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「NTTドコモは、ずっとNTTドコモのままです。会社名がコロコロ変わったりしません――」。脚立に登ったNTTドコモブースの販売員が、熱く連呼しています。これは、先週末に訪れた大阪・梅田の家電量販店での一コマです。

 2006年10月24日に携帯電話番号ポータビリティー(MNP)制度が始まって最初の1週間が過ぎました。MNP開始前日の月曜(10月23日)夜にソフトバンクモバイルの孫正義社長が突如発表した「予想外割」(関連記事)で明けた一週間は話題満載、かつ怒とうのような勢いで過ぎていきました。

 木曜日(10月26日)の早朝には、孫社長が端末の「頭金0円」販売(関連記事)の戦略を明かしました。そして、金曜日(10月27日)にはNTTドコモ決算発表の場で中村維夫社長がソフトバンクモバイルを痛烈に批判(関連記事)。土曜と日曜(10月28~29日)には、申し込み殺到によってソフトバンクモバイルの受付システムがダウンし、明けて月曜(10月30日)にソフトバンクモバイルが新料金プランを追加値下げしました。

 量販店の店頭でも、冒頭に見られるように総力戦ともいえる販売合戦が繰り広げられ、各店舗とも販売員とユーザーでごった返しました。この1週間、筆者が東京、大阪、横浜の家電量販店を見て回った範囲では、やはりソフトバンクモバイルへの反響が圧倒的に多いようです。

 筆者が木曜日(10月26日)午後に東京・有楽町の家電量販店を訪れた際は、ソフトバンクモバイルの受付カウンターに20人近いユーザーが列をなしていました。ただし、それが直ちにソフトバンクモバイルの契約増を意味するわけではありません。予想外割をめぐっては、0円のインパクトが強い半面、細かい制約条件の多さに批判もあることから、契約の増減がどの程度になるか予想は難しいでしょう。電気通信事業者協会(TCA)が2006年10月の携帯電話契約数統計を発表する来週、さらには11月の統計を発表する12月上旬まで、情勢は流動的です。

携帯の「本当の価格」を知っていますか?
 筆者が注目しているのは、今後数カ月でのシェア変動より、むしろ長期的な携帯電話産業の構造変化です。携帯電話事業の構造問題については、さまざまな課題が挙げられていますが、ここでは端末の販売奨励金(インセンティブ)をめぐる動きについて触れたいと思います。

 ソフトバンクモバイルは、10月26日の「頭金0円」による割賦販売開始に併せ、携帯電話の希望小売価格の表示を始めました。例えば、シャープ製の中位機「SoftBank 811SH」や、パナソニックモバイルコミュニケーションズ製の「SoftBank 705P」と2GBの「iPod nano」のセット品は、いずれも6万4080円となっています。

 一般的な端末の価格が1万~2万円程度、ときには「1円携帯」もあることを考えると、大幅に高い価格です。しかし、実はこれこそが本当の価格なのです。本来は5万~6万円する携帯電話に対し、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクモバイルなどの通信事業者が販売奨励金(インセンティブ)を支出することで、実勢価格を下げているのです。その分の費用は、月々の利用料金からねん出されています。

 総務省が2006年7月に公表した「新競争促進プログラム2010」報告書案によれば、インセンティブの平均価格は4万円弱。携帯電話の平均買い替え期間が2年程度であることなどを基に試算すると、ユーザーが毎月支払っている利用料金の1/4はインセンティブに回され、端末の安売りの穴埋めに使われている計算になります。

 国内におけるインセンティブの仕組みは、携帯電話の普及が始まった1995年ころから徐々に顕在化してきました。携帯電話の新規加入を増やしたり、シェアの伸び悩んでいる通信事業者が巻き返しの手段として利用したりしました。また、ユーザーが高機能機に手を伸ばしやすくしたり、売れ残った機種の在庫を処分したりする目的にも用いられました。インセンティブの価格を調べたところ、10年前の報道を見ると1万円程度となっていますが、その後一段と高まっているようです。

 携帯電話の普及期にはこうした仕組みが有効に機能し、国内市場において高い普及率と技術的な進歩をもたらしました。しかし、ユーザーからは端末価格が常に安く見えるため、端末の開発・製造コスト削減がなかなか進まないという弊害ももたらしました。また、同じ端末を買って使うはずなのに、新規契約と機種変更では価格に大差が付いているという不公平感もあります。

長く使うユーザーほど不利になるなんて…
 同じ端末を長く使うユーザーが損をする、というゆがんだ構図も顕在化しています。一般にインセンティブ制度は、ユーザーが平均的に2年程度使うという前提の基に成り立っています。しかし実際には、3~4年使い続けるユーザーがいる半面、1日で解約するユーザーもいます。ユーザーが解約すれば、もはやそのユーザーから料金を徴収することはできません。おのずと他のユーザーの支払った月額料金の一部を損失の穴埋めに回すことになります。この穴埋め額は、ユーザーが短期間で解約すればするほど、また端末の値引き額が大きければ大きいほど増えます。

 通信事業者にとっても、今となってはこの制度は悩みどころです。最大手のNTTドコモの四半期決算をひもとくと、一般の企業ではあまり見られない「増収減益」と「減収増益」という不思議な現象が、ひんぱんに登場します。端末の販売は売上高となりますので、端末が多く売れれば増収になります。しかし同時に、インセンティブの支払いも増加するため、営業利益を押し下げる作用が働きます。「端末がたくさん売れたので利益が減った」という、いわば豊作貧乏の状態になるわけです。

 逆に端末の販売が不振ならば、営業利益が増えるといういびつな構造が表面化します。NTTドコモの中村維夫社長自身、決算発表会のたびにインセンティブの問題に言及し、「現状が必ずしも好ましいと思っていない」との考えを表明しています。

 これまで安い価格に慣れきっていたユーザーからすると、5万~6万という希望小売価格には目を疑いたくなるかもしれません。とはいえ、それはあくまで端末購入時の目先の支払額の話なのです。上記のようにインセンティブによる価格調整は様々な矛盾をはらんでおり、ユーザーにとってデメリットのある仕組みになっています。

 ソフトバンクモバイルは、話題となっている「頭金0円」の販売方法である新スーパーボーナスにおいて、12~24回の分割払いを提供し、短期解約のユーザーからは解約時に分割払いの残額を徴収するというやり方を提示しました。また、この分割分を購入時に一括で支払うことも可能にしました。店舗によっては積極的に提示されていませんが、従来のインセンティブ方式による実勢価格1万~2万円での販売も続けています。分割払いをユーザーがどこまで受け入れるかは未知数ですが、端末価格の支払い方について、複数の方法を提示したというところに、筆者は脱インセンティブ制度に向けたソフトバンクモバイルの戦略を感じています。

 現在はMNP開始に伴う冒頭のような激しい販売競争や、ソフトバンクモバイルの戦略的な料金体系にばかり注目が集まっていますが、筆者としてはMNPが沈静化した後、携帯電話業界が自らの構造問題にメスを入れられるかどうか、そして飽和しつつある市場の再度の活性化を模索できるかに、目をこらしていきたいと考えています。