ユーザーの課題◆東洋ゴム工業タイヤ基盤開発部の技術センターでは,新社屋の建設に合わせて,新しいコミュニケーション環境の実現を目指していた。ユーザーがいつでもどこからでも,文字,画像,音声などの情報にアクセスできるようにするものだ。

選んだ解決策◆Exchange 2000やCTI(Computer Telephony Integration)システムを組み合わせ,従来の文字情報に加えて,音声やFAXをも統合したグループウエアを構築した。内線電話の替わりに構内PHSを導入し,Exchange Serverにもアクセス可能なモバイル環境も実現した。

結果と評価◆電話に関連した改善効果だけでも年間7400時間以上の作業時間の効率化を見込んでいる。今後,同システムを他部門に展開することや,次世代携帯電話のFOMAを使った動画配信なども検討している。

 いまや,「パソコンから電子メールを送受信する」「スケジュールを閲覧する」「チーム内でドキュメントを共有する」といった文字情報中心のグループウエアの使い方は当たり前。チーム内のコミュニケーションの幅をより広げるためには,音声やイメージなどの情報を統合していくのが1つの手段である。こうしたグループウエアを目指す企業がある。

 「TOYO TIRE」ブランドで自動車用タイヤなどを製造・販売する東洋ゴム工業は2001年11月,Exchange 2000 Server,CTI(Computer Te-lephony Integration)製品,内線電話の替わりに使用する構内PHSなどを組み合わせて,新しいコミュニケーション環境を構築した。

図1●東洋ゴム工業の技術センターに導入された,新しいコミュニケーション・システム
様々なコミュニケーションと各種情報へのアクセスをパソコンとPHSに集約した。構内PHSを導入して電話の取り次ぎをなくしたほか,不在時に録音されたボイス・メールをOutlookで再生したり,携帯でスケジュールやメールを閲覧できる。

いつでもどこでも,電話もFAXも

 新システムのコンセプトは,“いつでもどこからでも,文字や画像だけでなく,電話やファクシミリにもアクセスできる”グループウエアだ。例えば外出中や通話中に電話がかかってきても,ボイス・メッセージを残しておいてくれれば,その音声ファイルをExchange Serverのメール・ボックスに転送してくれる(図1[拡大表示])。ファクシミリも紙に出力することなく,イメージ・データのままパブリック・フォルダに転送される。

 つまり,この環境では膨大な共有情報へのアクセスと対面以外のあらゆるコミュニケーションをデスクトップ・パソコン上に集約させることが可能なのだ。さらに,各ユーザーに配布した構内PHS端末と連携させることにより,構内のどこにいても電子メールやスケジュールを閲覧できるようにした。

呼び出し音のない静かなオフィスに

 このシステムのキー・ポイントである「電話」は意外に厄介なもので,受話器が鳴るたびにユーザーは作業を中断させられるし,電話の取り次ぎにも結構手間がかかる。電子メールはまさにこの問題の解決策として普及してきたが,東洋ゴム工業の試算によれば,まだ電話関連のロスが年間7400時間も技術センターで発生していたという。内訳は,電話の取り次ぎが1000時間,伝言とその間違いによるロスが400時間,思考業務の中断によるロスが6000時間である。

 新システムの稼働により,技術センターのオフィスは以前より静かになった。電話の呼び出し音が全くと言っていいほど聞こえない。電話を取り次ぐ人もいなくなった。「新システムによって技術者が開発に専念できるオフィスを実現できた。生産性の向上が期待できる」と,システム開発を担当した東洋ゴム工業タイヤ基盤技術開発部コンピュータシステム担当リーダーの山下勉氏は語る。

Outlookでボイス・メールを聞く

 今回,新コミュニケーション・システムを導入した技術センター(兵庫県伊丹市)には約230人の従業員が働き,その約7割がタイヤの研究や開発に携わっている。同センターは,1995年の阪神淡路大震災で傷んだ社屋の建て直しを機に,電話やファクシミリを含めたコミュニケーション・システムの見直しを決め,1999年末ごろから具体的な検討作業を始めた。

図2●今回構築したコミュニケーション・システムの概要

 基本的なシステム構成は,グループウエアのExchange 2000 Serverを中心に,PHS交換機やCTIシステムが連携動作するものだ(図2[拡大表示])。電話はダイヤルインによる1人1番号制とし,内線電話として利用できる構内PHSを導入した。

 構内PHSを採用したのは,ユーザーが構内のどこにいても電話を取れるし,取り次ぎの問題を解消できるからだ。他の人の作業を邪魔しないように,マナー・モードで呼び出し音を消せる点もPHSのメリットだ。ユーザー自身が急ぎの作業に集中したいときは,PHSのスイッチをオフにしておけばいい。その間にかかってきた電話は,CTIシステムのボイス・メール機能が応答してくれる。

 留守番電話に相当するボイス・メール機能は,録音したボイス・メッセージ(音声ファイル)をExchange Serverに転送し,Exchange Serverはメールに添付してユーザーに送信する。ユーザーはOutlookでメールを開いて直接メッセージを聞くこともできるし,1クリックの操作で自分のPHSに転送して聞くこともできる。電話の内容を他の人に聞かれないようにするための配慮である。

 当初は,「電話機のボタン操作でボイス・メールを聞く」という標準的な操作方法を想定していたが,ボイス・メールを導入した他の企業に実態を聞いてみると,メッセージの操作が繁雑で使われなくなったケースが多かった。そのため東洋ゴム工業は,音声ファイルをOutlookに転送する仕組みを作り上げた。これなら,ボイス・メールを電子メールと同じように操作できる。

 ファクシミリの送受信もCTIシステム経由でパソコンから実行できる。ファクシミリの文書はイメージ・データのまま管理されるため,Exchange Server上で共有することも可能だ。

PHSでExchangeのメールを閲覧

 このように,デスクトップ・パソコンにはコミュニケーション機能の多くが集約された。しかし,ユーザーが自席にいないときは,この機能を利用できない。この課題を部分的にでも解消するために,構内PHS端末からExchange Serverにアクセスできる仕組みを整えた。

 PHSとExchange Serverをつなぐゲートウエイ・ソフトには,ビービーシステムの「ExLook」を採用。このソフトを使うと,構内PHS端末の画面からExchangeのメール,予定表,連絡先を閲覧できるようになる。ただし,ExLookとPHSでボイス・メッセージの再生は可能だが,ファクシミリ・イメージの表示はできない。

SANでディスク入出力を高速化

 Exchange 2000 Serverは標準でCTIシステムと連携する機能を備えていたため,今回のシステム構築には適していた。CTIシステムには沖電気工業の「CTstage 3.0」を採用した。

 CTstageを選んだきっかけは,2001年2月にマイクロソフトと沖電気がCTI分野で提携したことだった。両社が目指すものと東洋ゴム工業が描いていたコンセプトがほぼ一致していたため,採用の決め手になった。

 実際にCTIシステムを導入する段階で気付いたことは,沖電気とマイクロソフトの連携が円滑だったことだという。「2社の製品にまたがるような問題が起こったときでも,両社が互いに責任逃れをするようなことはなかった」と東洋ゴム工業タイヤ基盤技術開発部コンピュータシステム開発担当の藤井充氏は振り返る。

 Exchange Server用のPCサーバーはクラスタ構成にした。メールやスケジュールはもちろん,ボイス・メール,FAX受信データ,技術文書,写真データなど,重要なデータが保存されている。マシンがダウンすると,ほとんどの業務がストップしてしまうからだ。

 クラスタ構成の2台のマシンは,SAN(Storage Area Network)を使って600Gバイトの共有ディスクに接続している。従来はSCSIで共有ディスクに接続するのが一般的だったが,「Exchange 2000のパフォーマンスはディスク入出力の速度に大きく影響される。そのためSCSI接続より高速なSANを採用した」(タイヤ基盤技術開発部コンピュータシステム開発担当の藤井氏)という。

他部門への展開とFOMA採用を計画

 今後は,技術センターでの運用が軌道に乗った段階で,東洋ゴム工業の他の事業所に順次展開することを検討している。他の事業所と技術センターをWANで結び,事業所間で構内PHSのローミングも可能になる。

 さらに,今回のシステムに動画配信機能を盛り込むことが計画されている。NTTドコモの次世代携帯電話「FOMA」のテレビ電話機能を利用して,工場でのトラブルの様子を動画で技術センターに送り,技術者が迅速に対応する,などが可能になる。

 既に技術センターでは,将来の動画配信を見据えて大容量のネットワークを施設済みだ。パソコン1台で100Mビット/秒を専有でき,動画配信に必要十分な帯域を確保している。

(小野 亮=akono@nikkeibp.co.jp)