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 自治体だけに限りませんが、情報システムの刷新というのは、実に難しい課題です。前回、自治体EA事業を行ったケースとして川口市を紹介しました。実は、総務省から自治体EA事業のモデルケースにならないかという話があったとき、川口市も情報化を巡る基本計画を練り直そうとしていたところだったそうです。

 もともとは2002年度から2006年度までを対象とした基本計画だったそうですが、団塊の世代が大量に退職する、いわゆる2007年問題や、市民のニーズの変化を受け、計画の見直しを計ろうとしていたということでした。そのときの目的の第一にはコストダウンが掲げられていました。

 一般的にいって、地方自治体の情報システムは、戸籍や住民票、税、年金など業務ごとにバラバラに開発されてきたという経緯があります。それは川口市も例に漏れません。

 こういう状況の場合、その時々に応じて、システムを独自に拡張してきたため、開発を特定の事業者以外には依頼ができない、すなわち特定の事業者に依存せざるをえない状況に陥ります。当然、受注する側にとっては競争がないわけですから、開発費用も事業者の言い値に乗らざるを得なくなってしまいます。

 技術も未発達、情報機器も高価だったため、仕方がない面もあるのですが、この問題は、業務が「主」で、情報システムが「従」であるという発想ゆえに起きていたと考えることもできるのではないでしょうか。つまり、今までの仕事のやり方は変えず、組織内部のスタッフの業務を減らすために情報システム、すなわちITを使うという考え方で発想してきたということです。

 情報システムが限られた大組織の中で使用されていた時代は、それでもよかったでしょう。しかし、今は、住民も自らの家庭にコンピューターを持ち、インターネットという広大なネットワークの上にある巨大なデータベースに、低コストで接している時代です。住民はITを使えば、何か可能になるのかを直感的に理解しています。

 例えば、引っ越し。住民はさまざまな手続きを行わなくてはなりません。ひと昔前なら、分厚い電話帳をめくりながら、電気、ガス、水道、電話など公共サービスの顧客対応窓口の電話番号を調べ、1件1件電話し、場合によっては送られてきた書類に、同じ内容を繰り返し手書きで記入しなければなりませんでした。それが今では、パソコンの前に座り、検索サービスで公共サービス会社のホームページを探し、そこにはほぼ間違いなく用意されている引っ越し受付フォームに、必要な情報を記入(多くの場合は、コピーアンドペーストでしょうが)して、送信ボタンを押せばよいのです。もっと楽をしたかったら、引っ越し時の諸々の手続きを代行してくれるサービスもネットで見つけることができます。

 ところが、役所が窓口となる手続きはどうでしょう。転入手続き、こどもの転校手続き、印鑑証明書の作成、健康保険、国民年金などなど。同じ役所が窓口となって受け付ける情報であるにもかかわらず、複数の書類を作成させられ(その多くは名前、住所、電話番号といった同じ内容を手書きで記入しなくてはなりません)、異なる担当窓口へと順番に住民自体が移動していかなくてはならないケースさえあります。

 情報を管理している担当部署が違うから仕方がないというのが、今までの発想だったかもしれません。しかし、今の住民はインターネットを通じて、情報がつながっていることで生み出される利便性をよく理解しています。「役所の中でデータをやりとりしてくれたら、私が同じ内容を手書きで何度も記入しなくていいのに」と思う人も少なからずいるでしょう。

 話が遠回りしましたが、情報システムというものは、もはや自治体内部を見て考える時代ではなくなっています。自治体と接点を持つ組織や人との間でどのような情報が流れていくのか、その理想型はどういうものなのかといった大きな視点で考える時代になってきたのではないでしょうか。それこそが、ICT時代のシステムのあるべき姿だと私は考えています。

 そのためには、「情報システムの見直し」に際して、コストダウンに一番のプライオリティーを置くことは適切ではないでしょう。コストダウンというのはその価値が非常にわかりやすいのですが、どの部分を削るのか、またどの部分は残すのかという判断の材料にはなりません。

 行動にプライオリティーを付けるための、現状認識が組織の中でバラバラでは、結局、今ある体制を守ろうという考えもまた力を持ってしまうものです。例えば、情報システムの例で言えば、データは無事に移行できるのか、職員が新システムに確実に適用できるのか、業務手順が変わることでミスがふえるのではないか、などなど。どれもそれなりにもっともな懸念です。多くの人を巻き込んで新しいことを実行しようとするとそれに反対するそれなりの理由があるものなのです。

 だからこそ、現状の分析と、現象に対する認識をすりあわせる段階から、組織の中の多くの人々を巻き込んで、自分たちが抱えている課題がなんなのかを、組織の構成員それぞれが自分の言葉で表現し、理解し、共有することが必要なのです。その結果として、情報システムの刷新が住民の利便性の向上を第一の目的とし、第二の目的としてコストダウンがあがったのならば、施策もその目的に応じて、優先度が決まってきます。

 このように、自治体職員の中で「気づき」を共有するための取り組みが、自治体EA事業であり、長野県小諸市での開票作業なのです。私はマニフェスト運動で数値目標の大切さを訴えていますが、数値目標の導入は、現状認識を共有した上で、目指すべき方向をはっきりさせ、組織の力を結集させることが可能になるからこそ意味があるのです。

 なお、自治体の計画ではビジョンから具体的な施策までは非常によくまとめられていますが、その施策をどうやって評価するのかまで落とし込んでいるケースはあまりみられません。

 しかし、川口市の情報化実施計画というものをみると、重点施策という項目の右側に評価指標として、高齢者利用率、市民への対応時間、登録件数、利用回数、決裁時間などかならず数値に落とし込める指標が掲げられています。これは非常に重要な点です。

 数年にわたる計画の場合、計画策定時の担当者と計画終了時の担当者が変わるケースもあるでしょう。しかし、計画を何によって評価すべきかまで明示しておけば、その事業で何がどのくらい改善されたのかがチェックできます。マニフェストと同じように、自治体の行動計画も、評価されることを前提に作成される時代が訪れつつあるといえるでしょう。