◆ユーザーの課題◆約3000台のクライアント・パソコンを10人の担当者でメンテナンスしているが,その管理負担を軽減したいと考えていた。予想以上に厳しい利用方法が一因でパソコンによくトラブルが生じていた。

◆選んだ解決策◆取引のあるインテグレータが米国ベンチャー企業の新しい形態のパソコンを知り,提案した。表示・操作部と本体を離して設置する形態になっており,表示・操作部のみを厳しい利用環境に置くことで,本体にトラブルが生じにくくなっている。

◆目標と現状◆まずは,システム担当部署が利用するために約100台分が導入された。表示画質を保つために本体と間の距離を縮める必要がある以外は,期待に沿う製品だった。将来,本格展開により管理要員の半減を目指す。

 システム・インテグレータ*がユーザーとのコミュニケーションから,新しいシステムを提案することがある。放送局のテレビ朝日が導入した新しい形態のパソコンはその例だ。

 日立システムアンドサービス(日立システム)は,テレビ朝日向けに数々のシステムを構築している。日立システムの産業・流通システムサービス事業部東京流通システム部のシステム・エンジニアである奥山 崇氏は,営業のサポートで出向くうちにテレビ朝日がクライアント・パソコンの管理で悩んでいることを知った。

 「社内にある約3000台のクライアント・パソコンを10人の担当者が専従でメンテナンスしている。しかし,その管理負担を軽減したいと考えていた」(テレビ朝日総合情報システム局総合システム開発部の上田 昌夫 副部長待遇)のである。

表1●テレビ朝日への導入の経緯とClearCube社と日立システムアンドサービスの提携
図1●テレビ朝日が導入したブレード型パソコンのシステム構成図
ユーザーの手元に置く「C/Port」とパソコン本体の「Blade」はLANケーブルで接続する。Blade故障時は管理コンソールからの指示により,予備のBladeに切り替えられる。C/PortとBladeを1対1で接続することで性能を保ちながら,保守性を向上させている。
表2●ブレード型パソコンと他方式の比較
ブレード型パソコンは製品価格が高いこととマシン室-クライアント間に専用のケーブルが必要であるという導入費用の高さを除けば,通常のパソコンのように使える上に管理コストを抑えられる。表は日立システムアンドサ-ビスの資料を基に作成。

 日立システムの奥山氏は,偶然にもこの目的に合う新形態のパソコンを開発/販売する米国のベンチャー企業ClearCubeが日本での提携先を探しているのを知った。上田氏に提案したところトントン拍子で導入が決まった(表1[拡大表示])。

 2002年11月の提案当時,日立システムはClearCubeと取引がなかった。当初,商社経由での導入を提案したが,継続的なサポートや製品の保証が欲しいテレビ朝日は,これに難色を示し,日立システムが取り扱うことになった。同社は,2004年3月にClearCubeと契約を結び日本の販売代理店となった。

パソコン本体をマシン室で集中管理
表示・操作部をのみを現場に設置

 ClearCubeはこのパソコンを「ブレードクライアントコンピュータ」と呼んでいる(図1[拡大表示])。通常のパソコンと大きく異なり,ユーザーの手元に置く端末「C/Port」とパソコン本体である「Blade」から成る。パソコン本体を環境の良いマシン室に設置するとともに端末をシンプルにして,故障や破損を減らすように設計されている。

 Bladeは,基板の上にCPUやメモリー,ハードディスクなどPCを構成する主要部品を搭載している。これを「Cage」と呼ぶケースに複数収納してラックに入れる。高さ3U(1Uは約44mm)のCageに最大8枚のBladeを収納できる。

 ユーザーの手元には,C/Portという機器と,汎用的なディスプレイやキーボード,マウスを設置する。C/PortはVHSテープとほぼ同じ大きさと小さい上に,駆動部品がないため熱やノイズを発生しないという。開発元のClearCubeはMTBF*(平均故障間隔)が,20万時間(約23年)以上あるとする。C/Portには,USB端子があるが,セキュリティを考慮して管理コンソールから無効にすることもできる。

 ポイントは,C/PortとBladeの接続方法にある。この新形態パソコンでは,LANで使用する「カテゴリ5e」のケーブル1本しか用いない。

 ClearCubeは,これが最も大きなノウハウの1つという。「信号の伝送には自社開発した約30の特許を利用しており,高速なレスポンスを実現している。アナログ信号でキーボードやマウスの入力と映像出力を伝送しており,仕様上200mまで延長できる」(Global Alliances担当のJim Isbell副社長)。

PC本体とネットワークを外に出さずにトラブルの発生を防ぐ

 この仕組みは「クライアントPCがユーザーの手元にあることが,管理の手間がかかる最大の理由」(上田氏)と考えるテレビ朝日にとって打ってつけだった。同社では予想以上に多様な環境でパソコンが使われており,それがトラブルを生んでいたからだ。極端な場合,本体の上に鉢植えがあり,水をかぶったことがパソコンの故障原因だったことがあるという。

 ClearCubeの製品ではユーザーの手元に,ディスプレイやキーボード/マウスとC/Portしかない。それらが故障しても,ハードウエアを取り替えるだけである。ディスクのデータを入れ替えたり,システムをインストールし直したりする必要はない(表2[拡大表示])。

 「Blade」は,マシン室のような整備された環境にあるため,通常のパソコンより故障しにくくなる利点もある。万一障害が発生しても,管理コンソールからのリモート操作で予備のブレードに切り替えられる。ClearCubeでは,24台中1台程度を予備機にすることを推奨している。

 放送局であるテレビ朝日にとっては,ストリーミング*・データを問題なく扱える点も重要だった。「映像を扱う会社としてストリーミング・データを流せないことは,将来大きな問題になる可能性がある。情報基盤の可能性は広げておきたい」(上田氏)という。

 Windowsでは,パソコンの管理コストを削減する方法として,ターミナル・サービスを活用したシン・クライアント*・ソリューションが既に利用できる。しかし,ストリーミングのような動画の表示は苦手である。

専用線の敷設や本体価格など導入時の壁はやや高い

 一方,ClearCube製品の欠点は,BladeとC/Port間を結ぶLANケーブルを既存のネットワークのものと別に敷設する点だ。前述のように専用のアナログ信号を流すためで,ハブなどの中継装置も入れられない。マシン室のような場所にBladeを設置すると,非常に大量の長い配線が必要になる可能性がある。この問題をテレビ朝日では,ビルの各所にあるEPS室に分散設置して解決する予定である。

 EPS室は電気,電話,LANなどの配線用スペースでビル内を上下に貫通している。最近建設されたビルではルーターやスイッチ,ハブなどが設置できるだけの十分な広さと,排熱対策が備わっている。EPS室からはC/Portの台数分LANケーブルを敷設する必要があるが,管理コストを考えれば採算がとれると考えている。同社は現在10人いる管理要員を5人へ半減できると見込んでいる。

 もう1つは,同等性能のクライアント・パソコンの約2倍という価格だ。上田氏は「これは管理コスト軽減やマシンの有効利用でまかなえる」という。将来,Bladeを追加すると,初期のものと性能差が開くことが予想される。しかし,利用頻度の高いユーザーや処理能力を求めるユーザーに高性能なBladeを割り当て直しやすいので,古いBladeも長く使えると見ている。

 現在,システム部用に約100台分を導入して検証している。テストでは,ストリーミングの画質を保つためには仕様上200mのケーブル長を100~150m程度に抑える必要があることが分かった。また,Bladeの発熱が予想以上に大きいという。システム部の部屋の一部をパーティションで区切った場所にBladeを設置したところ,空調の能力不足からフル稼働できていない。これは空調設備を増強するなどで解決すると見込んでいる。

 上田氏は今後,本体とC/Port間を光ファイバで結ぶ製品の供給を希望している。ClearCubeはこれを開発済みで,本体をデータ・センターに設置して,クライアント管理を完全にアウトソーシングできる。ただし,価格は現行製品の10倍以上で,米国でも国防総省以外には供給されていないという。

(茂木 龍太)