●2002年上半期に,大手PCサーバー・メーカー5社から「ブレード型サーバー」と呼ばれる,CPUの搭載数を高めた新しい形状のサーバー製品が続々と登場した。
●設置面積や消費電力を抑えたいというユーザー・ニーズにこたえて,ノート・パソコンで培った高密度実装や低消費電力などの技術を応用して開発された。
●現在,登場している製品は高密度実装タイプと性能重視タイプの2つに分けられる。今後,メーカーは製品ラインを増やしていく考えだ。

図1●高密度実装のコンパックコンピュータ「ProLiant BL e-Class」
3Uのエンクロージャに20枚のCPUブレードを収容する。42Uのシステムラックを全部埋めると,260個のCPUが搭載でき1Uの薄型サーバー(2CPU)に比べて6倍以上の実装密度を実現する
表1●主なブレード型サーバーの仕様
 PCサーバーをシステム・ラックへ効率的に収容するための「ブレード型サーバー」(図1[拡大表示])が2002年の初めから続々と登場した。主要PCサーバー・メーカー5社がブレード型サーバーを手掛けている(表1[拡大表示])。

 ブレード(Blade)とは「葉」や「刀身」を意味する。プロセッサやメモリー,ハードディスクなど,電源ユニット以外の部品が基板上に実装されたものを「CPUブレード」「CPUモジュール」などと呼ぶ。CPUブレードは部品がむき出しなので,「エンクロージャ」または「ベースシャシー」と呼ぶ専用ケース(電源を内蔵)に収容して使用する。

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)以外の製品は,高さ3U(1Uは44.5mm)のエンクロージャに6~20枚のCPUブレード,CPU数にして12~40個を搭載できる。高さ約2m(42U)のシステム・ラックに500個以上のCPUを収容できる計算だ。ラックマウント型サーバーが1U当たり最大2個のCPUなのに比べて,CPUの実装密度は最大6倍以上と飛躍的な向上を果たした。

 ブレード型サーバーの用途は,インターネット・データ・センターや大企業のフロントエンドWebサーバーを想定している。加えて,システムを簡単に拡張できるため,「初めからケースにCPUブレードを詰め込むのではなく,システムの拡張に合わせてブレードを買い足すような小規模ユーザーにも向く」(富士通 IAサーバ事業部第二技術部長の木村 敏幸氏)としている。

ノート・パソコン向け部品の小型化・省電力化技術を応用

 薄型のラックマウント型サーバーが普及したように,高密度実装のニーズは以前から強かった。だが,この時期にブレード型サーバーの発売が集中したのは,ブレード型サーバー向けに最適化されたCPUやハードディスクが登場したことによる。

 CPUは,ノート・パソコン向けの微細製造技術を使った消費電力の非常に低いものを採用している。高密度に実装したときの発熱問題を回避するのが狙いだ。ノート・パソコン向けのCPUと異なる点は,デュアルCPU構成が可能なことである。ハードディスクも,外形寸法は2.5インチのノート・パソコン用と同じだが,回転軸は従来のボール・ベアリングでなく耐久性の高い流体軸受けタイプを使っている。24時間運用のサーバー用途にも耐えうる設計になっている。

 電源ユニットや冷却用ファンを複数のサーバーで共有/集約したことも高密度実装と省電力に貢献している。当然,これらは2重化できるので,耐障害性は高い。また多くの製品がスイッチング・ハブをケースに収容できるので,ラック背面のケーブルを少なくできるのもメリットの1つだ。

高密度実装と性能重視の2種類に大別

図2●ブレード型PCサーバー登場の背景
薄型(1~2U程度)のラックマウント型サーバーをWebサーバー用に使っていたデータ・センターからの要望で,より集積度を高めた「ブレード型サーバー」が登場した
図3●性能重視のNEC「Express5800/BladeServer」
高密度実装タイプのブレード型サーバーに搭載されたCPUと比べて高性能な1.26GHzのPentiumzLを2個搭載する。1枚のCPUブレードに対して2台のハードディスクを接続でき,信頼性の高いRAIDシステムを構成できる
 各社のブレード型サーバーは,CPUの搭載数を追求した「高密度実装タイプ」(図2[拡大表示])とCPUやハードディスクに高性能な部品を搭載する「性能重視タイプ」(図3[拡大表示])の2種類に分けられる。高密度実装タイプはコンパックコンピュータ,富士通の製品。NEC,デルコンピュータ,日本HPの製品は性能重視タイプである。

 高密度実装タイプ(コンパック,富士通)の製品はともに2.5インチのハードディスクをCPUブレードに搭載している。CPUの動作周波数は1GHz以下と低速だが,その分,発熱が抑えられている。ハードディスクも回転数が低く,データ転送速度は遅い。

 しかし,「オンボードのハードディスクはあくまで起動用OSや管理ツールなどを入れておく最低限のもので,アプリケーションやデータは外部に接続するディスク・アレイ装置から読み出す」(コンパックコンピュータ IAサーバ製品本部製品企画部の香取明宏部長)。用途としては,「ハードディスクのアクセスが少ない,オンメモリーで扱える処理に向く」(富士通の木村氏)という。

 一方,性能重視のNECとデルコンピュータは,他のブレード型サーバーと比べて高速な1.26GHzのPentium IIIを2個搭載する製品を用意した。日本HPのCPUブレードは現在700MHzのPentium IIIを搭載するものだけだが,2002年下半期にPentium 4を搭載したCPUブレードを出荷する予定だ。2003年には同じ形状のボードにItaniumを搭載する計画もある。3社の製品とも一般的なサーバー向け3.5インチ・ハードディスクを2台接続でき,RAID構成にすることが可能だ。

 NECと日本HPは,ハードディスクをCPUブレードに搭載しないで,別の基板に分けて実装している。「サーバーで1番壊れやすい部品はハードディスク。この部品は特に交換しやすいようにした」(NECソリューションズ クライアント・サーバ販売推進本部の渡辺 一敏氏)。

ラインアップの拡充を計画
“ブリック型”のサーバーも開発中

 これらのメーカーは,ブレード型サーバーのラインアップを今後増やす計画だ。コンパックコンピュータは年内に「第2段として,1つのブレードに2個のCPUを搭載した性能重視タイプの製品を準備している」(広報部)という。一方,デルコンピュータは米国での製品発表時に,高密度実装タイプも準備中であることを公表した。

 デルコンピュータはさらに,モジュール化を進めた「ブリック(れんが)型サーバー」という新しいコンセプトの製品も開発している。ブリック型サーバーの特徴は,4個または8個のCPUを搭載するハイエンドのマルチプロセッサ構成に対応できることだ。

 「CPU/メモリー」「インターフェース」「ストレージ」「電源」という4種類のブリックで構成され,れんがを積み重ねるように各モジュールを増やしていけばシステムの拡張に柔軟に対応できるという。同社はブリック型サーバーの適用分野として,データベース管理システムやERPパッケージ(統合業務パッケージ)向けのハイエンド・サーバーを想定しているようだ。

(茂木 龍太=mogi@nikkeibp.co.jp)