米ヒューレット・パッカード(HP)は、3億米ドルの予算をかけた「Print 2.0」というキャンペーンに乗り出した。同社がニューヨークで2007年8月28日(現地時間)の2日間開催したPrint 2.0のイベント会場で、今後の事業の戦略について、イメージング&パーソナルシステムズ・グループ執行副社長のビオメッシュジョーシ氏に聞いた(聞き手は瀧口 範子=ジャーナリスト)。
Q. 「Print 2.0」とは何か?
A. プリンターの販売台数を数えるだけでなく、印刷(プリンティング)されるページ数に注目しようという、HPの戦略転換だ。「プリンターからプリンティングへ」と呼んでいる。インターネットやイントラネットを有効に利用し、またこちらが押し付けるのではなく、消費者が自分で好きなものを選ぶ「プル・モデル」に基づいている。
Q. なぜ戦略転換するのか。
A. HPはプリンター販売台数では、既に45~46%のマーケットシェアを獲得している。しかし、プリンティングされるページ数のシェアは2%しかない。逆にいえば、伸びしろがたくさんあるということだ。アナログからデジタルへの転換、さらにWebからのプリンティングといった新領域にうまく入り込めれば、収入を急速に増やすことができると考えている。数年後にようやく注目されるような、全く新しいビジネスと考えている。
Q. プリンターでは14~15%の経常利益率を実現していたが、プリンティングでも同様の高い利益率を確保できるのか?
A. 我々が目指すのは付加価値の高いプリントプロセスで、さらにハードウエアとサプライ製品を組み合わせる。そうすれば、同様の数字は到達不可能ではないと考えている。そうはいうものの、戦略転換は簡単ではない。次世代技術やイントラネット、インターネットを取り込む上、これまでの製品ごとのセグメントから、消費者、スモール&ミディアムビジネス(SMB)、グラフィックス、エンタープライズと、販売のためのマーケティングセグメントを変えた。コンテンツやソフトウエアが中心になるため、HP自体がWebを熟知した組織に変わらなければならない。
Q. 「Print 2.0」では、どのセグメントが大きく成長すると見ているのか。
A. HPはこれまで全方向的にバランスのあるモデルでビジネスを展開しており、それは今後も変わらないが、現在1400億ドル規模のエンタープライズビジネスでのHPのシェアが4%に過ぎず、大きな商機があるとにらんでいる。また、グラフィックスはそれ自体が巨大な成長産業だ。
Q. 今回の「Print2.0」キャンペーンでは、人気アイドルの写真をHPのサイトに掲載し、ユーザーがそれを自在にレイアウトして出版できるという点が売りだった。消費者にWeb出版の可能性を広く広めようという意図だと思うが、HPのプリンターで囲い込まない限り、ここから収入を得るのは難しいのではないか。
A. 囲い込まないオープンさこそが売りだ。消費者が1枚でも印刷すればHPにとって有利になる。全体の水面が上がれば、HPのボートも高く浮かぶからだ。Print 2.0時代には、ユーザー自身がコンテンツを生み出すコンテンツプロデューサーになる。HPはそれを支援するだけだ。
Q. テレビ番組やスポーツ中継を即日DVDに収録して売り出す「NextDay TV」は、これまでプリンターを提供してきたHPが自ら印刷業に乗り出す、新規事業進出のように思われるが。
A. HPのビジネスを広く定義する必要がある。コンテンツクリエーションについては多く語られているが、HPのビジネスは「コンテンツコンサンプション(消費)」と理解してほしい。アトム(物質)からビット(電子)になったものを、今度はまたアトムに戻して消費しやすくする。それが「NextDay TV」だ。インドでも最大手のDVD出版社のために、ボリウッド(ボンベイにある映画産業の中心地で、ボンベイハリウッドの略称)映画をDVDに収録。インディゴで印刷し、海賊版にも負けない安価で売り出している。ニッチなコンテンツにも対応して、効果的なサプライチェーンをどう築くのかが決め手になる。
Q. 日本でキャンペーンはどう展開するのか。
A. 詳しいことは未定だが、アメリカでグウェン・ステファーニを起用したように、日本でもWebのユニークな使い方を象徴できるような人気アイドルを起用するだろう。