電子メールやアドレス帳,予定表などのデータをインターネット経由で転送し,パソコンや携帯情報機器間で同じ情報を共有できるようにする技術が登場した。機器間のデータ同期を実現するには,これまではフロッピーでデータを移したり,ケーブルで機器同士を接続する必要があった。登場した新技術を利用することで,インターネットに接続していれば,どこにあるマシン同士でもデータの同期が可能になる。HTTPをベースにした技術なので,ファイアウォールの内側にいる企業ユーザーでも利用できる。

(中島 募=nakashim@nikkeibp.co.jp)

 職場のパソコンと自宅のパソコン,日ごろ持ち歩いている携帯情報端末(PDA)。これらの機器で利用している電子メールやアドレス帳,予定表などのデータをいつも同じになるように管理しておきたい。とはいっても,フロッピー経由でデータを移すのは面倒だし,離れた場所に置いてあるのでケーブルでつなぐこともできない―。

 こうしたニーズにこたえてくれる新技術が登場した。インターネットを介して電子メールや個人情報管理(PIM)ソフトなどの差分データを送り合い,各機器のデータを同じ状態に保つ技術である(表1)。インターネットを経由するので,離れた場所にある機器でも利用することができる。

 米フュージョンワンのSync技術は,すでに国内でも利用できる。日本法人のフュージョンワン(本社・東京)が2000年9月1日から同社のWebサイトで「インターネット“Sync”サービス」としてサービスを開始した。米プーマテック(旧プーマテクノロジー)の日本法人,プーマテック ジャパン(本社・東京)は2000年12月に,同期技術「Sync-it」の開発キットをポータル・サイトの運営会社やISP(インターネット・サービス・プロバイダ)向けに提供する。2001年初頭には,Sync-itを利用した同期サービスを始める企業が出てくる見込みだ。

技術名 フュージョンワンのSync技術 Sync-it
開発元 米フュージョンワン 米プーマテック
連絡先 フュージョンワン
TEL(03)3348-1515
プーマテック ジャパン
TEL(03)3511-0600
URL http://www.fusionone.co.jp/ http://www.pumatech.co.jp/
標準で同期可能なデータ メール(Outlook),アドレス帳(Outlook,Outlook Express,Netscape),予定表(Outlook),仕事(Outlook),メモ(Outlook),ファイル,ブックマーク(IE,Netscape) メール(Outlook,Outlook Express),アドレス帳(Outlook,Outlook Express,Netscape,オーガナイザー2000,筆まめ),予定表(Outlook,オーガナイザー2000),仕事(Outlook),メモ(Outlook,オーガナイザー2000)
リリース 2000年9月 2000年12月
備考 Webサイトでエンドユーザー向けの同期サービス「インターネット“Sync”サービス」を提供している。このサービスで利用できるWebベースのメール/PIMシステム「eDock」とPCのアプリケーションのデータも同期可能 ポータル・サイトやISPに,同期サーバーとWebベースのメール,PIMシステム向けの開発キットを提供
表1 インターネット経由でメールやアドレス帳などのデータを同期する主な技術

HTTPベースでデータを同期

図1 インターネット経由でメールなどのデータを同期
サーバーを中継して同期する。データをHTTPのデータ部分に埋め込んで送信するので,Webのアクセスしか許可していない企業のLAN内からでも利用できる。

 フュージョンワンのSync技術,Sync-itともに基本的な仕組みは同じである。パソコンまたは携帯情報機器にインストールしたエージェント・ソフトが,サーバーを中継して差分データを転送し合う(図1[拡大表示])。こうした処理をデータ同期と呼ぶ。中央のサーバーは,同期するデータを一時的に保存するために使う。

 たとえばフュージョンワンの場合,ユーザーがエージェント・ソフトを起動して同期ボタンを押すと,エージェント・ソフトがマシン内のデータと同期サーバーのデータを比較し,更新されている部分だけをアップロード,もしくはダウンロードする。ボタンを押す手動の方法だけでなく,OSを起動するときやシャットダウンするときに自動的にデータを同期するように設定することも可能。Sync-itも同様の機能を用意している。

 エージェント・ソフトは,サーバーにデータをアップロードする際に,HTTPパケットのデータ部分にデータを埋め込んで送信する。サーバーからデータをダウンロードするときもHTTPで通信する。このように,Webアクセスのためのプロトコルをベースにしているので,Webの閲覧しか許可していない企業などでも,ファイアウォールの内側から同期サーバーにアクセスできる。プロキシを経由する環境でも問題はない。

 フュージョンワンのSync技術,Sync-itとも,データをHTTPのデータ領域に埋め込む際に暗号化する。やりとりするデータの中にはメールやアドレス帳などが含まれているからだ。フュージョンワンでは「128ビットのカギを使って暗号化するので,第三者に情報が漏えいすることはまずない」(米フュージョンワン VPエンジニアリング&CTOのデビット・マルター氏)という。

図2 データ形式の変換も実行
受信側のアプリケーションに応じたデータ形式に変換してくれるので,異なるアプリケーションの間で情報を同期できる。なお,OutlookとOutlook Expressの間でメールの同期を取れるのは今のところSync-itだけ。

異なるアプリケーションでも利用可

 データを同期させることができるのは,基本的には同じアプリケーション同士である。ただし,一部のアプリケーションについては,異なるアプリケーションとの間でデータの同期がとれるようにしている。たとえば,メールやPIM機能をもつグループウエアなどのWebアプリケーションと,米マイクロソフトのOutlookとの間でメールやアドレス帳,予定表,メモなどのデータを共有させることが可能である。

 異なるアプリケーション間では,同期サーバーまたはエージェント・ソフトがデータを同期するとき,受信側のマシンのアプリケーションに応じてデータ形式を変換する(図2[拡大表示])。フュージョンワンのSync技術,Sync-itともに,データ変換などを含めて,既存のアプリケーションに対応させるためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を用意している。

同期できるファイル形式は多様

 フュージョンワンのSync技術とSync-itは,データ同期の仕組みこそ同じだが,ユーザーへの提供形態や,標準対応しているアプリケーションに違いがある。

 フュージョンワンのSync技術は前述したように,インターネット“Sync”サービスとして一般ユーザーに直接提供するサービスである。標準で同期できるデータは,Outlookのメールや予定表,アドレス帳,Webブラウザのブックマークなどである。

 フュージョンワンのサービスを利用するには,通信の設定や同期対象とするデータの設定などをエージェント・ソフト側で実行する。同期させたいマシンを追加するときや,サーバー側に蓄積しているデータを削除するときは同期サーバーにWebブラウザでアクセスして実行する(写真1)。フュージョンワンのエージェント・ソフトは今のところWindows版だけしか用意されてない。2001年春には米パーム・コンピューティングのPalmOS版を,2001年第3四半期にはMacOS版をリリースする予定だ。

使用ディスク容量 価格
0~15Mバイト 月額280円(年額2800円)
~50Mバイト 月額700円(年額7000円)
~100Mバイト 月額1000円(年額1万円)
~500Mバイト 月額3200円(年額3万2000円)
~1Gバイト 月額5200円(年額5万2000円)
表2 インターネット“Sync”サービスの価格体系

 フュージョンワンのSync技術の特徴は,メールやPIMデータだけでなく,画像やワープロの文書など,ファイル形式を問わずにサーバーにデータをアップロードできること。同社はこの特徴を生かし,インターネット“Sync”サービスのなかでインターネット上のハード・ディスクを自分のディスクのように利用できる「オンライン・ストレージ機能」を提供している。現在,1ユーザーあたり最大25Mバイトまで利用できる。サービスは今のところ無料だが,2001年1月からは容量に応じた有料サービスに移行する予定である(表2)。

 フュージョンワンは,Webブラウザで同期サーバーのデータを閲覧するための機能「eDock」も用意する(写真2)。これにより,たとえば出先のパソコンなどからもメールや予定表などを確認できる。なおこの機能はiモード対応の携帯電話からも利用できるほか,WAP(無線アプリケーション・プロトコル)端末への対応も予定している。

写真1 fusionOneのエージェントとWebの設定画面
左がエージェントの画面。同期するアプリケーションなどを設定する。右のWebの設定画面では,同期の対象とするPCの追加や,同期サーバーに蓄積しているデータの管理などを行う。
写真2 フュージョンワンの「eDock」
インターネット“Sync”サービスのユーザーを対象に,メールやPIMの機能を提供する。

ハード・ディスクをバックアップ

 2000年5月に日本に先行してインターネット“Sync”サービスが始まった米国では「すでに20万人以上のユーザーを獲得している」(米フュージョンワンのデビット・マルター氏)という。米国では今後,さまざまな形態でのサービス提供を計画している。

 たとえばパソコン・メーカーと提携し,データのバックアップ・サービスを年内にも開始する予定という。パソコンを買い換えてくれた顧客を対象としたサービスである。具体的には,古いパソコンのデータをサーバーにアップロードしてもらい,それをボタン1つで新しいパソコンにダウンロードできるようにするもの。必要なデータを簡単に引き継ぐことができるので,新しいパソコンを簡単に以前と同じ環境にできる。

 このサービスは国内でも「どこかのメーカーと提携して提供することを考えている」(フュージョンワンの小野寺 康一代表取締役社長)という。

写真3 米プーマテックの「Sync-it」
Windows以外のプラットフォームのエージェント・ソフトも早い時期に提供する。写真はPalm用エージェントの画面。

データ変換の機能に強み

 一方,プーマテックのSync-itは,アプリケーションの種類に応じてデータ形式を変換する機能が強みである。標準で多くのアプリケーションに対応している。OutlookとOutlook Expressでメールやアドレス帳のデータを共有できるほか,Outlookと米ロータス・デベロップメントのPIMソフト「オーガナイザー2000」との間でもアドレス帳,予定表,メモなどのデータを共有できる。

 Sync-itのエージェント・ソフトはフュージョンワンと同様に,当面はWindows版だけ。ただし同社はPalmOS,Windows CE,ザウルスなどさまざまなPDAのPIMデータとパソコン・データとを同期させるソフト「Intellisync」の技術をもつ。「この技術を生かして(フュージョンワンよりも)早い時期に各プラットフォームのエージェント・ソフトをリリースする予定」(米プーマテック 販売担当上級副社長のスティーブ・ニコル氏)だという(写真3)。

サービス提供会社が利用する

 Sync-itは,前述したように自社で一般ユーザー向けにサービスを提供するのではなく,ポータル・サイトやISPにサービスや技術を提供する。「米プーマテックはショールーム的な意味合いで,Webサイト(http://www.intellisync.com/)でSync-itの同期サービスを提供する予定だが,プーマテック ジャパンが国内のエンドユーザーに直接サービスを提供することはない」(プーマテック ジャパン マーケティング担当の鈴木 尚志副社長)。

 国内のユーザーは,ISPなどのサービス事業者がSync-itを利用して開発した同期システムを利用することになる。Sync-itで開発したシステムは,ユーザーのパソコンまたはPDAのデータを同期する機能のほか,ISPなどが提供するメール/PIM用のWebアプリケーションとの同期も可能にする。

 国内では,プーマテック ジャパンがSync-itの開発キットをISPなどに向けて販売するほか,ソフトバンク・テクノロジーやNTTデータ,伊藤忠テクノサイエンスなどが,サービス提供会社向けにSync-itを用いた同期システムの構築やASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)のサービスを予定している。