■静岡県を本拠地とするスルガ銀行は,マーケティング戦略を立案するための顧客管理システムを刷新した。UNIXとOracleで構築した旧システムは,Windows NTとSQL Serverをベースに再構築した。
■当初は基幹系システムにWindows NTを採用することに反対意見もあったが,プロトタイプで処理性能や安定性を実証し,採用を決めた。米Sagent Technologyのビジュアル開発ツールを使うことで,構築期間も大幅に短縮できた。

 銀行にとって,顧客のニーズをいち早く把握して営業に生かす顧客管理システムは,勘定系システムに次ぐ第二の基幹システムである。静岡県を本拠地とするスルガ銀行は,この顧客管理システムをWindows NTとSQL Serverで再構築した。

図1●スルガ銀行が再構築した顧客管理システム(MCIF)の構成図
UNIXとOracleで構築した旧システムをWindows NTとSQL Serverに置き換えた。米Sagent Technologyのツールを使い,データの抽出からデータ編集ロジック,クライアント・アプリケーションまでを統合環境で一気に作成している
 旧システムはUNIXとOracleで構築したが,今回は導入コストが安いWindows NTとSQL Serverを選択した(図1[拡大表示])。さらに,特定の目的に絞り込んで分析するデータベース(データマート)も新たに構築した。各支店にあるパソコンのWebブラウザから顧客管理システムにアクセスできるため,営業担当者自身が支店別や顧客属性別などの様々な切り口でデータを分析できる。2001年2月にデータマートがカットオーバーし,3月末までには旧システムからの移行が完了する。

旧システムは処理性能や拡張性に問題

 スルガ銀行が再構築した顧客管理システムは,顧客名や住所,取引履歴などを格納したデータベースとその分析アプリケーションである。金融機関ではこの種のデータベースをMCIF(エムシフ:Marketing Customer Information File)と呼んでいる。

 マーケティング部門は,MCIFのデータを支店別やエリア別,顧客属性別などの切り口で分析することにより,見込み客が多そうなローン商品を新たに開発したり,特定の顧客層にダイレクト・メールを送付したりといった営業戦略を立案する。「リテール(個人や中小企業をターゲットとした小口融資)を強みとするスルガ銀行では,顧客の動向をつかむのは特に重要である」(青木孝弘 執行役員 営業本部eビジネス事業部長)。同社では1996年2月から1997年4月にかけて最初のMCIFを構築したが,時が経つにつれて様々な問題が噴出してきた。

 一番の問題はデータのローディング時間だ。同社では1カ月に1度,ホスト・マシンなどのデータをMCIFに転送していた。だが,この処理に1週間近くかかるようになり,その間はMCIFにアクセスできなかった。

 システムが柔軟性に欠けていた点も課題となっていた。旧システムはC言語のプログラムとOracle上で動作するプログラム可能なSQL(PL/SQL)で開発していたため,分析項目を増やすたびに新たにプログラミングする必要があった。また,MCIFのデータは本社のマーケティング部しか利用できなかったため,「各支店で自由にデータを分析したい」というニーズにこたえられなかった。

NT選択の決め手は4分の1の構築コスト

 今回,スルガ銀行が構築したようなシステムは,UNIXで構築するのが定番で,Windows NT/2000の実績は少ないという。実は,スルガ銀行でも当初はUNIXプラットフォーム(日本NCRのTeradata)で再構築する予定だった。しかし,再構築のプロジェクトを最終決定する直前にWindows NTで進める案が急浮上した。

 計画の見直しを始めたきっかけは,Windows NTで構築する場合の見積もりが,当初予定していた金額の4分の1であったことだ。構築費用は明らかにされなかったが,地銀でも数億円と言われる金融機関の顧客管理システムでは,このコスト削減の効果は大きい。

 しかし,すんなりとWindows NTで再構築することが決まったわけではない。「コストが4分の1になるという点に大きな魅力を感じたが,社内には“Windows NTで大丈夫なのか”という反対意見も多かった」(青木執行役員)。スルガ銀行ではOracleの技術教育を進めてきたため,「これまで蓄積してきた技術を捨てるのか」といった声もあったという。システム構築を担当した電通国際情報サービスでも,Windows NTを不安視する意見があった。「スルガ銀行で想定している規模の顧客管理システムをWindows NTで構築した例は少ない。従来ならUNIXを選んだだろう」(石沢利明 金融システム事業部金融ソリューション企画部シニアコンサルタント)。

 そこで顧客管理システムを再構築するプロジェクト・チームは電通国際情報サービスと共同で,Windows NTとSQL Serverの処理性能をプロトタイプ・システムで確認することにした。

プロトタイプを2週間で構築

 プロトタイプ・システムでは,実際のMCIFで行われている処理のうち,(1)ホスト・マシンから抽出したCSVファイルを名寄せして1つのテーブルに書き込む,(2)複数のテーブルにある顧客属性情報を名寄せして,異なる形の複数のテーブルに書き込む,(3)入出金処理を集計してテーブルに書き込む――の3つの処理を行った。処理するデータ量は約50Gバイト。一番大きなテーブルには,約200万件のレコードがあった。旧システムと処理性能を正確に比較するため,プロトタイプ・システムはすべて旧システムと同じテーブル構造に基づいて設計した。

 その結果は,Windows NTで構築することを決定づけるものとなった。旧システムで13時間かかった処理が,ほとんどチューニングなしでも5.5時間で済んだからだ。処理内容によっては処理時間が10分の1になるものもあった。「マシン・スペックが旧システムよりも高いという理由もあるのだが,Windows NTとSQL Serverが実システムで十分に使えることがわかった。1週間かかっていた更新処理を1日で済ますめども付いた」(スルガ銀行営業本部営業企画マーケティングスタッフの長谷川浩平氏)。

 しかも,驚くべきことにこのプロトタイプは,電通国際情報サービスの1人のエンジニアがたった2週間で作り上げていた。開発ツールの習得からアプリケーションの開発,簡易チューニングまでである。これが開発期間を大幅に短縮する説得材料となり,システムの拡張性の容易さも証明した。

開発プロセスを大きく変えたSagentのビジュアル開発ツール

 顧客管理システムの再構築では米Sagent Technologyが提供するビジュアル開発ツールが大きく貢献した(複数のアプリケーションから構成されるが,ここではSagentと総称する)。

図2●米Sagent Technologyのビジュアル開発ツール
データベースの検索処理やテーブルの結合処理などは,グラフィカルな設計画面上で線を結んだり,条件を入力するだけで定義できる。SQL文などを入力する必要はない。なお,この画面はサンプルでありスルガ銀行で使用している処理画面とは異なる
 Sagentはデータの抽出処理,テーブルの結合処理といったデータ編集ロジック,エンドユーザーが利用する分析用画面などをグラフィカルに一気通貫で作成できるツールだ(図2[拡大表示])。従来のように,検索処理などはSQL文を記述し,処理の途中で使用する一時テーブルを作成し,分析画面はVisual Basicで作り込む,といった一連の作業を別々に実行する必要はない。

 プロトタイプだけでなく,処理パターンの多い本番システムも短期間で開発できた。アプリケーションの開発は5人で約3カ月,旧システムからのデータの移行やパフォーマンス・チューニング作業を含めても約6カ月で済んだ。旧システムでは本番稼働するまで約1年を要したのと比べると,開発期間は大幅に短縮された。

 システムを開発した電通国際情報サービスの遠田将弘 金融システム事業部金融ソリューションコンサルティング3部主任は,「テスト・データを流しながら,トライ&エラーで分析アプリケーションを作れる。処理を高速にするためにメモリーに読み込むデータ数を増やすといったチューニング作業も,画面上のパラメータを少し変更するだけでよい」と,システム開発者の負荷が軽減されるメリットも強調する。

 PCサーバーの処理性能が飛躍的に向上したことで,チューニングのやり方も少し変わってきたという。テーブル構造や,SQL文の細かな部分を変えなくても,リソースをきちんと用意すれば,それなりのパフォーマンスを出せてしまうからだ。

データの移行はDTSでほぼ自動化

 旧システムからデータを移行する作業ではOSやデータベースの種類の違いによる不具合が予想されたが,特に問題はなかった。

 通常,データベースの種類が異なれば,テーブルの定義方法も異なる。例えば,日付情報はOracleではDate型として指定するが,SQL ServerではDatetime型として指定する。扱える値の範囲も異なる。しかし,SQL Server 7.0が備えるデータ変換サービス機能(DTS:Data Transformation Services)は,データ型などの違いを自動的に変換するため,手間をかけずにデータを移行できた。

 スルガ銀行は,顧客管理システムをWindows NTで再構築した今回の経験から,Windows 2000のDatacenter Serverにも注目し始めた。「Windows NT/2000が勘定系システムを置き換えた実績はまだない。将来,勘定系システムでもWindowsによるシステム構築コスト軽減の効果が得られるようになることを期待する」と青木執行役員は語る。

(目次 康男=metsugi@nikkeibp.co.jp)