PR

「ナカノさん!」
 あらこんにちは、クボタくん。
「プリンターの横で何してるんですか?」
 ああ、これ? 宛名印刷用のラベルシートを手差し印刷してるの。
「手差し印刷? このシート、A4サイズですよね。普通に用紙カセットに入れて印刷しちゃいけないんですか?」
 いけないのよ。ほら、シートの入ってる袋にもそう書いてあるわ。ラベルシートって糊がついてるでしょ? プリンターの中でラベルがはがれたりしたら大変なことになるからじゃないかな。

「手差し印刷だとその心配はないんですか?」
 うーん、絶対ない、とは言えないだろうけど、まあ、ドラムやローラーを何度も通ってクネクネ曲がることはないから、かなり安心なんじゃないかしら。
「なるほど。やっぱりそうか…」
 “やっぱり”って?
「いえいえ! なんでもありません!」
 …何見てるの?
「えっ?…いや別に」
 まだしばらくかかるけど?
「あー、どうぞどうぞ、ごゆっくり。勉強させていただこうかと思って」
 へー。それはどうも。
「どうも」

 …ごめん、やっぱりずっと横に立っていられると気になるんだけど。
「あっ、そうですか? そりゃどうもすみません。じゃあ、失礼します」
 ごめんね。
「いえいえー、どうもー!」

 

 

 …クボタくん…。
「えっ!? みつかりました?」
 柱の陰から顔出してるの、思いっきり見えてるんだけど。
「すみません…」
 はい、わたしの印刷は終わったから代わるわよ。どうぞ。
「すみません、すみません! 本当にすみません!」
 いいわよ、気にしないで。じゃあね。
「ナカノさんっ! ありがとうございましたあー!…さて…手差し印刷の口はどこだ?…ここか。よし、じゃあここから…あれ。入らないぞ? ここじゃないのかな? こっちかな?…いや、ここからも入らないぞ。あれー、どこだどこだ、どこから入れればいいんだ?」

 クボタくん?
「ひゃああああ!」
 なんて声出すの! みんなが見てるわよ!
「う、あ、お、あの、なんでしょう、ナカノさん?」
 プリンターの周りで、何をこそこそやってるの?
「…見つからないんです…」
 何が?
「用紙カセットに入れちゃいけないのはわかってるんです。でも手差しする入り口もわからないんです。それでナカノさんの作業をじっくり見せていただいたんですけど…やっぱりわからないんです」

 やってあげるわよ。どんな用紙を印刷したいの?
「…これです」
 …これ、CD?
「DVDです。あっ、趣味のDVDじゃありません! 業務の一環です。工場の製造工程のムービーが入ってるんです。クライアントさんにお配りするのに、きれいなレーベル印刷をしようと思って。もうデザインもできてるんです! あとはこのプリンターで印刷するだけ!」
 クボタくん。残念だけど、うちのこの複合機ではCDやDVDに直接印刷することはできないの。
「ええーっ! ウソっ!」

 あのね、いくら手差し印刷が特殊な用紙に対応してるからって、こんな丸いものがおとなしく中を通ってくれるわけないでしょ?
「うううーっ(涙)、じゃあ、どうすれば?」
 そうね、インクジェットプリンターを使うか、そうそう、最近はレーベル印刷ができるパソコン用のDVDドライブもあるらしいから、誰かそれを使ってないか聞いてみたら?
「そんなDVDドライブもあるんですか!? 全然知らなかった! なんてこった! 先週自宅のDVDドライブ交換したばっかりなのにー(号泣)」
 ちょっと…泣かないでよ! ああーっ、なんでもありません、なんでもないの!…クボタくん、コーヒー飲みに行こう、ねっ、ねっ、会社で泣くのはやめようね、ねっ…時々自分が幼稚園の先生に思えてくるわ…(涙)