TCP/IP誕生 インターネットはここから始まった
電話回線でIMPをつなぐARPANETが動き始めた70年代初頭,別のコンピュータ・ネットワークとして無線を使ったパケット通信ネットワークができつつあった。こうなると,無線ネットもARPANETと接続したくなる。「ほかのネットワークをARPANETにつなげるにはどうすればよいのだろうか」。
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ロバート(ボブ)・カーン インターネットの基本コンセプトを考えた。TCP/IP開発者の一人。現在,自ら設立した非営利団体「Corporation for Natinal Research Initiative」のCEO兼Presidentを務める。 |
ゲートウエイにデータを投げる
このプロジェクトによってインターネットの形が見えてきた。「ARPANETはインターネットの起源とはいえるが,インターネットそのものとは言えない。インターネットとは,ネットワーク同士をつなぐというコンセプトであるからだ」(カーン)
まったく違うネットワークをつなぐには,なにが必要なのだろう。カーンは,ネットワークの間に「ブラックボックス」を設けることを考えた。ほかのネットワークのホストにパケットを送る場合,直接ホストに投げるのではなく,ブラックボックスに投げる。ブラックボックスは,それぞれのネットワークからはホストのように見える。ネットワークの違いを吸収して,パケットを中継させるのである。このブラックボックスがのちの「ゲートウエイ」,現在の「ルーター」となる。
ここでIMPとゲートウエイの違いを確認しておこう。IMPはARPANETという一つのネットワーク内だけで動作する。
一方のゲートウエイ(ルーター)は,ARPANETだけでなく,アドレス体系やパケットのサイズが違う別のネットワークでも動作するのである。
カーンはブラックボックスを設けるというコンセプトを考え出したが,実装についてはあまり経験がなかった。ここに,当時スタンフォード大学にいたビントン(ビント)G・サーフが登場する。カーンとサーフは共同で細部の検討を始めた。
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写真6 フェアモント・サンフランシスコの外観とロビー サンフランシスコのダウンタウンにある。サーフは,この椅子に座って“ゲートウエイ”を描いたのだろうか。 |
「ホテルのロビーで座っていたとき,カーンと話し合った内容をまとめてみようと思った。そこで,ポケットにあった封筒を取り出して,その裏にネットワーク構成を描いてみたんだ」。これが,第一部の冒頭で紹介したインターネットのアーキテクチャの概略図のメモである。
ネットをつなぐプロトコルが完成
カーンとサーフは共同作業で,インターネットを実現するプロトコルの開発を進めた。1974年,ついにそのプロトコルが完成する。プロトコルは「TCP」(transmission control protocol)と名付けた。
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図4 初のネットワーク接続実験 三つの異なるネットワークをTCPで相互接続する実験。1977年に実施された。図中の「G」はゲートウエイ。点線は実際にパケットが通った経路を示している。 |
・グローバル
・アドレス
・ネットワーク番号とホスト番号
・ポート番号
・パケットの分解と再構成
・再送処理
・フロー制御
このとき作られたTCPは,いまあるTCPとは別物である。現在のIPの機能も含んでいた。ちょうどいまのTCPとIPの機能を併せ持つプロトコルだった。
1977年,いよいよTCPを使ったネットワーク接続実験が始まった(図4[拡大表示])。ARPANETとほかの無線ネットワークをゲートウエイで接続し,パケットを送ったのである。実験は,一つのパケットも欠落せず,見事に成功した。TCPの実用性が証明されたのである。