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政府内のシステム構築が全面的に変わる――2003年3月31日に開かれた各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議において,(1)「EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)」と呼ぶ手法を採用することと,(2)その実行のためのIT専門家「CIO補佐官」を民間から採用すること,に合意が得られた。

図1●政府におけるシステム構築の指針となるEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)と,CIO補佐官の役割
CIO補佐官は,EAの策定や活用を担当する。写真は,経済産業省のパイロット・プロジェクトで作成したもの
 これにより,2003年度から各府省がCIO補佐官を置き,EAに沿ったシステム構築に着手する。これまで情報システムの構築は,各省内の課単位で個別に進めていた。そのため,本来連携が必要な業務であってもシステム的に統合できていなかった。また各課の担当者が出す入札説明書の質が低く,ベンダー側の言いなりになっていた,という反省もある。

 EAの実践とCIO補佐官の働きによって,各省単位でトップダウンに目的を達成する形に変える。“国民の利便性向上”などの大目的から全体最適化に向かう。CIO補佐官は,その理想形を想定しながら,それに達するための計画を作り,個別のシステム構築を支援する。

米国政府の方式を採用

 EAとは,米国連邦政府が1996年から検討をはじめ,2001年から実践を開始しているシステムの統合化・合理化の手法であり,そのためのフレームワークも指す。

 EAのフレームワークは,エンタープライズ(省)のレベルで,業務モデルやデータ・モデル,アプリケーションや利用技術のアーキテクチャを定めたもの(図1[拡大表示])。あるべき業務や利用技術の将来を見通して理想のEAを作成。現状分析したEAから理想形に変えていくために,次期EAなど段階を踏みながらIT投資プログラムを進めていく。このプログラムに沿って,EAに基づいたシステム構築プロジェクトが各々実施される。

 EAは各省ごとに作成するが,その情報を共有して政府全体のシステム構築を効率化する狙いもある。ある省が分析した結果を抽象化し,参照モデルとして各省で共有する。システム構築の効率化とともに,システムの共有や統合も容易になる。

今年度にEAのベータ版を作成

 狙い通りに進めば,これまでの政府のシステム構築とは違い,省全体の目的に沿ったシステム構築が効率よく実施される。ただそのためには,CIO補佐官の働きがカギを握る。

 EA導入を企画した経済産業省 商務情報政策局は今年1月から3月にかけ,経産省の人事・給与などを対象にEA作成のパイロット・プロジェクトを実施した。経産省は2003年度いっぱいで,政策・業務全体におけるベータ版相当のEAを策定する計画だ。既に,パイロット・プロジェクトに参加していた元日本IBMの野村邦彦氏が,CIO補佐官として活動開始。同氏は,この直前までは日本IBMにおいて開発・製造担当副社長室技術補佐 兼IBM Academy of Technology AP担当VPとして従事していた。同社では35年間,ソフトウエア開発体系の技術リーダーやマネージメントなどを経験してきた。

 CIO補佐官の役割は多岐にわたる。おおまかには,EAの策定と参照モデルの作成,EAに沿ったIT投資プログラムの計画とマネージメント,それに準じたシステム構築プロジェクトの支援,である。それを実行するには,政府の業務に対する知識やモデル化のスキル,情報技術の知識や将来動向の予測,プロジェクト・マネージメントのスキルなど,様々な能力が要求される。

 こうした能力をすべて備えるIT専門家は,数少ないし,すべてをこなすのは現実的に難しい。経産省では,CIO補佐官を補佐するために,業務分析とデータ分析を,それぞれ外部の専門家に依頼している。実際にEAの細部を作るには,データフロー・ダイアグラムやE-R(エンティティ-リレーションシップ)図を作るレベルとなる。CIO補佐官と数人の各専門家でチームを構成する形になる。

 その上で,CIO補佐官として想定される人物像としてパイロット・プロジェクトに参加した中央青山監査法人 代表社員 公認会計士の松尾明氏は,「業務の視点と技術の視点を見渡せて,橋渡しができる人」を第一に挙げる。予算獲得の責任者,現場の業務担当者,システム構築の担当者など,様々なレベルの相手とのコミュニケーションも必要になる。

大企業の情報システム企画に相当

 同じく経産省のプロジェクトに参加したNTTコムウェア システム本部 SE部 データベースセンタ 担当部長の林泰樹氏は,具体像の一つとして,「大企業のシステム企画でインフラ系を再開発した経験がある人」を挙げる。企業の各組織で個別にシステムが構築されてしまいバラバラになった状態から再統合してきた経験が生きるという。

 同プロジェクトに参加したビジョン クエスト 代表取締役社長の佐佐将行氏はそうしたCIO補佐官の能力に加え,「民間からの人材をどう選定して処遇するのかといった制度の整備,省内で仕事を円滑にするための調停組織も必要になる」との見方だ。

 今年6月末までに,経産省以外の各省でも今後の具体的な計画が出てくる。その後,各省がCIO補佐官を採用する。経産省では,ベータ版のEAを作成しながら今期のシステム構築も進めるが「当面は,EAとのズレは出る」(商務情報政策局 情報経済課 課長補佐 村上敬亮氏)。制度や運用ルールの整備もこれから始まる。

 EAは,既存のシステムから理想形に,現場の業務を継続しながら近づけていく手法だ。体制確立から作成,評価までの循環プロセスが成熟していくことがEAの導入意義でもある。電子政府の構築は急がれるものの,EAやCIO補佐官の評価が出るには,まだまだ時間がかかる。

(森側 真一=morigawa@nikkeibp.co.jp)