音声をIP網に載せるVoIP技術が成熟度を増し,企業ネットワークで音声とデータのインフラの統合が進んでいる。IP技術を取り入れたPBXが登場するなど,勢いが増している。データと,音声やビデオなど,さまざまな情報を同一のネットワークでやりとりする「ユニファイド・ネットワーク」の実現に向けて歩みだした。

表1 最近登場したLANに接続できる主なPBX製品
 Webアクセスや電話,FAX,ビデオなど,さまざまなアプリケーションのデータを,IPネットワークに集約して,帯域を効率的に使うと同時に管理を容易にする「ユニファイド・ネットワーク」が注目を集めている。

 99年の夏から秋にかけて,大手メーカーが音声をIPネットワークに載せるためのVoIP(ボイス・オーバーIP)製品を次々に投入してきた(表1[拡大表示])。米シスコ・システムズ,米ルーセント・テクノロジーズ,カナダのノーテルネットワークスなどや,富士通やNECなど,ルーター・メーカーとPBXメーカーが入り乱れて製品投入している。

図1 IPネットワークに内線電話も統合するのが最終的なゴール
統合は(1)IP PBXを導入することで既存の内線電話回線をLANにつなぎ込む,(2)IP電話機などを導入して電話回線そのものをIP化する,という段階を踏む。
 数年前から,VoIP製品が市場に登場していたが,製品の形態や選択肢が限られていた。ここにきてPBXメーカーなどもVoIPに本腰を入れ始め,ユニファイド・ネットワークへの第一歩であるVoIPの構築環境が整ってきた。

VoIPの採用方法は2つの段階

 VoIPの導入には,2段階がある(図1[拡大表示])。第1段階がNECや富士通,日立製作所,ルーセント,ノーテルなどが着目している,拠点間を結ぶ中継回線にIPネットワークを利用する方法である。多くの企業は,まずこの形態から採用していくと見られる。次の段階で,内線や電話機までIP化する。

 従来から,中継回線上で音声やデータを統合するために,TDM(時分割多重)装置が利用されてきた。ただTDMでは,各拠点を1体1で専用線接続することになり,拠点数や拠点間の距離に比例して導入・管理コストがかさむという課題があった。また,TDMは専用線の帯域を,時分割で音声やデータなどそれぞれのチャネルに固定的に割り当てており,空いていてもほかの用途に使えないという欠点もある。

 そこで帯域を柔軟に活用でき,通信料金などが安いATMフレームリレーやIPネットワークに音声も載せるケースが増えている。

写真1 NECの「APEX3600」
VoIP機能を内蔵するPBX製品。
 最近,特にネットワーク機器メーカーが音声とデータを統合するインフラとして注目しているのがIPネットワークである。中継回線をIP化する場合に必要となるのがIPゲートウエイだ。IPゲートウエイは,音声をIPパケットに変換する機能で,音声の符号化/復号化やIPパケットの組み立て/分解などの機能を持つ。

 IPネットワークはATMやフレームリレーと比べて品質の保証ができない代わりに,通信料金が安い。「半年前に比べても,5倍以上の伸びを見せている」(富士通 システム本部 ネットワークインテグレーション統括部 システムインテグレーション部 プロジェクト部長 香川 進吾氏)という。

 この流れをあと押しするように,PBXに追加するIPトランク,あるいはPBXにIPトランクを内蔵するPBXが続々登場してきた。たとえばNEC(写真1[拡大表示])は,IPゲートウエイ機能を備えるPBXを,ルーセントとノーテルは既存のPBXにIPトランクを組み込んだ製品を出荷している。富士通や日立製作所もこれに続く。従来の外付け型IPゲートウエイに比べて,低価格,省スペースであり,管理も容易である。

内線電話網をLANに統合

 シスコや沖電気工業などは,電話の中継回線だけでなく,PBXと電話機間をIPネットワークで接続する製品を出荷する。LANなどの伝送路を使って,電話の信号処理や音声伝送などをIP上で処理する製品である。この種の製品はすべての処理をIPパケットとして扱うため,「IP PBX」製品と呼ばれる。

写真2 沖電気の「マルチキーテレホンIP」
イーサネットに直接接続して利用する。
 IP PBXは一般に,音声をIPに乗せるIP電話機(写真2[拡大表示]),電話機を管理・制御するコール・マネージャ,内線と外線を接続するためのIPゲートウエイで構成する。コール・マネージャは,電話番号とIPアドレスをマッピングしたり,かかってきた電話をほかの電話機に転送したりする機能を備える。

 内線までVoIPにすれば,電話回線工事などが不要になり,大幅なコスト削減が望める。また,IP技術で管理可能なため,管理者の手間が軽減できる。

 また,電話とほかのIPベースのアプリケーションの連携が容易になる。たとえばディレクトリ・サービスとの連動や,メッセージング・サービスと連動などが挙げられる(図2[拡大表示])。さらに,顧客からの電話を顧客情報と一緒にほかのオペレータに転送したり,Webを見ているユーザーと画面を共有して電話対応をするといった,コール・センターへの応用も期待できる。

図2 IP電話システム導入によるメリットの例
回線をIP化することで,従来の内線電話では難しかったさまざまなサービスを実現できる。
 ただし,VoIP製品を導入するには注意しなければならない点がある。IPネットワークは標準では,音声をリアルタイムに伝送する機能を備えてない。このため,品質を一定レベルに保つには,QoS(サービス品質)管理の仕組みを導入する必要がある。また,異機種間の相互接続の課題もある。VoIPの規格としてITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)勧告H.323がある。しかし,H.323準拠の製品間ならば,どの製品間も完全に接続できるという状況には至っていない。

(中島 募=nakashim@nikkeibp.co.jp)