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 2005年8月8日、低価格デジカメ「Che-ez!」、携帯オーディオプレイヤー「v@mp」などの開発、販売で知られるエヌエイチジェイ(NHJ)が突然、東京地方裁判所に対し準自己破産申請を行った。その1カ月前の7月7日には、ウォルト・ディズニー・ジャパンとの間でデジタル家電におけるキャラクターライセンス契約を発表。秋から順次ディズニーのキャラクターを使ったオーディオプレイヤーやデジタルカメラなどを発売していく予定だった。たった1カ月の間に何が起きたのか。当時社長だったタージ・ハリレラ氏の突然の失踪など、不明な点が数多く残るNHJ破産の一部始終を、元同社取締役、現TTコーポレーション代表取締役社長の宇多田浩氏が初めて語った。

■NHJが事実上の破産に追い込まれた真相を教えてほしい。

 一番の引き金は海外のグループ会社への売掛金の回収が滞ったために起きた資金ショート、これが原因でした。具体的には米国法人と香港法人ですが、特に米国法人の影響は大きいものでした。米国法人で顧客への商品の提供に対する資金回収が遅れ、それが日本法人への支払い遅れにつながり、資金繰りが急速に悪化しました。
 日本法人だけ見れば、極めて順調にいっていました。監査法人が入って、上場に向けて動き始めていたところでした。

■なぜ米国で資金回収が遅れたのか。

 私が受けている報告によれば、米国法人が数社の代理店と結んだ契約、ならびに現地の物流会社と結んでいた契約が、かなり不利な条件だったようです。当初、資金を回収できるはずの時期に回収できずに遅れてしまったと聞いています。
 米国ではご存じの通り、11月末の感謝祭、12月末のクリスマス、この時期に年間売上の6~7割を占めるといわれています。これに向けて調達する最大の時期は6~7月です。ただし、その前に練習試合をやるわけです。1月のCESで今年の新商品が発表され、米国のバイヤーが顧客の反応を見るために4月くらいから仕込みを始めるわけですね。
 米国法人は2年ほど前から事業を行ってきていましたが、本格的に展開していこうとしていたのは今年。当然、調達が冷え込む1~3月を避け、4月に照準を合わせてスタートしました。米国の場合は掛け売りが基本ですから、だいたい60~90日後に資金の回収が行われます。それが資金のショートが見え始めた7月頃だったわけです。

■社長が失踪したいきさつを教えてほしい。

 社長と最後に連絡がとれなくなったのは7月31日の日曜日です。29日の金曜日までは連絡がついていました。
 実は31日にシンガポールで私と社長、そしてグループの会長と3人で会うことになっていました。目的は米国でショートした部分をどうやってグループとして対応するかについて話し合うためでした。私が米国のショートを把握しはじめたのは先ほど申し上げたとおり、7月の中旬くらい。弁護士や金融機関ともいろいろと相談しましたが、その段階で自己破産という選択肢はありませんでした。民事再生手続きという手段は検討しましたが、それはあくまで最悪のシナリオ。日本の状況から見ても、十分リカバーできるはずでした。事実、リストラ策の方向性もはっきりしていて、金融機関による支援の承諾も得ていました。ただし、それはグループ全体による支援が前提で、そのために話し合いをする必要があったのです。
 私は日本からシンガポールに飛びました。社長は香港経由でシンガポールに入る予定でした。ただ、私が待ち合わせの時刻に待ち合わせの場所に行っても誰もこない。後から分かったことですが、会長は病院に入っていて、私が来ることを知らなかったとのこと。このミーティングは社長がセッティングをしていたはずでした。結局、グループ会社からの支援を取り付けることができなかったわけです。
 社長とまったく連絡がつかず、私はてっきり自殺したものだと思いました。ノイローゼ気味になっていたのも分かっていました。シンガポールから弁護士に電話して、自宅まで見に行ってもらいましたが、いない。警察にも届けを出しました。しかし、どこにもいないとなると、もはや失踪しかないわけです。「自殺」だなんて、きわめて日本的な考えだったんだなぁと後で思いましたよ。

■社長は香港最大の印橋財閥ハリレラグループの一族だ。なぜグループで支援しなかったのか。

 ショートが見え始めた時点では1億円くらいの規模の支援で十分でした。誰だってそんな大財閥だったら、すぐに支援を決めるのは当然だと思うでしょう。私もそう思っていましたし、支援をしてくれる金融機関もそう思っていました。しかし、実際は簡単ではなかったようです。ハリレラグループは経営陣がみな親族です。日本法人の社長はタージ・ハリレラ氏でしたが、米国と香港の社長はタージの従兄弟にあたるマヘッシュ・ハリレラ氏という親族でした。今回の件は日本法人の責任ではなく、米国と香港にある。金融機関が支援をするとなると当然リストラ策が必要になりますし、海外拠点を閉めるという話になります。そうなると責任をとるのはマヘッシュ氏になります。そのあたりの責任の所在がお互いが身内ということもあり、グループ内で決定が遅れ、支援も引きずられてずるずると遅れました。

■社長が失踪した7月31日以降の動きを教えてほしい。

 私は翌日の8月1日に日本に戻りました。そこからは修羅場でした。社員はなぜ社長がいないのかと聞いてきましたし、弁護士も当然あわてました。私は8月2日にまず役員を辞任しました。これには賛否両論ありましたが、私なりに考えて役員としての責務を果たせないと判断したためです。大株主である社長は失踪、それ以外の3人の株主もみなハリレラ一族で、誰も駆けつけてきません。意見を求めるべき株主がみな不在なのです。誰の意見も反映できない状態で役員としての責務は果たせないと考えました。
 社長がいないので民事再生手続きもできませんし、準自己破産しかないという結論に至ったのは8月6日の木曜日でした。その後、準自己破産を申請して管財人が決まりました。管財人にヒアリングした結果、この会社は自己破産には値しない、譲渡すべきだという判断が下され、営業譲渡という入札がかけられました。これは特例中の特例といえるでしょう。数社興味持ち、最終的には2社応札したそうです。そうして決まったのがシーグランドです。

■役員を辞任した後、宇多田氏自身はどうしたのか。

 役員を辞任したといっても、道義的な責任は残ります。全金融機関、主要債権者、海外も含めるベンダーを一通り伺って、お詫びと説明に回りました。その結果、もう一度やってはどうだと言われたこともあって、シンガポールに本社を置く家電メーカーおよびディストリビューターでもある「TTインターナショナル」の支援を受け、10月24日、オーディオ機器やデジタル家電の企画・開発・販売を行う「TTコーポレーション」(http://www.ttcjpn.com)という会社を設立しました。

■TTコーポレーションで取り扱う製品はNHJと近いイメージがあるがどういう方向性を目指すのか。

 NHJとは確かに近いジャンルです。今年度内にデジカメ、MP3プレイヤー、ポータブルDVDプレイヤー、GPS端末、語学研修機器の5製品を出します。まず、500万画素で1万円前後の低価格デジカメを12月末に投入する予定です。どの製品も低価格路線でいきたいと思っています。そして、どのように使うかをお客様に任せるという商品ではなく、これはこう使うと便利ですよというメッセージをきちんと持たせた商品作りに力を入れるつもりです。買い手にはっきりと用途が分かる商品が市場にはまだ少ないと思うからです。
 NHJの自己破産のあと「Rio」も撤退を決めたことで、過当競争における勝ち組、負け組のような報道が続きましたが、決して市場の成長が止まったとは思っていません。ここまで話をしたとおり、NHJの自己破産は海外のグループ会社が主な要因でした。日本だけ見ればうまくいっていたのです。だから、私はもう一度この市場に挑戦したいと思います。市場はまだ成長を続けますし、私が出すものは受け入れられると思っています。勝算がなければ立ち上げません。今年度は残り少ないので明確な目標は立てにくいですが、来年度は15億~20億円の売上を目指したいと思っています。