写真1●代理店業務支援システム「SUCCESS」
1989年当時のSUCCESSはDOS版だった。写真は現在のWindows版のメニュー画面(左)と見積書作成の画面(右)
AIUは代理店向けに,業務を支援するシステム「SUCCESS」,「インターネットSUCCESS」などを提供している。それぞれVBで開発したスタンドアローンとWWW/DB連携のシステムであり,必要な機能要件によりシステム形態を使い分けた。また,業務要件と共に増大したプログラムが旧型マシンでは動かないという問題は,メモリー消費を効率化するように修正して解決。遠隔操作や操作ログなどによって障害の切り分けにも工夫を施した。

  外資系損害保険会社のエーアイユー(AIU)は1989年,全国に数百ある代理店向けに業務支援システム「SUCCESS」(写真1[拡大表示])を開発,配布した。保険契約の見積書や申込書の作成などを行うスタンドアローンのシステムである。当初はDOS版だったが,OSをWindowsに変え,現在はVisual Basic(VB)で構築したシステムとなっている。

 SUCCESSはこれまで,Windowsへの移植だけでなく,保守のための遠隔操作機能,入力データの妥当性をチェックする機能など,機能強化を続けてきた。さらに,1998年12月にはインターネット経由で契約データの照会や新商品の試算を行う「インターネットSUCCESS」を,1999年12月にはSUCCESSで生成した申し込みデータを公衆電話網やISDN経由で本店へ転送する「ダイレクトアップロード(以下アップロード)」を稼働開始した(図1[拡大表示])。

 ここまでの仕組みが出来上がったことで,現在,約1800まで増えた全代理店から国内のデータ・センター経由で米国の本社へデータを送信し,証券の作成までを自動化できるようになった。特にアップロードの導入で,データ入力といった代理店と本店で重複する業務をなくし,物流コストも削減。契約申し込みから保険証券発行までの期間を約10日から1日に短縮し,代理店への支援を強化できた。

 約10年間にわたる機能強化や新システム構築でのポイントは,いくつかある。一つは,操作性やレスポンスを重視するか,データやロジック変更のリアルタイム性を重視するかでシステム形態を使い分けていること。具体的には,スタンドアローン+データ・アップロードと,WWWアプリケーションである。雑多なマシン環境でも稼働できるように,アプリケーション開発や障害の切り分けで工夫していることも,構築のポイントである(図2[拡大表示])。

図1●システムの概要
代理店の業務を支援するシステムは3つある。保険の見積書や契約申込書を作成する「SUCCESS」は,Visual Basicで作成したスタンドアローンのシステム。契約データの参照や新商品の試算をする「インターネットSUCCESS」は,インターネット経由で直接AIU本店にアクセスするWWWアプリケーションである。1999年12月に稼働開始した「ダイレクトアップロード」は,SUCCESSで作成した契約申し込みデータを本店に転送する仕組みを提供するデータ転送システムだ
図2●システム構築のポイント

ホストのチェック機能をローカルに

 SUCCESSの歴史は,約10年前に始まった(図3[拡大表示])。最初はDOS版だったが,その後Windows版に移行。ユーザーの操作性やレスポンスを重視して,基本的にはローカル・データベース(DB)にVBアプリがアクセスするスタンドアローンのシステムとした。

 Windows上のローカルDBの製品として,当初はMicrosoft Accessが候補に挙がった。しかし,アプリケーションの保守性からAccessはやめた。Accessではテーブル・データとDB操作のロジックを一つの「.MDB」ファイルとして管理する。そのため,テーブルだけ,または処理ロジックだけを変更したい場合でも,MDBファイル全体を差し替える必要がある。SUCCESSは機能強化などのバージョン・アップに対し,フロッピ・ディスク(FD)を代理店に送付して対応している。差し替えは最小限に抑えたいため,別製品を選んだ。

 その後SUCCESSは多くの機能強化を施したが,基本的にはスタンドアローンのシステムである。例えばアップロードの導入に伴い,入力した車名が実在するかといったデータに矛盾がないかどうかのチェック機能を強化した。米国本社の基幹系システムが備える機能の多くを,ローカルDBにVBアプリがアクセスする形態で移植した。スタンドアローンに固執したのは本店にアクセスできない環境で利用するユーザーを考慮に入れたからである。

即時性が必要なアプリはWWWで提供

 ただ,FD送付によるバージョン・アップでは,当然,迅速なシステム変更ができない。例えば,保険金支払い額を決めるための条件が変わった,新商品が登場した,などの場合,それらの試算を行うには,SUCCESSではFDの到着を待つしかない。そこで,新商品の試算などはWWWアプリケーションとして用意した。これがインターネットSUCCESSである。代理店はインターネットに接続すれば,WWWブラウザを用いて最新の条件で試算できる。

 このほかインターネットSUCCESSでは,代理店が本店に依頼した申し込みのステータス状況も照会できる(図4[拡大表示])。同システム稼働前は,本店から各代理店にFAXで送っていた情報である。それをWWWブラウザでリアルタイムに直接参照できるようにした。

マルチプラットフォームで動かす

 スタンドアローンとはいえ,SUCCESSの機能拡張は容易ではなかった。利用している代理店の規模や参入時期がまちまちであり,かつ各代理店は自己負担でパソコンを購入,管理する。「代理店は一度システムの環境を構築したら,ほとんど変更しない」(代理店システム部の小島健吾氏)ため,代理店によってマシン性能や環境が大きく異なるからだ。

図3●システム構築の流れ
1989年に最初にカットオーバーしたのは,保険の見積書や契約申込書の作成機能を備えたDOS版「SUCCESS」。以後,Windows3.1/95/98への対応や動作検証,ワープロ・ソフトのバージョン・アップに伴う修正,機能強化などを繰り返した。1999年12月,物流コスト削減のために「ダイレクトアップロード」を全店舗に導入した
図4●用途などに応じてシステム形態を使い分け
見積書や契約書の作成では入力データを細かくチェックする必要があり,また,代理店の人が使いやすいように高い操作性やレスポンスが要求される。そのためSUCCESSは,ローカルDBにVBアプリがアクセスする形態にした。一方,最新の契約情報の照会や新商品の試算では,データやロジックのリアルタイム性が必要なのでWWWアプリケーションとした
表1●導入前に動作確認をするテスト環境

 もちろん,各代理店の環境に合わせて個別にアプリケーションを開発するわけにはいかない。すべての環境で稼働する,一つのアプリケーションが必要だ。SUCCESSでは,表1[拡大表示]のような代理店の環境サンプルとなるマシンを集めたテスト環境を用意。新バージョンを配布する前に,すべてのテスト・マシンで動作するかを確認している。

 問題となりやすいのが,マシン性能の違いである。早くからSUCCESSを導入していた代理店で利用しているパソコンは,新規に加わった代理店に比べると旧型で,CPU性能は低く,搭載メモリーも少ない。機能強化をした新バージョンが,旧型マシンではメモリー不足で動かない,という事態が出てきた。「要求が増えるごとにプログラム・モジュールも増え,2~3行追加しただけで動かない(マシンが出てくる)こともあった」(代理店システム部の佐方宏明氏)。

 この問題は,複数のプログラムで共通に使えるロジックを洗い出し,DLL(Dynamic Link Library)として実行ファイルと別にすることでメモリー消費を効率化し,解決した。例えば入力データのチェック機能。フィールドごとに入力されたデータが正しいかどうかを細かくチェックし,ユーザーによる入力ミスをできるだけ防ぐ部分は,DLLに書き換えることで同じフィールドを使っている複数のプログラムで共有化できた。全角文字を半角に変換したり,空白文字を取り除いたりする機能も共有化した。

 DLLによる共有化は,バージョン・アップ部分を最小化することにも役立った。つまり,ロジック部分の実行ファイルに手を加えずともDLLの変更だけで済むケースがあるからだ。

バージョンの違いがいたずらする

 アプリケーションが環境の違いで影響を受けたのは,ほかにもある。一つはマシンにインストールされた他のOAソフトのバージョン。SUCCESSは見積書の印刷用に帳票を作成する機能を備えており,この部分にワープロ・ソフト「Microsoft Word」を利用している。SUCCESSが呼び出すWordの実行ファイルが存在するディレクトリのパス名は,代理店にSUCCESSを導入する際に,その時の環境に合わせて設定して「.INI」ファイルに記述している。

 ところが,ユーザーが勝手に新しいバージョンのWordをインストールし,「Wordのバージョンによってインストールされるディレクトリが違っていた」(小島氏)ために,SUCCESSからWordを呼び出せなくなってしまったことがあった。結局,代理店に渡すFDに入ってる更新用プログラムに,実行ファイルの存在するディレクトリを検索し,INIファイルにあるパス名を書き換えるスクリプトを加えて対処した。

写真2●問題を切り分けるためのログ・ファイルの画面例
様々な環境下で動作させるため,アプリケーションの不具合への対応も迅速に行う。要所でログを記録するようにし,原因を素早く究明する

遠隔保守とログで障害に素早く対応

 運用保守面にも気を配っている。代理店のユーザーは,必ずしもコンピュータに詳しいとは限らないからだ。

 同社は,ユーザーからの問い合わせを一括して受け付けるコール・センターを設けている。しかし,電話だけでは状況が分かりにくいことが多い。そこで各マシンに米Symantecのリモート・コントロール・ソフト「pcAnywhere」をインストールし,本店から代理店のマシンを遠隔操作できるようにした。SUCCESSのメニュー画面右端にある同社のロゴ(写真1左参照)をクリックすると同ソフトが起動され,本店から遠隔操作可能な待機状態になる仕組みだ。電話だけの対応に比べ,トラブル・シューティングの効率は格段によい。

 さらに,ユーザー操作のログを細かく取る機能も,障害時の切り分けを容易にする(写真2[拡大表示])。トラブルが生じると,コール・センターではユーザーに対して,どのアプリケーションを使っていたのか,どんな操作をしたのか,といったトラブル時の状況を聞いて対処する。しかし,状況をはっきり覚えていなかったり,きちんと説明できなかったりする場合もある。そんな時,操作ログは,ユーザーの説明を補完してくれる。前述のリモート・コントロール・ソフトでログ・ファイルを開いて原因を究明するわけだ。

 例えばデータベースの更新処理をする際,その処理が終了する前にユーザーが別のアクションAを実行する操作をして異常が発生したとする。ログ・ファイルには更新処理の開始とアクションAを実行したという記録が残る。通常は更新処理の開始と終了が対になってログに残るはずが,終了が記録されずにアクションAの実行が記録されていれば,それをトラブルの原因と考えて検証できる。

セキュリティ対策も欠かせない

 最も新しいシステムであるアップロードは,ダイヤル・アップ接続でデータをファイル転送するというシンプルなものだが,効果は大きい。

 アップロード導入以前,代理店は申込書を作成すると,支店経由で持ち込み,もしくは郵送で本店や事務センターに届けていた。事務センターでは届いた原票を基にデータ入力し,米国のホストにファイル転送。ホスト側でデータをチェックし,証券を発行する。つまり,代理店側と事務センター側でデータを2度入力していたわけだ。また,できるだけ早く証券を発行したいという意図から,代理店では1日に何便も原票を送り,郵送費がかさんでいた。アップロードの導入で事務センターの業務を効率化し,郵送費を削減,証券発行期間も大幅に短縮できた。

 ただ,アップロードやインターネットSUCCESSは公衆電話網やインターネット経由でシステムに入ってくるため,セキュリティ面が心配だ。ここでは詳しくは説明できないが,この点も考えている。アップロードではファイアウオールの外に専用サーバーを置き,こまめにデータを内側に取り込んではデータを削除している。インターネットSUCCESSでも,米国本社にあるホストのDBや日本の本店のDBへは,DMZ(非武装地帯)内に配置したWWWサーバー上にあるASP(Active Server Pages)のアプリケーションからしかアクセスできないようになっている。

 また,SUCCESSをモバイルで利用する代理店もある。モバイル利用の場合は,利用できる機能を制限している。モバイルでは本店へのデータ送信をしないため,「受付処理」や「送信処理」といったメニューを省くとともに,顧客データの漏えい防止のため,営業社員の担当している契約者のデータのみを持ち歩くようにした。そのためSUCCESSには,契約データを担当者別に抽出する機能を用意している。

(相馬 隆宏=souma@nikkeibp.co.jp


システム概要

図A●システム構成

 約1800店舗の代理店では,見積書や保険申込書の作成などするシステム「SUCCESS」や,SUCCESSで作成した申込書のデータを本店に転送するシステム「ダイレクトアップロード」を利用する。アップロードのデータの流れは,各代理店に配置したパソコンからモデム経由で公衆回線にダイヤル・アップ接続し,本店内にある「外部アップロード・サーバー」にデータを送信する(図A[拡大表示])。
 外部アップロード・サーバーに渡ったデータは直ちにファイアウオール越しの社内LANに接続した内部アップロード・サーバーに送られる。さらに,データ・センター経由でデータを送ってきた代理店を管轄している各支店ごとの事務センターと米国の本社に転送する。基本的に代理店から送られてきたデータはそのまま米国のホストに行き,証券が発行されるが,口座振替依頼のある申し込みなどは事務センターで一旦保管され実際に口座振り替えの手続きが完了した後でデータの送信をする。
 ホストで無事に証券の発行が済んだ契約データは,本店にもファイル転送で送られデータベースに格納される。代理店からはWWWブラウザを介して契約データを照会できる。データに誤りがあって証券を発行できなかったものは,事務センターに戻されるので修正を加えた後に再度送る必要がある。
 このほか,代理店は任意のISP(インターネット・サービス・プロバイダ)経由でインターネットに接続し,DMZ(非武装地帯)にあるWWWサーバー上に構築したASP(Active Server Pages)やドミノのアプリケーションから成る「インターネットSUCCESS」を利用する。前述の契約データの照会のほか,新商品の試算や営業支援情報などの閲覧が可能だ。