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「あー、ちょっといいかね」
 はい、社長。
「次回の社長親睦会は、わたしがプレゼンをすることになってね、事前にパワーポイントで作ったプレゼンを送ったわけだ」
 はい、わたくしが作成させていただき、社長がお送りになりました。

「そうだよね。作ってもらったね。作ってもらったけど、そのー」
 ……まさか、あのプレゼンに何か不手際が? 申し訳ありません!
「いやー、違う違う! 大好評! もうね、送った社長仲間のほぼ全員から絶賛メールの嵐! ははは」
 それはようございました。
「『マスタースライドを使うとは手慣れておられる』とか『動画をこんなに軽く作るにはどうしたらいいのですか』とか、もういろいろと」
 あっ、質問が殺到してしまったのでしょうか? 申し訳ありません、わたくし、凝りすぎてしまったかもしれません。ご質問には一つひとつ回答を用意いたしますので……。

「あー、それももちろんありがたいんだけど、一人だけ『Ms.ナカノによろしく』って書いてあってね」
 それは、わたくしが社長の秘書を務めさせていただいていることを、ご存じの方なのでは?
「あー、うん、まあ知ってるかもしれないけどね、つまりその、書き方がね、ナカノくんが作った、って分かって書いてるんだよね」
 実際わたくしが作ったのですが。
「まあ社長のプレゼンって言えば、普通秘書が作ると思うよね」
 そうですね。
「そうなんだけどね」

 まだ何か?
「あのー……ここだけの話にしてくれるかな」
 もちろんです。
「添付して送るときにね……自分で作ったって書いちゃったんだ」
 えっ!
「いや、あの、まあ実際今勉強中だしね、パワーポイント。習作で恐縮ですが、と書き添えたんだけど」
 ははあ。なるほど。つまり、社長がご自身で作られたはずのパワーポイント書類を見て、実際に作ったのがわたくしであることを見破った方がおられた、というわけですね。
「そうなんだ。恥ずかしい。実に恥ずかしいが、なぜ分かってしまったんだろう?」

 社長、その書類を拝見できますでしょうか?
「ああ、すぐ開けるよ」
 いえ、開かないで結構です。失礼します……ああ、これですね。この書類の上にマウスポインターを持って参りますと……
「うおおおおお! なんだこれは!“作成者:Ayumi Nakano”」
 マイクロソフトのオフィスをインストールするとき、使用者の名前を入力いたしますね。その名前が、タイトルや更新日時とともに、ここに出てしまうのです。
「ええーっ! ワードやエクセルもそうなのか!?」
 はい。
「き、気づかなかった。ファイル名と日付が出てるとは思ったが……」
 もちろん、ファイルのプロパティから書類ごとに名前を書き換えたり、出ない設定にすることもできます。

「いやー、いい勉強になったよ。……しかし、ということは、ほとんどの仲間が気づいたわけだな……」
 大丈夫でございますよ。中身をお考えになったのは社長ご自身なのですから、念のため秘書に作らせていた方を、うっかり送ってしまった、とでもおっしゃれば。
「そうするよ。ありがとう。ああ、もう下がっていいよ…………えーと、わたしのパワーポイントの使用者名はどうなっていたかな。あんなもの適当でいいと思っていたからな……“つよぽん”……書き換えなきゃ(汗)!」

※日経パソコン掲載の「本編」を特別収録しました。