中小企業診断士は,中小企業の経営課題に対して診断・助言を行う専門家である。この資格は中小企業支援法で定められているもので,国家試験の中小企業診断士試験に合格すると取得できる。この資格が作られた当初の目的は,地方自治体や公的機関が補助金を交付したり,お金を貸し付けたりするときに,その対象企業を診断(「公的診断」という)することだった。意外と知られていないが,平成13年度にはその目的が改められ,民間の経営コンサルタントとしての能力を証明するための資格となっている。

ソフトウエア技術者にも関連がある

 日本のほとんどの会社や企業が中小企業で,今やその多くに情報システムが導入されている。したがって,ソフトウエア技術者と中小企業は切っても切れない関係にあり,情報処理技術者試験などを突破した上級のソフトウエア技術者の中には,中小企業診断士を目指す人も多い。上級情報処理技術者試験を制覇したソフトウエア技術者には,大きく二つのキャリアパスが考えられる。さらに技術力を磨こうとする人は技術士(第3回で紹介)へ,経営やコンサルタント力を磨こうとする人は中小企業診断士(情報部門)へという流れだ。中小企業診断士と地方自治体の公的診断担当部署との結び付きが強かったため,ソフトウエア技術者出身で中小企業診断士を取得した後に独立して,公的診断担当者や相談員に転身するケースも多かった。

平成13年度から新試験制度へ

 企業の診断は,自治体などの公的機関が依頼する「公的診断」と,銀行や企業が依頼する「その他の診断」に大別される。前述のとおり,従来の制度は公的診断を担当する者という意味合いが強かったが,平成13年度からの新制度では民間の経営コンサルタントとしての能力を認定するものとなった。そのため,鉱工業,商業,情報という3部門制が廃止となり,試験内容は統一された。ただ3部門制が廃止された後でも,弁護士,税理士,公認会計士,技術士などの特定の有資格者に対する試験科目の一部免除制度は残っている。ソフトウエア技術者に最も関係の深い「経営情報システム」科目は,情報処理技術者試験合格者(システムアナリスト,アプリケーションエンジニア,システム監査,プロジェクトマネージャ,ソフトウエア開発,第1種,情報処理システム監査,特種)には免除される。

資格取得までの長いみちのり

 中小企業診断士試験は情報処理技術者試験などと異なり,1日だけでは終わらない。まず第1次試験と第2次試験をパスしなければならない。第2次試験合格後も実務補習または実務従事が待っていて,合わせて3ステップを踏んでようやく有資格者となる。

 第1次試験は筆記試験で,「経済学・経済政策」,「財務・会計」,「企業経営理論」,「運営管理(オペレーション・マネジメント)」,「経営法務」,「新規事業開発」,「経営情報システム」,「中小企業経営・中小企業政策・助言理論」と全部で8科目ある。それぞれ60分あるいは120分の試験で,土・日曜日の2日間にわたって行われる。例年7月下旬~8月上旬に実施されている。

 第2次試験には筆記試験と口述試験があり,第1次試験の合格後,その合格年度または翌年度に限って受験できる。筆記試験は中小企業診断の実務に関する問題で,4問を各80分で解答する。口述試験は助言に関する能力を確かめるための面接形式(約10分間)で,筆記試験後に「口述試験を受ける資格」を得た者だけが受けられる。

 第2次試験に合格した後,実務補習または実務従事と呼ばれる実習を,実に15日間も受けなければならない。以前の制度では,この実習に費やす時間を作るために会社を辞める人も多かったが,新制度になってからは8日間コースも設けられた。現在は15日間コースか,8日間コースを2回のいずれかを受講すればよい。8日間コースの実施場所は今年の試験から全国に広がり,実務補習を受ける環境は着実に改善されている。だが,実務補習費用が相変わらず10万円以上かかるという障壁が残っている。

 ここまでの長いみちのりを見ると,意気消沈してしまう人も多いかもしれない。だが,受験者数は着実に増えており,その人気は高い。いったい,その魅力はどこにあるのだろうか。

大学生にも人気が出てきた

 それはなんといっても,経営コンサルタントとしての能力を証明する唯一の国家試験であるというアピール力だ。経営コンサルタントになっても必ずしも成功するとは限らないが,独立の可能性を考えたり,自分の専門性を生かせるコンサルタントになりたいと思っていたりする人は多いはずだ。そのような人は中小企業診断士がぴったりといえる。

 中小企業診断士の間口は広い。すでに挙げた第1次試験の科目を見ると,経済だけでなく,ソフトウエア技術や経理・税務など多方面にわたっている。試験科目を見ることによって,経営コンサルタントになるための道筋が具体的に示されていると言えるだろう。

 また,以前は記述式だった第1次試験が,新制度ではマークシート方式に変更された。このため平成14年度は受験者が増え,合格率も大幅にアップした。中小企業診断協会は受験者層や合格者層の具体的なデータを発表していないが,経営学部や法学部などの大学生の受験も多くなったようだ。資格専門学校では大学生向けの中小企業診断士試験講座が好評と聞く。一般企業や大学生の受験者は,「中小企業の経営診断に従事する者」と定められた中小企業支援法の主旨からずれている――という意見もあるが,中小企業診断士試験の受験者に制約があるわけではない。