◆ユーザーの課題◆小売企業向けASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)のジェイビートゥビー(JBtoB)は,POSデータを詳細に分析する,購買動向分析システム・サービスを計画した。システムを新規開発する余裕がない企業向けのサービスなので,低コストで提供する必要があった。

◆選んだ解決策◆分析系システム用途に特化したサイベースのデータベース・サーバー「Adaptive Server IQ」とWindows 2000 Serverを使い,大量のPOSデータを蓄積。多彩なクエリーや頻繁に発生する全テーブルへのアクセスに耐える仕組みを低コストで構築した。

結果と評価◆当初の目的通り,低コストで実用的なシステムを構築できた。ユーザーへの導入も始まったが,一般に小売企業のデータ分析に対する意識はやや低く,この点が今後の課題となった。

 「ポイント還元サービス」を実施しているスーパー・マーケットやカメラ量販店をよく目にするようになった。小売企業にとっては常連客を囲い込む以外にも効果的な活用方法がある。顧客のプロフィールと商品購入履歴を詳しく分析することで,売り場構成の改善や,顧客1人ひとりへの最適な働きかけに役立てることができるのだ。

1企業では抱えられない分析システム

 しかし,多くの小売業者にとって,こういった分析システムを独自に構築・運用することは容易ではない。「例えば売上高500億円のスーパー・マーケットなら,1年でおよそ2億件のPOS(販売時点管理)データがたまる」(JBtoBセールス アンド マーケティング 担当部長 池田壮吉氏)。これだけの情報を蓄積・分析するシステムを構築するとなると,初期費用だけで数千万円の投資が必要である。実際にポイント・サービスでデータを集めている企業でも,マーケティングに役立てるための詳細な分析にまでは手が回らない例が多いという。

ASP形態で低コスト化を図る

 ジェイビートゥビー(JBtoB)は2001年4月,このような売り上げ分析システムをWindows 2000 Serverベースで構築。その機能をインターネット経由で小売企業に提供するASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)事業を開始した。システム開発の余裕がない企業向けのサービスなので,豊富な機能を「低コスト」で提供することに重点を置いた。

 同社のASPサービスは,富士通の流通・小売業向けソリューションとして採用された実績もある。特定品目の売れ行きと顧客属性をクロス集計したり,同一品目のメーカー別売上高や同一商品のパッケージ形態別売上高を集計したりできるなど,多彩できめ細かなデータ集計機能を提供する(図1)。

図1●JBtoBの購買動向分析クライアント画面
Webブラウザを使って,サーバーに蓄積したPOSデータを詳細に分析できる。
図2●小売企業とメーカーの間でPOSデータの蓄積/分析サービスを提供
POSデータをベースにした売り上げ分析システムは一般に大規模な設備が必要になる。JBtoBは,メーカーに対して有料でデータの分析サービスを提供するとともに,小売企業に対してもPOSデータを提供してもらう見返りとして低料金で分析サービスを提供している。

 ASP方式は複数のユーザーでシステムを共有するので,小売企業側のシステム投資をある程度抑えられる。さらに小売企業の負担を減らすため,JBtoBはメーカー/卸企業とPOSデータを共有するビジネス・モデルも採用した。小売企業から預かったPOSデータを元に,メーカー/卸企業に分析サービスを提供する。この収益を一部還元するような形で,小売企業に対する分析サービスを安価に提供できるようにした(図2[拡大表示])。

 JBtoBによれば,ASP形態の分析サービスを利用すると,小売企業が個別にシステムを構築する場合に比べて,3分の2程度のコストで済むという。メーカー/卸とデータを共有すれば,実に6分の1程度までコストを下げられるとしている。

Sybase IQで多彩な処理に対応

 JBtoBの売り上げ分析システムで核となっているのは,分析系システム用途に特化したサイベースのデータベース・サーバー「Adaptive Server IQ(以下,ASIQ)」である。トランザクション・システムで発生する検索/更新処理を主目的とした一般的なデータベース・サーバーでは,十分なパフォーマンスが得られないためだ。

 通常,データベースのパフォーマンスを改善するには,サマリー(集計)テーブルやインデックスと呼ばれる検索専用の補助データをあらかじめ生成しておく。これらのデータの分だけ必要なストレージの容量は大きくなるが,定型的なクエリーが多いシステムならば,せいぜいデータ原本の数倍程度のストレージに収まる。

 ところがJBtoBのようなシステムでは,データをあらゆる角度から分析するため,非常に多様なクエリーが発生する。しかもその多くは,テーブルのデータに対する全件検索を伴う。サマリー・テーブルやインデックスといった高速化手法では,ストレージがいくらあっても足りなくなってしまう。

データ全体を疑似インデックス化

 ASIQはこうした非定型クエリーの処理に適したアーキテクチャを採用している。ASIQの特徴はデータの保持形態にある。

 一般的なデータベース・サーバーは,データをテーブル単位で保持している。例えば,売り上げのテーブルは,日付や顧客ID,商品ID,金額などを組にした「レコード(行)」が大量に詰まった表形式で保持される。

 一方,ASIQでは,テーブルをカラム(列)ごとに分割した「垂直パーティショニング」と呼ぶ手法で保持している。上の例では,日付のカラム,顧客IDのカラム,商品IDのカラム,金額のカラムといった具合にテーブルを分割して保持している。

 さらに,分割した各カラムの値を検索の容易なビット列に変換して保持する「ビットワイズ・インデックス」と呼ぶ技術も用いている。

 売り上げ分析のように,着目するカラムは一部だけだが,その替わり全件検索するような処理で垂直パーティショニングは絶大な効果を発揮する。処理に関係ないカラムの読み込みを省けるので,ディスク入出力を大幅に減らせるのだ。しかもビットワイズ・インデックスにより,簡単なビット演算であらゆる検索ができる。ちょうど,あらゆるクエリーに対してインデックスを用意したのと同じような効果を期待できる。「JBtoBのシステムのように非定型のクエリーを処理する場合,設計次第では一般のデータベース・サーバーと同等の性能を数分の1のコストで得られる」(サイベース BI統括部 担当部長 藤川泰洋氏)という。

CPUの動作周波数が選択のカギ

 ASIQにはUNIX版もあるが,JBtoBがWindows版を採用した理由は処理能力の高さだったという。しかも,意外なことに決め手はCPUの動作周波数だった。一般にコンピュータ・システムの性能は,CPUの動作周波数だけでは計れない。同じ動作周波数でもCPUのアーキテクチャが異なれば処理能力は異なる。キャッシュ・メモリー容量や入出力性能も重要だ。さらに全く同じハードウエアでも,稼働OSによってアプリケーションの処理性能に差が出る。

 ところが,JBtoBでASIQのパフォーマンスをテストしたところ,CPUのアーキテクチャやOSの種類よりも,CPUの動作周波数そのものに大きく依存しているという結果が出た。これは垂直パーティショニングによってディスク入出力性能の重要性が薄れることや,ビットワイズ・インデックスによって基本的なビット演算の処理速度,つまりCPUの動作周波数が処理性能に大きな影響を及ぼすようになっているためと考えられる。

 そこでJBtoBでは,動作周波数の高いプロセッサを手に入れやすいIntelベースのプラットフォームとしてWindows 2000 Serverを選んだ。サーバー・システムは群馬県のデータセンターに設置し,Windows 2000 Serverのターミナル・サービスを用いて遠隔管理している。

図3●JBtoBのシステム
Sybase Adaptive Server IQをデータベース・サーバーとして,膨大な量のPOSトランザクション・データを蓄積/分析する。POSデータの収集には小売企業ごとに専用線で結んだデータ・サーバーを用意する。分析サービスはWebサーバー経由で提供する。

プラグインとしてクライアントを実装

 小売企業のPOSシステムとは専用線で接続し,定期的にPOSデータをJBtoBのデータベースに吸い上げている。「データ・サーバー」と呼ぶゲートウエイ・システムを経由して転送する。ユーザーごとにPOSシステムの仕様が異なるため,インターフェース部分は小売企業ごとに作り込む(図3[拡大表示])。

 売り上げ分析システムの構成は,小売企業とメーカー/卸企業でほぼ共通している。アプリケーション本体はブラウザへのプラグイン形式になっている。米Cincom SystemsのSmalltalk環境「VisualWorks」で開発した。ユーザーがJBtoBのWebサーバーにアクセスすると,このプラグインがブラウザに読み込まれ,アプリケーション・サーバーを通じて様々な分析処理を実行できるようになる。

 既に小売業1社とその取引先数社がJBtoBのASPサービスを利用している。一般に購買動向分析の効果を計りかねている企業は多いが,今後,マーケティング手法の提案なども含めた営業活動を展開していくという。

(斉藤 国博=kuni@nikkeibp.co.jp)