TCP/IPの入門書はどれ?
スティーヴンスの本は有用だが,プロ向けの内容である。カマー本は入門書としてはかなり敷居が高い。TCP/IPをこれから学ぶ人は,どんな本を読めば良いのだろうか。『COMシリーズ 図解TCP/IP入門』は,初版が1992年に出版されたかなり古い本だが,入門書としての評価は高い。TCP/IPの動作を図入りでていねいに説明している。インターネットの普及以前に書かれているので,「かえってTCP/IPの本質に絞った内容になっており,理解しやすい」(多摩大学大学院の井上伸雄教授)。薄い本なので読む意欲がわくという点もお薦めである。
現在,入門書として圧倒的な人気を誇るのが『マスタリングTCP/IP入門編 第2版』である。1994年に初版が登場して以来,異例のロングセラーを続けている。現在手に入れられるのは第2版だが,2002年1月には改訂第3版が登場する予定だ。
著者の竹下隆史氏はネットワンシステムズの技術者で,シスコシステムズのルーターを国内に紹介した一人。もともと「営業マンにTCP/IPを理解させたかった」という動機で書かれており,TCP/IPネットワークの概略をつかむには最適な一冊である。
典型的な読者像はアライドテレシスのシステム・エンジニアである中村愛氏のような例だろう。中村氏は入社後に畑違いの営業部門からSE部門に転籍した経歴の持ち主。「分量的にはかなり読み応えがあったが,日本語が読みやすくて説明がていねいなのが良かった」と話す。文字通り本がボロボロになるまで何度も読み返したのは,結局この本だけだという。
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ネットワンシステムズの高橋真樹氏。同社教育センターで教育プログラムなどを担当。 |
なお,このシリーズには『マスタリングTCP/IP応用編』もある。ただ,こちらはTCP/IP Explainedの翻訳で,竹下氏はかかわっていない。内容は入門編よりも詳しいが「訳書なので,入門編ほど読みやすくはない」(静岡大学の石原助教授)という意見もある。
国内の英知を集めた新しい教科書
『岩波講座 インターネット』は国内有数のインターネット研究者が集まって書き下ろした本である。目指しているのはインターネットを中核に据えた新しい教科書だ。全6巻の予定だが,4巻だけは出版が遅れている。
1巻は入門的な内容,2~5巻は非常に詳細な技術解説,6巻はインターネットの社会的影響を論じた内容になっている。大学の教科書をねらった内容なので,『マスタリングTCP/IP』のような親しみやすさはない。
その分,とくに2~5巻がそうなのだが,ほかのどんな本にもない詳しい技術解説が掲載されている。例えば,3巻の「トランスポートプロトコル」はTCPだけに絞っており,再送制御,フロー制御,輻輳(ふくそう)制御といった技術が事細かに記述されている。シェアウエアのLANアナライザPacMon(パックモン)の開発者であるレイヤーの田中宣彦氏は「プロトコル・スタックを開発するときに本当に役立つ」と評する。
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COMシリーズ図解TCP/IP入門 著者 :西田竹志 監修 :野口正一 出版 :オーム社 ページ :180ページ 価格 :2600円 ISBN :4-274-07709-8 |
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マスタリングTCP/IP入門編 第2版 著者 :竹下隆史, 村山公保,荒井透,苅田幸雄 出版 :オーム社 ページ :294ページ 価格 :2200円 ISBN:4-274-06257-0 |
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岩波講座 インターネット 第1巻インターネット入門, 第2巻ネットワークの相互接続, 第3巻トランスポートプロトコル, 第5巻ネットワーク設計理論, 第6巻社会基盤としてのインターネット 著者:小西和憲,村山公保,西田佳史,堀良彰,山口英ほか 編集委:尾家祐二,後藤滋樹,西尾章治郎,宮原秀夫,村井純 出版:岩波書店 ページ:222ページ,224ページ,277ページ,245ページ,291ページ 価格:3600円,3800円,4000円,4000円,4000円 ISBN:4-00-011051-9,4-00-011052-7,4-00-011053-5,4-00-011055-1,4-00-011056-X |