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 インターネットエキスポ日本館のコンテンツ制作を手掛けてきた京都造形芸術大学の竹村真一教授。今回は「ブレシング・アース」、あのリアルタイムな世界地震の発生状況を可視化したシステムの詳細について聞いてみた。

「日本は地震国ですからね、地震をテーマに、例えば阪神大震災の瓦礫の山の写真とか、テキストを載せて、「地震と我々はいかに共生するか」ということをメッセージ発信することだって日本館としてはできたんです。でも、手法としては、テレビとか雑誌でやっていることをそのままネットに移すだけですよね。これでは皿は新しくなったけど、料理は新しくなっていない。そこで、「情報蛇口」や「感性博物館」などを考えてきた経緯から発想し、阪神大震災は確かに大きかったけど、地球のどこかでは地震は頻繁に起こっているはず、それなら、地球で常に起こっている地震というものに対して、日常的にセンシティブになるような社会インフラ、感性の社会インフラを作りたいなと思ったわけです。

 そこでWebを探ってみたところ、その基礎となるデータを発見しました。地震学者たちがほぼリアルタイムに、世界中の地震計のデータを集めてきただけの全部数字の羅列でしたけどね。96年当時のことです。

 そこでは、アメリカの地質学研究所のような各国の公的機関が、リージョナルな、例えば北米地域で発生した地震情報をほぼリアルタイムで公開していたんです。こういうのをちゃんとコンパイルしていくと、リアルタイムのボコボコする地球を作れるなという直感を感じました。ここまで見えたらだいたい仕事はできてしまう。後はそれを実現できるプログラマーとか、アーティストとかを、この指止まれ式で集めて、形にしたんです。料理のイメージがあって、そこで使う食材のイメージがはっきりしてくれば、コンテンツはすぐにできちゃいます。

 実は、この作業を始めていくことで、おもしろい事実に突きあたりました。地震学研究所とか、そういう公的なところは、地震研究と、マグニチュードの小さい4以上のものしか、Web上で公開していないんです。小さい微震データは、消しているんですね。しかも、情報フィールドが、リージョナルな情報発信に留まっていて、グローバルに見ることができない。そこで、微震データも含めた地球の胎動を考えたいと思っていた私たちは、改めてそんなデータを探し始めました。

 そこで行き当たったのが、なんとも皮肉なことに、地震計のデータを用いて地下核実験を監視するサイトだったんです。今となっては昔話ですが、ブッシュ政権がCTBTを批准していれば、その監視データ網が動き出すという予定で準備されていたものでした。批准されない今となっては、お蔵入りになっているセンシングデータシステムなんですが、あの頃は試験的に動いていたので、それをネット経由で入手することができたんです。

 1日何回か最新の地震情報をダウンロードすることで、このシステムが完成しました。僕らは、最小限の制作費はインターネットエキスポからいただいてはいましたが、地震計のデータも、Webcamのデータも、別にお金を払って入手しているわけではないんです。

 こうした作業を通じて感じたことは、最近では「グーグル経済」などと呼ばれていますが、初期投資は限りなくゼロに近い価格で、情報がジグソーパズルのように無限小が無限大につながり合うと、すごい価値を生む経済現象が様々にあり得るだろうという確信でした」

 限りなくタダに近い、誰も使っていないリソース。あるいは、地震学者が地震研究に使うか、地下核実験の監視に使うか、結局機能的な使われ方しか想定されていなかったコンテンツ。それらを、社会の感性インフラや地球的な感性インフラに転用していった。それが竹村先生のミッションの一角を占めていることは間違いない。

 こうしたひとにやさしいITシステムが次々に誕生すれば、宇宙からの視点で地球を丸ごと体感することができるし、インターネットや衛星で結ばれた地球市民イベントを、地球大で共有できるITネットワークを様々に生み出すこともできるようになる。そこに、ある種のビジネスモデルを組み付けることで、従来にはなかったグローバルビジネスを構築することも不可能ではないだろう。

 地球を覆うような神経系回路が用意されてくれば、それが世界貿易機関や世界銀行に変わる地球経済の認証機能を担うことさえできるかも知れない。災害を拡大化させる森林伐採による木材、食料調達の最重要課題である水資源。それらを安直に単なる貿易財として評価してきたこれまでの地球経済システムに対し、竹村先生のプロジェクトは静かな闘いを挑んでいるのだ。