意外に難しい損得の判断

 使い方によっては大幅なコスト低減効果をもたらすユーティリティ課金だが,採用に当たっては当然のことながら,普通に製品を購入するケースなどと比較して損か得かを見極めるシミュレーションが必要となる。しかし,これが意外に複雑だ。

図3●ユーティリティ課金のコスト構造。32CPUを搭載した日本ヒューレット・パッカードのサーバーhp Superdomeを購入する場合
CPUの平均使用数が少ないほど割安になる。処理量の季節変動が大きい用途や処理量が予測できない用途のシステムに向いている
 例えば,日本HPがUNIXサーバー*4に適用しているユーティリティ課金の仕組みは次の通り。製品価格の72分の1を基本料金とし,これにCPUの平均利用個数に応じた料金を加算して,月額の利用料金とする。CPUを32個搭載したhp Superdomeで,平均16個のCPUを稼働させ続けた場合,加算する料金は製品価格の72分の1。つまり3年間で陳腐化することを前提とすると,搭載したCPUの半数を稼働させ続けたケースで普通に購入するのと同程度の料金となる。稼働CPUの平均が搭載CPUの半分の16個を超えるとユーティリティ課金は割高になり,下回れば割安になる(図3[拡大表示])。

 日本ユニシスがアウトソーシングの一環として採用している「ITユーティリティ・プライシング」では,使っている製品にかかわらず,トランザクション量やデータ量に応じて課金する。ディスクに保存するデータ量を基準に従量課金する場合,基本料金,A料金,B料金という3段階の料金を設定する。データ量が少なければ基本料金のみ。多ければ基本料金にA料金,さらにB料金を加算した額を課金する。一時的にデータ量が急増し,その後基本料金のレベルまで減少した場合は,急増した期間分のA料金とB料金を基本料金に加算する。基本料金,A料金,B料金をどのレベルに設定するかは,個別対応である。

 プリペイド型の課金は,仕組みとしては分かりやすいが,使用量の定義のやり方によっては料金が高いか 安いかを判断しにくい。PALTIO4は「ソフトバッテリ」と呼ぶ使用ライセンスを「ユニット」と呼ぶ単位で購入するが,図面を1枚作るのに何ユニット必要なのか,慣れないとイメージするのは難しい。「度数キー」と呼ぶ使用ライセンスで利用量を管理するサイボウズのDBメーカーも,1度数がデータベース1個に対応しているわけではない。ユーザーは,集計表を見なければどの程度課金されているのかが分からないのが実状だ。この辺りはベンダー側の工夫を待つほかない。

予算が立てにくい

 料金の妥当性が確認できても,まだ3つの課題が残る。

 第1に,一部の製品だけをユーティリティ課金にしても効果が薄いこと。ぷららネットワークスは顧客管理用のDBサーバーにサン・マイクロシステムズのCOD*5を採用したが「使用していないCPUに対してもソフトウエアのライセンス料金が発生する可能性もあり,ソフト・ベンダーとも個別に交渉する必要があった」(技術開発部長 永田勝美氏)と言う。こうしたジレンマを解消するベンダー側の動きも出てきた。日本HPは,これまでUNIXサーバーにユーティリティ課金を採用してきたが,これをミドルウエアとストレージに拡大する*6

 第2には,資産の所属があいまいなこと。製品をセットアップした後でそれを使わなければ,その時点でそれはユーザーの資産なのか,ベンダーの資産なのか,あるいは在庫なのか。実はこの解釈はベンダーによって異なる。UNIXサーバーの例で言うと,サン・マイクロシステムズはCPUの所有権と使用ライセンスを分け,所有権のみ契約時に資産としてユーザーにすべて移転させ,使用ライセンスは稼働させるタイミングで移転する。一方,日本HPはCPUが稼働するまでCPU自体がベンダー側の資産となる。どちらにするかで経理や税金の処理が変わってくるため,ベンダーに確認しておく必要がある*7

 第3の課題は,予算が立てにくくなること。ユーティリティ課金では,その期が終わるまでどの程度の料金を払えばいいのか確定しない。DBメーカーで顧客管理システムを構築した,松下電器産業 AVC社ITプロダクツ事業部マーケティングセンターサービスグループ 左近充正人氏も「初期投資と運用費があらかじめ試算できた従来の考え方とは全く違う。社内でコンセンサスを得るのに苦労した」と語る。

 それを押してでもDBメーカーを採用したのは,通常の買い切りよりも確実に割安になると判断したためだ。ITプロダクツ事業部では70台の端末で当初システムを構築し,いずれ1000台規模に拡張する計画がある。端末数が急増しようが,ハードをいくら増強しようが,データベース数に応じた課金なら使用量はさほど増加しないと見ている。

 料金体系も,製品選択の新たな基準の一つになってきた。

(尾崎 憲和=ozaki@nikkeibp.co.jp