。

◆効果
短期で変革を果たす

 ベストプラクティスは、短期間で企業変革を果たす際のお手本や指針となるものです。

 ただし、「どれだけの優位性の裏づけがあればそう呼んでいいのか」「適用の可能性をどこまで調べたうえで、お手本として選定するのか」という定義には注意が必要です。

 例えば、江戸時代後期の徳川家の歴代将軍にとっては、ベストプラクティスは第8代将軍の徳川吉宗の取り組みかもしれません。しかし、明治維新を担った政治家は、廃藩置県などを前提に、より抜本的に仕組みを作り変えるために、ベストプラクティスを欧米に求めて岩倉使節団を派遣しました。

 これと同様なことは業務の仕組みにもいえます。ある企業は生産管理のベストプラクティスとして、トヨタ自動車のジャスト・イン・タイム(JIT)方式を選ぶかもしれません。ただし、JITは生産・物流の現場作業員がまんべんなく高いモチベーションを持ち、作業の「見える化」などを徹底する意識改革を時間をかけてもやり切ることが成功の前提です。

 それだけに短期雇用の作業員を多く使う企業では、TOC(制約条件の理論)などを活用して特定の工程を重点管理することで成果を上げた事例をベストプラクティスに位置付けるかもしれません。需要を高精度に予測する仕組みを持つ事例を取り入れることもあり得ます。

 ERP(統合基幹業務)パッケージの宣伝でも「この製品に業務を合わせればベストプラクティスを導入できます」とうたわれるケースがあります。しかし、具体的にどんな企業がどんな状況で成果を上げた事例をベストプラクティスにしているのか、適用条件をよく調べるべきです。

◆事例
トヨタ方式を導入

 伊藤ハムは、2001年度決算がBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)騒ぎで赤字に落ち込んだことを受け、2002年からトヨタ生産方式を手本にした生産改革に取り組みました。

 トヨタの管理方法をまねて作業の標準化を徹底することで、商品在庫を1日分減らしたり、無駄な作業と作業員を減らしたり、4人1組でこなしていた作業が3人でできたりといった成果を生んでいます。

(井上 健太郎)