PR

コンテンツ・デリバリは,Webサイトのコンテンツのコピーを世界中の専用サーバーに配信し,ユーザーからのアクセスを分散させる技術。ユーザーは,オリジナルWebサイトに至るインターネット上の複雑な経路を通ることなく,最寄りのサーバーに高速にアクセスできるようになる。米国ではベンチャ企業3社が続々とサービスを始めており,数百のWebサイトが利用している。日本では,衛星を使って同様のサービスを提供する事業者が出てきた。

 「世界中に何千台もの専用サーバーを置き,Webコンテンツをコピーして,Webサイトへのアクセスを分散させる」―。荒唐無稽(こうとうむけい)とも思えるサービスが,米国で実際に始まっている。Webアクセスを高速化する新技術「コンテンツ・デリバリ」を使ったサービスである。

 Webサイトにアクセスするユーザーそれぞれの最寄りのサーバーまで,あらかじめコンテンツを届けておく。ユーザーはその最寄りのサーバーから,コンテンツを取得する。同じコンテンツを搭載したWebサーバーを数多くいろいろな地域に配置すれば,Webサーバーへの負荷やネットワークのトラフィックが分散され,その結果,Webアクセスが速くなる(図1[拡大表示])。“ユーザーの最寄りのサーバー”を実効力のあるものとするには,世界各地に専用サーバーを1000台規模で配置する必要がある。

 この技術を使ったサービスを,米アカマイ・テクノロジズや米ディジタル・アイランド(99年12月にコンテンツ・デリバリ・サービス事業者の米サンドパイパー・ネットワークスを買収),米アデロなどが提供を始めている。すでに数百のWebサイトが利用中だ。

表1 主なコンテンツ・デリバリ・サービス事業者
 設置したコンテンツ・デリバリ・サーバーの数は,アカマイが2000台,ディジタル・アイランドが1200台という膨大な数に達する(表1[拡大表示])。ディジタル・アイランドの場合,「2003年には6200台に増やす」(米国本社広報担当)というように,サーバー設置数は今後も拡大する見込みだ。

従来方式の課題を解決

 従来,企業などが提供するWebサービスを高速化するためにはWebサイト側の施設を拡充する方法が採られてきた。Webサイトが接続するインターネット回線の帯域を広げる,あるいはサーバーの性能を向上させたり,複数のサーバーを設置して負荷を分散させたりする方法である。同じ目的で,ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)が提供するホスティング・サービスやハウジング・サービスを利用する方法もある。

 ただ,この方法では,解決できない課題が残る。ユーザーが接続するISPと,Webサイトが接続するISPのネットワークがどのようにつながっているかによって,Webアクセスのレスポンスが大きく左右される。ユーザーとWebサイトが同じISPのネットワークに接続していればほとんど問題はない。しかし,別々のネットワークに接続している場合は,安定したレスポンスは望めない。

図1 コンテンツ・デリバリの概要
アクセスの多いWebサイト向けに,世界中に配置したコンテンツ・デリバリ・サーバーにWebコンテンツを配信する。Webサーバーに対するアクセスの集中が避けられ,エンドユーザーが高速にWebコンテンツにアクセスできるようになる。
 インターネットは,ISPが持つネットワークの集合体であり,それぞれのネットワークは相互接続ポイント(IX:Internet eXchange)で結ばれている。異なるISPネットワーク間の通信は,IXを経由するのが基本である。特定のISPネットワーク内のWebサイトにアクセスが集中すると,IXや特定の回線が混雑する可能性が高くなる。それに,すべてのISPがIXと接続しているわけではなく,ほかのISPのネットワークを介してIXに接続していることも少なくない。

 そもそもルーターやIXを経由するたびに,処理時間などによる遅延が生じる。経由するISPの数が増えれば,データが通過するルーターの数(ホップ数)も多くなり,遅延が大きくなる。特定のルーターなどにトラフィックが集中すれば,なおさらである。

 これらの課題は,Webサーバーが1カ所にあることが大きく関係している。コンテンツ・デリバリ・サービスでは,世界各地にサーバーを配置するため,特定のISPネットワークなどにアクセスが集中しなくなり,アクセスの途中で通過するISPの数が少なくなる。その結果,従来方式の課題を解決して,安定した高速Webサービスを提供できる。

あたかも1台のサーバーのように

 コンテンツ・デリバリ・サービスを使った場合でも,ユーザーがWebサイトにアクセスする方法は従来通りである。目的サイトのURL(ユニフォーム・リソース・ロケータ)を入力するだけである。

 しかし,実際には,数千台のコンテンツ・デリバリ・サーバーのうち,最寄りのサーバーにアクセスする。ユーザーが接続するISPネットワークによって,アクセスするサーバーが異なる。

図2 コンテンツ・デリバリ技術の仕組み
ユーザーからのアクセスをどのようにコンテンツ・デリバリ・サーバーに振り分けるかを示した。2種類の方式に分かれる。
 Webサイト上のコンテンツすべてをコンテンツ・デリバリ・サーバーに置いてあるとは限らない。たとえば,サイズが大きい画像ファイルやストリーミング・データをコンテンツ・デリバリ・サーバーに,1日に何度も更新するHTMLファイルなどはユーザー側のWebサイトに置くということが考えられる。バックエンド・データベースから動的に生成するWebページなど,コンテンツ・デリバリ・サーバーに登録できないものもある。同じWebページにあるコンテンツでも,提供するサーバーが異なる。

 このようにユーザーには通常の操作環境を提供しつつ,その裏で最寄りのサーバーと,オリジナルのWebサーバーからコンテンツを集めて提供するための仕掛けを工夫している。この仕掛けの実現方式は大きく2種類に分類できる。アカマイは,HTMLファイルなどに記述する,コンテンツのある場所を示すURLをアカマイのサイトに書き換える方式,ディジタル・アイランドとアデロは,WebブラウザからのDNS(ドメイン名システム)への参照をリダイレクトする方式を採っている(図2[拡大表示])。

独自DNSが技術のカギ

 アカマイのHTML書き換え方式は,コンテンツ・デリバリ・サーバーに置いた画像ファイルなどのアドレス(URL)を,あらかじめアカマイのサーバー群を示すアドレスに書き換えておく(図2-a)。このため,アカマイは,アドレスを置き換えるための専用ツールを用意している。ユーザーからアクセスがあった場合,数あるコンテンツ・デリバリ・サーバーのうち,どのサーバーに接続するかの指示はアカマイ側のDNSの役割である。

 Webブラウザは,取り出したHTML中の画像ファイルなどの参照先がアカマイのサーバー名になっていると,そのサーバーのIPアドレスをアカマイのDNSに問い合わせる。そこでアカマイのDNSが,ユーザーの最寄りのコンテンツ・デリバリ・サーバーを示すIPアドレスを返す。こうして,ユーザー最寄りのサーバーからコンテンツが得られる。

 ユーザーの最寄りのサーバーを選ぶ基準は,ユーザーのIPアドレスやホップ数などを利用している。コンテンツ・デリバリ・サーバーに障害などが発生している場合,別のサーバーにアクセスを振り向ける。

 ディジタル・アイランドとアデロのDNSリダイレクト方式では,HTML文書を書き換える必要はない。代わりに,Webサイトが用意するDNSの設定を変更して,Webブラウザからの問い合わせをすべて,ディジタル・アイランドやアデロのDNSに転送するようにする(図2-b)。そのDNSが,ユーザーに近いコンテンツ・デリバリ・サーバーのIPアドレスを返す。

 この方式では,ユーザーからのWebアクセスは,すべて最寄りのコンテンツ・デリバリ・サーバーに振り替えられる。ただ,コンテンツ・デリバリ・サーバーには,すべてのWebコンテンツを置いていない。その場合,オリジナルのWebサイトからコンテンツを取り出してユーザーに転送する。同時にサーバー側で,キャッシングをする。

衛星で多数のサーバーに転送

 コンテンツ・デリバリには,課題がある。コンテンツ・デリバリ・サーバーへのコンテンツの更新(転送)である。コンテンツの更新は,できるだけ迅速に実行したい。しかし,サーバーの数は数千台にも及ぶ。この部分に着目し,衛星通信を利用してマルチキャストで,同じ内容のWebコンテンツを多数のサーバーに配信するサービスが始まっている(図3[拡大表示])。ただ,これらはアカマイなどのサービスと異なり,あるISPに接続するというような特定のユーザーだけに向けてサーバーを設置する形態である。

図3 衛星を使ったコンテンツ・デリバリ
宇宙通信が試験的にサービスをしている「HitPops」の仕組み。動画などの独自のコンテンツと,インターネット上のWebコンテンツのキャッシュ・データを衛星で配信する。
 宇宙通信が2000年2月から試験サービスを開始した「HitPops」は,ユーザー宅まで高速なアクセス回線を持つCATV事業者などに向けて配信する。通常のインターネットでは流せないような高精細な動画像を主に配信し,単なるISPサービスでは提供できないような魅力あるコンテンツを提供する狙いがある。利用する衛星回線の帯域は,最高24Mビット/秒である。動画像は,衛星回線から流れてくるデータを,ストリーミング・サーバーがそのまま中継してユーザーに配信する。

 特定のWebサイトのコンテンツを配信するのではなく,人気のWebサイトのキャッシュ・データを衛星で配信する形態もある。ダイレクトインターネットが2000年1月に始めた「WCPPサービス」だ。キャッシュのヒット率を高めるために各CATV事業者が設置するキャッシュ・サーバーのアクセス・ログなどをリアルタイムで調べて,人気サイトのコンテンツを配信している。

 米国ではシデラ(2000年1月にスカイキャッシュから社名変更)がWCPPと同様のサービスを提供している。

(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)