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「あのー、ナカノくん?」
 はい、モリタ部長!
「いま、時間ある?
 はあ、取り立てて急ぎの仕事はございませんが。
「ちょっとコーヒーでも飲まない? ごちそうするよ」
 ありがとうございます!

「いやいや、わっはっはっ。どう、最近?」
 お陰さまで元気にやっております。
「あっ、そう……ジャム好き?」
 は?
「あっ、いや、トーストを食べるとき、ジャムとバターとどっちが好きかな、と思って」
 はあ、そうですね、どちらも好きです。そう言えば先日、自分でラズベリージャムを作ったんですよ。
「ホントに!? 自分で作れるんだ! へえー……ジャムって、困る?」
 えーと……作りすぎると困ることがありますね。あっ、あと、洋服につくとなかなか取れません。
「それだ!」
 どれですか!?

「あっ、いや、ジャムに気をつけろって部下に言われたんだよ」
 ジャムに。会社でですか?
「うん。最近、ジャムに悩まされたことがあるらしい」
 ……(小声で)モシカシテ……モリタ部長、わたしも苦手なジャムが一つございます。
「え、なに? 苺ジャム?」
 プリンターのジャムです。
「……プリンターの……?」
 紙詰まりすることを“ジャム”、“ジャムる”などと申しますよね。そのジャムが苦手なんです。
「……あーーー! あれね! あれか!」
 はい、あのジャムが起きると、扉を開けて中を見なければなりません。あれが苦手なんです。
「うんうん! わかるわかる! 私もあれは苦手だなあ! うんうん、ジャムに気をつけろ、っていうのは、紙詰まりに気をつけろってことだったんだな!」

 プリンターも高機能になった分、いろいろ扱い方を覚えなければならないのが大変ですよね。
「そうだねえ。ほら、粉がなくならないように見ておかなきゃならないし」
 粉……。
「わっはっはっはっ、よくみんな言ってるじゃない、プリンターの“コナ”って」
 ……トナーでございますね!
「……トナー?」
 トナーカートリッジが空になると印刷できなくなりますね。
「……コナじゃなかったんだ……」
 いえいえ! 粉でよろしいんですよ! トナーカートリッジの中身は、粉ですから。さすがはモリタ部長、お詳しいですね。
「……いやあ、まあね! それぐらいは知ってるさ! わっはっはっはっ!……コーヒーもう一杯どう?」
 いえ、まだございますので。

「……あのー、ナカノくん、スキーする?」
 スキーですか? ここ数年行っておりませんが、学生時代は何回か。
「ストック使うよね?」
 ……スキーはストックを使いますね。スノーボードは使いませんが。
「……スキーじゃないのかな……株式のストックかな……それとも……宇宙人?」
 スポック?
「いや、違うな……プリンターの話をしていてね、部下が『ストックで出してしまったのであとで相当たくさん刷る必要がある』って言ってたんだけど……」
 スタック!
「それだ!」
 印刷文書をそのままの順番で重ねて出力することですね。
「あー、そうそう、それそれ!」

 ……『相当たくさん刷る』?
「うん」
 確かに『たくさん』と?
「……いや、たくさん、ってのは私が入れたんだ。彼は『相当刷る』と言っていた」
 ……そうとうする……そーとーする……『ソートする』!
「……ソート?」
 複数ページの文書を何部か印刷するとき、ページ順に並んだ文書を一部ごとに分けて印刷する機能です。
「……丁合(ちょうあい)か! 丁合だな! あーっ、いやいや、わかってたんだけど、ちょっと出てこなかったんだ。スタックとソートだよね!」
 とっさに出てこないこと、ございますよね。
「あるある! わっはっはっはっ! いやー、ナカノくん、ありがとう! またコーヒーおごるよ! じゃあねっ! おーい、イノウエくん! ソートしててジャムったらトナーがつかないように気をつけるんだぞ!」
 不思議だなー。モリタ部長の知ったかぶりって、なんでイヤミじゃなくてカワイく感じるのかしら?……あ、社長に似てるのかな?