◆ユーザーの課題◆肥後銀行は,1994年から97年にかけて導入した約500台のWindows 3.1搭載マシンが老朽化していた。最新のデスクトップPC環境の整備が急務だが,ソフト/ハードともにすべて入れ替えれば多額の費用が必要となるため,その方法に悩んでいた。

◆選んだ解決策◆全クライアントPCを一括して移行するのが困難と判断した同行は,ターミナル・サービスとMetaFrameを活用。最新ソフトを必要とする業務については,サーバー側で処理する仕組みを構築した。

◆結果と評価◆1台のマシンでWindows 3.1とWindows 2000用のアプリケーションを利用できる環境が整った。低スペックの古いPCを継続利用することで,出費も必要最小限に抑えることができた。

 「マイクロソフトのクライアントOSを使い続ける限り,OSやOfficeソフトのバージョンアップは必ず数年周期で訪れる。それに伴う多額の出費は大きな痛手だ。どうにか回避できないものかと考えた末,行き着いたのがターミナル・システムだった」。肥後銀行システム部システム企画課の吉里公博課長は,マイクロソフトのOS戦略に憤りながらも,システム構築に至った経緯をこう振り返る。

 肥後銀行は2001年7月,Windows 2000のターミナル・サービス機能とシトリックス・システムズ・ジャパンのMetaFrameを活用し,行内のクライアントPC環境を一新した。導入済みのWindows 3.1マシン500台を継続利用することで,システム構築費用の大幅な圧縮に成功した。

マシンの老朽化とアプリ互換性に限界

 同行は93年,当時最新のクライアントOSであったWindows 3.1マシンを150台導入し,帳票管理や報告業務などを処理する業務支援システムを構築した。その後は,重要度の高いマシンにNT Workstation 3.51を採用。上記2つのOSを社内標準として,銀行本部や各営業拠点に順次導入してきた。今年7月の時点で,Windows 3.1マシンとNT Workstation 3.51マシンを併せると762台が稼働していた。

 導入当初から7年近く経過することもあり,PCの老朽化・陳腐化は相当に進んでいた。加えて,アプリケーションの互換性の問題も起こっていた。取引先とのやり取りに,暗号化通信プロトコルのSSL(Secure Sockets Layer)に対応したWebブラウザや最新のオフィス・ソフトが必要だったが,Windows 3.1/NT 3.51マシンでは動作しないものが多い。そのため,最新OSを搭載したPCを部署ごとに1,2台用意し,使い分けていた。その結果,銀行内には,旧世代のOSであるWindows 3.1/NT 3.51を中心に,複数OSの混在環境が形成されていた。

3つの移行プランを検討
コストと利便性が選択の決め手に

図1●肥後銀行の旧システムが抱えていた課題と新システムの特徴
肥後銀行は,7年前に導入し始めたWindows 3.1/NT 3.51マシンの他に,新規業務向けにNT 4.0マシンも随時導入していた。全社一括で最新OSへのリプレースも検討したが,費用や作業負担などを考慮して断念,ターミナル・システムの導入を決めた。

 現状のシステム構成に行き詰まりを感じた肥後銀行は,デスクトップOSの抜本的な見直しを図った。移行に当たり,3つの方法を検討した(表1)。まず,全PCをWindows 2000に統一する総入れ替えを検討したという。しかしこの方法では,「すべてのマシンが新品になるというメリットがある半面,ハード費用だけで6億円必要となる。Windows 3.1用の業務アプリケーションを作り替える手間も発生する。数年先に同様のリプレース作業が再び発生すると思うと得策ではない」(システム企画課の村上晋氏)と判断した。

 クライアントPCを順次切り替えていく案も検討したが,これでは現状の“OS混在”問題が解決されない。問題を先送りするだけなので退けた。

 最終的に同行が決断したのは,Windows 2000を利用したターミナル・システムの採用だった。ターミナル・システムとは,クライアントPC上で処理していたアプリケーションをサーバー側で代行処理する仕組み。クライアントPCの処理能力は必要最低限で済むため,古いマシンでも最新ソフトを小気味よく動作させることができる。

 Windows 2000のターミナル・サービスは32ビットOSでしか利用できないため,既存のWindows 3.1マシン環境を生かすために,シトリックスのMetaFrameを組み合わせた。Windows 3.1マシン上でWindows 2000のデスクトップ環境を実現できるようになり,同行が抱える問題の大半が解決できた(図1[拡大表示])。本システムを採用することで,システム構築費用は2億5000万円程度で済んだという。これ以外にかかる費用は,故障したPCを順次交換していくときにかかるものだけだ。

移行方法 長  所 短  所
全クライアントPCの一括切り替え ●すべてのマシンが新品になる
●OSやハードの種類を統一することで,管理負担を軽減できる
●少なくとも6億円以上の費用が必要なほか,約1000台のPCの移行作業は困難を極める
●3~5年後に,PC(OSを含む)の総入れ替えが再び発生する
ターミナル・サービスの活用 ●Windows 3.1用の業務アプリケーションとOffice 2000などの新しいソフトを1台のマシンで実行できる
●低スペック・マシンの継続利用が可能
●データの集中管理やアプリケーションの追加/変更作業が容易
●導入コストが比較的少ない(約2.5億円)
●ネットワーク・コストの増大が見込まれる
●ターミナル・サーバーの常時稼働が要求される
クライアントPCの順次切り替え ●一時的に少ない費用で対処できる ●複数のOSや新旧のアプリケーション・ソフトが混在するという現状の問題点は全く解決されない
表1●肥後銀行が検討した3種類のクライアントPCの移行方法

サーバーはWindows 2000で統一

図2●肥後銀行が構築したターミナル・システムの概要
肥後銀行は2001年7月,26台のWindows 2000 Serverを導入して大規模なターミナル・システムを構築した。本部や営業店を含む約1000台のクライアントPCが本サービスを利用している。その他のサーバー環境もWindows 2000で統一,ファイル・サーバーやデータベース・サーバーなどにはWindows 2000 Advanced Serverを採用してクラスタ構成にした。当初,東京本部にターミナル・サーバーを置く予定はなかったが,事務センターと東京本部間を結ぶ128ビット/秒の専用線では東京本部の58台のPCの処理は難しいと判断,分散配置した。

 肥後銀行は,ターミナル・システム用途にWindows 2000 Serverを計26台導入した(図2[拡大表示])。約1000台のクライアントPCのアプリケーション実行を受け持つ。Office 2000やWebブラウザなどを実行している。

 サーバーの設置台数については,マシンの負荷を実際に検証して決定した。システムの設計・構築を手がけた日立ソフトウェアエンジニアリングが,1台のターミナル・サーバーで30ユーザーの処理ができるようにシステムのスペックを練った。シトリックスが公表している推奨値を基に,ユーザー1人当たりに必要なCPUパワーを60MHz,メモリーを64Mバイト用意すれば問題ないと判断。それに利用人数を掛け合わせてサーバーの仕様を決定した。「実際には,30人が同時に利用するケースはまれであり,かなり余裕のあるスペックとなっている」(日立ソフトウェアエンジニアリング九州システム部第2グループの内田秀昭技師)。1台のサーバーに処理が集中しないように,負荷分散機能も導入した。

 同行は,ターミナル・システムの導入を期に,ドメイン・コントローラをはじめとする他の主要なサーバーOSもWindows 2000に統一した。特にグループウエアやデータベース・サーバー,ファイル・サーバーにはWindows 2000 Advanced Serverを採用し,クラスタ構成で運用している。

通信費用の増加が今後の課題

 新システムの導入により,同社が抱えていた主なクライアントPCの問題は解決できた。しかし,一方で通信費用の増加が懸念されている。ターミナル・システムは,サーバー側で実行した処理結果をネットワーク経由でクライアントに送信する仕組みなので,WordやExcelを実行するだけで,ネットワーク・トラフィックが発生する。

 事務センターと本部,一部の営業店との間は,NTT西日本が提供する10Mビット/秒の常時接続サービス「ワイドLAN」を活用しているので問題ない。しかし,その他の約130カ所の営業店については,64kビット/秒のダイヤルアップ回線しかない。

 本格稼働が始まったばかりのため,回線の通信コストに関する評価は保留している。「本格稼働後には,これまでの3倍ぐらいにコストが跳ね上がる可能性もある」と吉里課長は見る。

(菅井 光浩=sugai@nikkeibp.co.jp)