●マイクロソフトは「Real-Time Communications(RTC)」という新しいネットワーク・コンセプトを掲げ,電話の機能をパソコンに取り込んで両者の統合を図ろうとしている。
●Windows XPと次期サーバーOSのWindows .NET Serverが備える標準機能だけで,低コストにIP電話やテレビ電話を実現できる。

 「パソコンがテレビ電話になる」。これはWindows XPが登場したときの宣伝文句の1つである。Windows XPに標準搭載されたインスタント・メッセージング・ソフトのWindows Messengerとマイクロソフトが提供するMSN Messengerサービスを利用すると,ネットワークでつながった相手とテレビ電話で話しができるのだ。別途,ビデオ・カメラや受話器のたぐい(マイクとスピーカ)が必要だが,USB接続のビデオ・カメラと受話器なら6000円程度の出費で入手できる。

 この例は一般ユーザー向けの話だが,マイクロソフトはこの技術をベースに,“企業内”のコミュニケーション環境も一新させようと考えている。それを支えるのが「Real-Time Communications(RTC)」という新しいコンセプトの技術である。

自前のネットワークでIP電話を実現

 RTCのターゲットは,社内にある多数の電話機と交換機である。それらをWindows XPパソコンと次期サーバーOSのWindows .NET Serverを搭載したサーバー機で置き換えていこうとしている。RTC環境では,テレビ電話(あるいはIP電話)の音声とビデオ・ストリームはIPネットワーク上を流れる。

図1●Windows MessengerとReal-Time Communications(RTC)技術を使ったIPベースのテレビ電話
Windows XPには既にテレビ電話を実現するための基本機能が組み込まれている。通話したい相手の状態(通話可能,退席中などのステータス)を事前に把握できる点が特徴の1つ

 図1[拡大表示]はRTCのデモ画面である。デスクトップ上に起動しているアプリケーションはWindows XPに標準搭載されているWindows Messengerだ。画面右のダイアログ・ボックスに表示された連絡先のリストの中から電話したい相手を選び,[電話をかける]をクリックすれば相手を呼び出してくれる。相手が応答すると図のようなビデオ画像が現れて通話できる状態になる。

 一般の電話機と比べた場合,電話をかけたい相手が在籍中かどうか,状況を事前に把握できる点が特徴だ。連絡先のリストを見れば分かるように,席をはずしている人には「(退席中)」と表示されている。個々のユーザーが席を立つ前に,自分のステータスを「退席中」に変更しておけば,他の人にもその情報が伝わる仕組みだ。

 音声の品質は,ネットワークの帯域が十分確保されていれば非常によい。デモ環境では無線LANを利用して接続していたが,実効速度が十分に確保されていたため,電話で話すのと全く変わらない品質で会話できた。動画の品質も実用的なレベルだった。音声のみの通話に必要な帯域は128kビット/秒以上。動画はさらに256kビット/秒以上を加える必要がある。

処理性能と相互運用性が高いSIP

図2●Real-Time Communications(RTC)技術を使ったIP電話の基本的な仕組み
サーバーは通話の開始と終了の仲介をするだけで,通話そのものはWindows XPパソコン同士がピア・ツー・ピアで直接通信する。SIPやRTPなどの通信プロトコルはすべて国際標準

 こうしたWindows XPパソコン同士のテレビ電話を実現するためには,交換機に相当するサーバー側の仕組みも必要になる。Windows .NET Serverは,「ソフト・スイッチ」とも呼ばれる交換機相当の機能を標準搭載する予定である。

 Windows XPと.NET Serverで実現するテレビ電話のキー・テクノロジは,「SIP(Session Initiation Protocol)」という国際標準の通信プロトコルだ。SIPはIP電話の通話を開始/終了するときに利用するプロトコルで,一般の電話に例えればダイヤルして相手の電話機を鳴らし,通話を成立させるまでの手続きを実行する。

 RTC環境では,まずテレビ電話の発信元となるWindows XPパソコンが自分のIPアドレスと通話したい相手を指定し,SIPクライアント機能を使って.NET Serverに呼び出しメッセージを送る(図2[拡大表示])。.NET Server上にはSIPのメッセージを指定の相手に中継するSIP Proxyが稼働し,このSIP Proxyが相手のIPアドレスを調べてメッセージを転送する。相手のWindows XPが通話を承諾すれば,そのマシンのIPアドレスを含んだ承諾メッセージをSIP Proxy経由で返してくる。

通話段階はピア・ツー・ピア通信

 両者がお互いのIPアドレスを知り得たところでSIPのセッションは終了する。あとは両者がRTP(Real-time Transport Protocol)という音声・動画用の伝送プロトコルでピア・ツー・ピア接続し,通話を開始する。IP電話を切るときは,もう1度SIPを使って通話を終了させる。

図3●乱立していたコミュニケーション関連の技術
マイクロソフトは数多くのコミュニケーション技術を採用しているが,今後はRTCに軸足を移していく

 SIPの利点は,SIP Proxyが通話の開始と終了時にごく簡単なメッセージの中継をするだけなので,非常にスケーラビリティが高いことである。シングル・プロセッサのサーバー・マシンでも,1万ユーザー以上の通話を処理できるという。

 SIPはIP電話分野で最近にわかに注目を集めている。多くのベンダーが対応を表明していることから,今後の主流になる技術と見られている。SIPを使っていれば,ベンダーが今後提供する各種のIP電話サービスとの相互運用を期待できる。

 マイクロソフトはこれまでに,TAPI(Telephony API)やNetMeeting,MSN Messengerなど,相互運用できない音声・動画系の通信技術を出してきた(図3[拡大表示])。しかし今後は,RTCで採用したSIPベースの技術に軸足を移していきそうだ。

図4●既にRTCの対応機能が組み込まれたWindows Messenger
Windows Messenger(バージョン4.5以上)のオプション設定画面を開くと,既にRTC対応機能が組み込まれていることが分かる

社内LANの範囲なら標準機能で実現

 RTCのテレビ電話は,企業内LANの範囲で基本的な使い方をする限り,Windows XPとWindows .NET Serverの標準機能だけで実現できる。Windows Messengerはアップグレードが必要だが,バージョン4.5以上(バージョン4.6以上を推奨)ならRTCに対応している(図4[拡大表示])。初期投資のハードルの低さがRTCのメリットの1つだ。

 ただし,標準機能だけでは物足りない部分もある。そのためマイクロソフトは,Windows .NET Serverの出荷と同時期に,付加機能を提供するRTC Server(仮称)を投入する計画だ。詳細は未定だが,Active Directoryとの連携機能やコラボレーションが可能なマルチキャスト通信機能,NAT(Network Address Translation)越しのIP電話を可能にする機能などが盛り込まれる模様だ。

 今後,RTC(SIP)に対応したサード・ベンダーの通信機器やソフト,IP電話サービスなどが増えてくれば,例えば社内のパソコンと社外の一般電話機との間で双方向に電話を掛けられるようになるだろう。

使いやすい操作画面を作れる

図5●RTCを利用したアプリケーション例
あくまでも例だが,電話とPCを組み合わせると便利なアプリケーションが作れそう

 RTCはIP電話機能を実現する「ソフトウエア」なので,RTCのソフトウエア開発キットを利用してユーザー・インターフェース部分に様々な工夫を凝らすこともできる。

 例えば図5[拡大表示]左の画面のように,Webブラウザ上にIP電話のインターフェースを表示させ,直接ボタンでダイヤルするか,あるいはActive Directoryのユーザー情報を検索し,その結果を使って呼び出せる。これならダイヤルする手間が少なくなる。

 図5右の画面は,グラフィックス・ソフトのVisioで描いたオフィスの座席表の上に,各ユーザーのステータスを示したアイコンを重ねた例である。だれが在席していて,だれが不在なのか直感的に分かる。もちろん,アイコンをクリックすれば相手を呼び出せる仕組みになっている。

 これらは応用イメージをつかむためのサンプルに過ぎないが,パソコンと電話が一体化すると,いろいろと面白いアプリケーションが作れそうだ。

(渡辺 享靖=takayasu@nikkeibp.co.jp)