PR

 先週このコラムで注目ソフトとして特筆したParallels Desktop for Macが急激に進化、5月18日には製品出荷バージョンの1歩手前の「Release Candidate」がリリースされた。もう、Intel版Mac OS Xの上でWindowsソフトが普通に動く世界が早くも実現した。

 Parallels Desktopはバーチャルマシン(VM)と呼ばれる技術を使い、OSの上に複数の別OSを動かす仕組みのことだ。Windowsの上でLinuxを動かしたり、Intel版Mac OS Xの上でWindows 2000, 2003, XP, NT, Linux、FreBSD, OS/2, Sun Solarisなどを動かすことができる魔法のような仕掛けだ。

 ベータ版の間は無線LANによるネットワーク接続や、Windows側アプリケーションとMac アプリケーションの間でカット&ペーストがうまく機能しない場合があったが、「出荷版一歩手前」版ではこうした不都合の大部分が解消した。この版に同梱されているParallels Toolsには「マウス同期」「クリップボード同期」「共有フォルダツール」の改良版が含まれ、Windowsアプリケーション内でコピーしたあと、Mac OS X 側のアプリケーションをマウスで前面に引き出し、必要なところにペーストできるようになった。Mac OS XとWindowsで共有したいファイルがあるときは、Mac OS X側から見える場所に共有フォルダを作っておき、VMの設定画面で共有フォルダの場所を指定してやれば両OSからファイルを共通して読み書きできる。

 これまでMacで視聴できなくて情けない思いをしていたネット上の動画コンテンツなども問題無く視聴できる。Mac OS XだけではWindows Mediaのデジタル著作権管理(DRM)機能を扱うことができなかったが、Parallels Desktop for Macを使えば問題解決だ。

Mac OS XでのWindows Media表示の例Parallels Desktop for Macを使ってMacの中でWindowsを動かし、Gyaoを視聴中。これまでMacではこの種のMicrosoft DRMを使った動画は視聴できなかった。画面は日経パソコンが協力した「知らないですまない?Winny徹底解剖」

 しかも、安い。正式版の製品出荷前に購入すると定価49.99ドルのところ39.99ドルで購入できる。フル機能を試せる「お試しキー」も配布中だ。Parallels社のホームページで確認してみてはいかがだろうか?

先行されたAppleはどう出るのか?

 WindowsアプリケーションはVMを介してではあるが、Intelチップの上で直接実行されるから、同性能のWindows機と比べてもほとんど速度の低下はない。Power PC版の従来Mac機上でWindowsアプリケーションを動かすVirtual PC for Mac(マイクロソフト)という製品があるが、こちらはx86向けの実行コードを読み替えしながら動かすエミュレーション動作だから、本物のWindows機と比べると速度低下が激しく、速度を必要とするマルチメディアアプリケーションなどはなかなか実用的に利用することはできなかった。しかし、Parallels上ではビデオの編集ソフトやネットで流れる動画再生ソフトなどの一部はストレス無く実行できる。これなら、Windows機を買わなくても、Macを1台、机に載せていれば事足りる。

 一方のAppleは4月5日、Intel版MacでWindowsを起動させるための一連のソフトウエアツール群Boot Campなる試作版を配布開始した。次期Mac OS X Leopardではこの機能をサポートするというが、果たしてどのような形になるのかはまだ分からない。Parallels社に先行されたAppleがこのまま指をくわえて見ているはずがない。8月7日から始まるAppleの開発者向け会議「WWDC2006」では大きなサプライズを用意してくれているはずだ。

Mac OSの中にWindowsがシームレスに溶け込む

 グラフィカルユーザーインタフェースをパソコンの世界に持ち込んできたスティーブ・ジョブズ CEO(最高経営責任者)がこれまでこだわってきたことは、いかに「滑らかな手触り」をユーザーのために用意できるか、ということだった。プログラムやファイルを移動するにはマウスでつかんでドラッグし、目的のところにポトリと落とし込む。同じ操作感覚でネット上のボリュームやファイルにもアクセスでき、一般ユーザーには難しいftpコマンドなどを打たせない仕組みを次々にOSに組込んできた。今でこそWindowsの世界にも同様の使い心地が普通になってきたが、スティーブのこだわりがMac OSをどこまでも磨き上げてきたと言えるだろう。オブジェクトの中身がどうであってもユーザーはクリックし、つかみ、開けば何とか使えてしまうという優しい使い心地だ。

 「ユーザーは中身のことに無頓着であってほしい、そんなことは気にしないで、どんどん気ままに使ってほしい」というのがスティーブのポリシーだ。これはハードウエアに対してもそう。今のIntel版iMacやMac miniは旧PowerPC搭載iMacあるいはMac miniと外見だけでは見分けがつかない。内部のハードウエアが全く異なってもMacはMac。

 ソフトでは旧PowerPC向けアプリだろうがIntel版Mac向けだろうが、ユーザーには全く同じに見える。中で動いている仕組みは全く異なっていても、外からは同じに見える。これと同様のことがLeopard版Windows実行環境には用意されるのではないかという気が強くする。

 Windowsアプリもデスクトップ上のアイコンを単にダブルクリックするだけで動かしてしまうという融合だ。Windowsアプリの中でマウスで選択したテキストはそのままMacアプリにドラッグ・アンド・ドロップできるようになるかも知れない。そうした融合を実現するにはOSの機能の一部を拡張する必要がある。だからParallels社には実現困難だが、Apple社なら可能になるだろう。

MacユーザーがWindows機を買う理由がなくなる

 こうした融合をさらに推し進めると、Windowsプラットフォーム向けにしか用意されないマルチメディアコンテンツ、アプリケーション、あるいはサービスがシームレスにMacに統合され、Mac環境の中ですんなり動くということを意味する。これまで、Mac上で動かせる機能を拡張するために、Appleが独自に開発を推し進めなければならなかった開発コストの多くを削減できるようになる。

 Windows MediaのDRMを使ったコンテンツも普通にMacの再生ソフトで使えるようなバーチャライズも可能になるかも知れない。こんな融合がMac OS Xに組込まれれば、もはやMac所有者がWindows機を買う理由がなくなる。Windows機ユーザーだって、Mac上ですんなりWindowsアプリが動くとなれば、スタイリッシュなMacを第一候補として考える人も出てくるだろう。

 iPodは稼ぎ頭に成長したものの、肝心のMacが伸び悩んでいる。しかし、それも大きく覆せる。Macが1台あればリッチなコンピューティング環境を満喫できるとなればWindows機からスイッチするユーザーも激増するだろう。

 Boot Campをちらりと見せたのは、Windowsアプリがサクサクと動くことを実感してもらうためだった。次にスティーブがMacユーザーを驚かす仕掛けは、Mac OS傘下にシームレスに組込んでしまうこと。MacとWindows OSを買いさえすれば何台もパソコンを机の上に置き切り替えて使ったりすることも無くなるのだ。あとはMacとWindowsのキーボードの違いなどを吸収する仕組みなどが必要だが、そんなのはAppleにとっては簡単な作業と言える。

 スティーブのしたたかな計算が具体的になる8月7日が楽しみだ。