ADSLは,回線状態の良し悪しに速度が大きく左右されるサービス。距離が遠かったりノイズの影響があると,速度が落ち,最悪の場合は使えない。こうした状況を改善するADSLの新技術がいろいろと登場している。新技術には,長距離接続を狙ったものと,速度向上を狙ったものがある。それぞれのしくみと効果について見ていこう。

 長距離接続を狙った新技術は二つある。Yahoo!BBが今年3月に採用を始めたReachDSLの最新版と,アッカ・ネットワークスが年内に導入する新技術のC.Xである。両方の新技術に共通なのは,8Mビット/秒のADSLサービスに標準的に採用されている「G.992.1」よりも低い周波数帯域を利用する点。G.992.1で高速伝送が求められる下り方向に使っている伝送周波数は,148k~1104kHzと高い。一般に周波数の高い電気信号は距離が延びると急激に減衰するので,電話局から離れた場所ほど下りの速度が遅くなり,最後には接続不能になる。

 ReachDSLの最新仕様は,25k~120kHzという低い帯域だけを使って2.2Mビット/秒の双方向通信をまかなう。C.Xも,G.992.1が下り方向の伝送に使う周波数帯域を低い周波数帯域に拡張する。減衰の少ない低い周波数帯域を利用することで,長距離の伝送を可能にしようという考えである。ただ,C.Xの方法では,拡張した部分が上り方向の信号と重なってしまうので,エコー・キャンセラ技術を使って上り方向と下り方向の信号を分離する。

 高速化を狙った新技術にもいくつかの方式がある。例えば,C.Xも高速化技術の一つといえる。下り方向の伝送に使う周波数帯域を広げるということは,それだけ多くのデータを一気に送れる,つまり速度が向上することにつながるからだ。長距離伝送と高速化を同時に実現する一石二鳥の技術といえる。

 高速化だけを狙った技術には,誤り訂正のマージンを削減する「S=1/2」と呼ばれる技術がある。従来の8Mから最大16Mビット/秒程度まで速度を上げられる。ITU-Tで審議中の「G.992.3」もADSLの高速化技術。これは,下りで使う信号の周波数を2208kHzまで広げ,20Mビット/秒を超える速度でサービスを提供できるADSL拡張技術。イー・アクセスが来年以降に採用する予定だ。

 これらの技術がユーザーに恩恵をもたらすためには,それぞれ条件がある。

 そもそもADSL事業者がこれらの技術を自社のサービスに取り入れることが前提条件となる。そのうえで,高速化を狙ったS=1/2とG.992.3のメリットを享受できるのは,局から近く回線状態の良いユーザーに限られる。誤り訂正に使っていた部分をデータ伝送に利用するS=1/2では,それだけ伝送エラーが少ない回線でないと,生きてこない。高い周波数帯域を利用するG.992.3も,周波数が高い信号でも減衰が少ない回線でないと速度は向上しない。

 一方の長距離化技術は,回線品質の問題で今はADSLが使えない都市部のユーザーを救いそう。いずれにせよ,これらの新技術がADSLのインフラ能力をアップさせるのは間違いない。どうやらADSLにはまだまだ改良の余地がありそうだ。

山田 剛良