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 パソコンをはじめとする情報機器は学びのための道具としてもきわめて有効な存在です。円周率の概念や立体図などは、データを動かしてみせることができるディスプレイの方が紙よりも理解を助けるはずです。今回は、電子教科書の普及に取り組んでいる原久太郎氏(NPO法人地域学習センターゆ~らっぷ理事長、IT活用教材標準化委員会代表)をゲストにお迎えした、本コラムの執筆者である兼宗氏との対談をお届けします。(編集部)

兼宗: 今回はプログラミングから少し離れて、教科書をパソコン上で扱う「電子教科書」の普及推進をしているITEM(IT活用教材標準化委員会)の原さんにお話を伺います。まず、電子教科書のメリットはどういった点にあるのでしょうか。

原久太郎氏
原: 1つには、授業に生徒の関心を引きつけられることです。公立学校の場合、都心の学校でさえ、授業をちゃんと聞いている生徒はクラスの3分の1程度。ほかの3分の1は参加しない、残り3分の1は寝ているという状態だと言われています。数学の授業などは内容をきちんと積み重ねていかないと理解が追いつかない科目ですから、参加しない生徒はますます置いてきぼりを食うことになります。

 現在の授業は、たとえば横何メートル、縦何メートルの花壇の面積を求めなさい、といった課題が載っている教科書のページを生徒に開かせた上で、同じ図を教師が黒板に引き写して解いて見せるわけです。このスタイルはおそらく何十年も前から変わっていませんよね。

 これが電子教科書になれば、教師が生徒の手元にあるパソコンに教材をとばして、その画面上で絵を動かし、解き方を解説するようなことが可能になります。あるいは、確率の授業なら、サイコロを転がすシミュレーションを用意して、千回振るとどういう結果が出るのか、といったことを各々の生徒に体験させることができます。

兼宗: 現状では、パソコンを使った授業をしたい場合には、パソコン教室へ移動しなければなりませんね。

原: そうですね。あるいは、パソコンとプロジェクターを使って教室で授業をするにしても、いったん教科書を離れて機材の準備をしたり、あるいはソフトウエアを立ち上げたり、といった手間はかかってしまいます。
 しかしデジタル教科書を使っていれば、教師が開いている教科書にも、生徒が開いている教科書にも、教材はあらかじめ入っているわけですから、授業の流れが中断されるようなことはありません。

兼宗: 実際にこうした電子教科書を使う場合には、現状、教室から移動しなくてもできるんですか。プロジェクターが教室にあるわけでもないですよね。

原: 本来であれば、e-Japan計画により、日本のすべての教室にはプロジェクターとスクリーンが1セット、それにパソコンが2台入っているはずなんです。ただ、それを実行するかどうかは各県の教育委員会の手にゆだねられたので、県の財政状況によって対応がバラバラになってしまいました。予算が地方交付税交付金として付与されたので、教育以外にも自由に使えてしまったのです。

兼宗: 裕福な県以外は教育に回さなかったということですね。

原: 日本に追いつけ、追い越せで教育現場のIT化を進めたお隣の韓国では、もうすでに全ての教室に五十インチ台のプロジェクションテレビが入り、教師が使う教卓のパソコンに接続されていて、ブロードバンド回線もちゃんとつながっているんです。教材は常にインターネット上にあって、教師はそれを自分の授業に活かしています。
 私も先日視察に行ってきたんですが、たとえば音楽の授業では、伴奏となる曲のデータを簡単にインターネットから呼び出してきて再生し、生徒に歌わせることができるんです。日本も、たとえば四国に架ける橋を3本ではなく2本にしていたら、日本全国、すべての教室に同じ環境を整えるお金が捻出できたんですが(笑)。

兼宗進氏
兼宗: 韓国では、本当にすべての教室でその環境ができているんですね。

原: 本当に、小学校から中学校まで全ての教室に入っているんです。日本では国がやらないから、民間がやらなければならなりません。
 しかし、すべての教科書会社がすべての教科でデジタル教科書を発行するには、資金的な難しさや著作権の問題などがあって、会社によって対応にばらつきがあります。
 ITEM(IT活用教材標準化委員会)ではそうした問題点や課題をもちよって、できるだけ多くの教科書会社がデジタル教科書を発行できるように研究をしています。

兼宗: 数学や理科は電子教科書のメリットが比較的イメージしやすいのですが、ほかの科目でも使えるんですか。

原: たとえば社会科であれば地図を指し示しながら説明したり、あるいは、歴史絵巻を見せながらどこに何が書いてあるのか解説したり、そういう指示を正確にできるメリットがあります。書画カメラを使えば同じようなことはできますが、セットするのが難しいんですよね。そのセットにかかる時間が惜しくて「ページの右上のほう」などと抽象的な説明になっていたのが、電子教科書なら簡単に、正確な授業を行えるのです。

(構成 曽根武仁=百年堂、次回に続く)