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 「第2回 中等教育における情報教育に関する国際会議(ISSEP2006)」参加レポートの続きです。今回は、日本から参加した静岡大学教育学部の紅林秀治先生の発表を紹介します。 紅林先生は11/9のプログラミング教育のセッションで発表し、日本で進めている小中学校での情報教育を報告しました。司会はミュンヘン工科大学(ドイツ)のPeter Hubwieser教授です。発表終了後も多くの国の参加者から質問を受けるなど今回の発表の中でも、関心を集めた内容だったと思います。
紅林先生の発表

プログラミングを学ぶ意味

 紅林先生は、最初にひとつのエピソードを紹介しました。 2006年6月に東京のマンションで高校生がエレベータに挟まれて死亡する痛ましい事故がありました。この事故は原因のひとつとして、エレベータを制御するプログラムの問題が指摘されています。

「現代では、このように身近な機械の中で多くのソフトウエアが使われており、その原理を知ることは現代社会を生きるために必須の知識になりつつあります。しかし、多くの高校生は、この事故が起きた理由を理解することができませんでした。なぜなら、コンピュータの使い方だけを学んで、プログラミングを体験したことがなかったからです。そこで私たちは、「制御プログラミングの学習を通して技術リテラシーを学ぶ」教育の研究をしています。

コンピュータ技術の専門家にならない人であっても、今回のような報道や専門家の解説を耳にしたときに、何となくでも意味が理解できることは、IT社会の中で自分で考えて判断できる市民になるためにとても大切です。」

ハードウエアとソフトウエアの結び付きを学ぶ授業

 続いて、本題である学校での情報教育の話に入っていきました。

 「コンピュータはソフトウエアとハードウエアで動いており、ソフトウエアはハードウエアと同様に人間によって作られたものです。ですから我々は、プログラミングを学ぶことは「ものづくり」を学ぶことだと考えています。

 特に我々はロボットを制御するプログラミングの効果に注目しています。それは、コンピュータをハードウエアとソフトウエアの両方向から理解できる教材であることと、ソフトウエアという目に見えないものを実世界の動きで確かめられること、そしてプログラミングとして理解しやすいからです。

 中学校の生徒たちの学習を紹介します。最初に、車の形をしたロボット(ロボットカー)を作成します。最初にICなどの部品を半田付けして基板を組み立てます。次に、車輪やギア、モーターなどを取り付けて完成です。授業では、初めてドライバを手にした生徒もいましたが、みな楽しんで取り組んでいました。」

ロボット製作の様子

プログラムを転送して動かしてみる

 プログラムはドリトルで作ります。ドリトルは日本語と英語で動くので、紅林先生の発表では2種類のプログラムを見せながら説明をしていました。

「教材として使ったロボットカーは、CPUが内蔵されている小さなコンピュータになっています。パソコンのドリトルからプログラムを赤外線で転送すると、それを記憶して動くことができます」

ロボットカーで動作を実演

中学生が学んだこと

 授業の最後に中学生の意識を調査したところ、全員が考えながら工夫する授業ができていることがわかったそうです。「難しいけど楽しい」ということは、一生懸命考えながらそれを楽しんでいることを意味します。それをクラスのほぼ全員が感じていたということで、生徒たちにとって得がたい体験になったようです。

 「最後に、完成したロボットを使い、迷路を抜けるプログラムを作ってゴールまで行く競技をしました

迷路で競争

 生徒にアンケートをしたところ、「ロボットのプログラミングは難しい」という結果が出ました。同時に、「ロボットのプログラミングは楽しい」という結果になりました。適度な難しさを感じながら、それを乗り越える喜びを感じていることがわかりました。

 ロボットを制御するプログラムを作る前に、生徒たちはプログラミングの練習としてドリトルの画面で動くゲームプログラムを作りました。

 授業の最終回にドリトルのプログラミングとロボットの制御プログラミングを比較するアンケートをしたところ、考えることが好きな生徒はドリトルのプログラミングを好み、そうでない生徒はロボット制御のプログラミングを好む傾向があることがわかりました。プログラミングを学ぶときは、画面のプログラムを学んでから制御に進むことが多いと考えられていましたが、制御プログラムからプログラミングを始めるメリットがあることがわかりました。」

他国の研究との接点と違いは

 紅林先生は、現在モーターを3個にした新しい教材の授業に取り組んでいるそうです。

 「今回は2個のモーターで左右の車輪を制御するロボットを作りましたが、今後はもうひとつ「お仕事」をするための3個目のモーターを加え、ボールなどを運ぶ新しいロボットのプログラミングに取り組んでいます」

3軸ロボット

 世界的には、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)で進められている研究と関連が深いようです。

 「今回の発表に関連する世界の研究としては、MITで研究されているレゴマインドストームクリケットがあります。両方とも優れた製品ですが、レゴマインドストームはCPUなどが外から見えず、コンピュータの仕組みを見ながら学ぶには不向きです。クリケットは科学教育の教材として研究が進められており、コンピュータの仕組みを理解するための我々の研究とは方向性が違います。それぞれが独自の特徴を持っていることがわかりました」

レゴマインドストームとクリケット

発表のまとめ

 最後に、今日のまとめの話がありました。プログラミングの授業の最初からロボット制御を取り入れることの提案は、とても効果がありそうに感じました。

 「今日の発表をまとめると、ロボットを制御するプログラミングを取り入れることで、「難しいが面白い」という理想的な教育を実現できました。生徒たちはコンピュータ内部のプログラムと実際のロボットの動きを、学習の中で結び付けて理解できました。そして、ロボットを自作することで、大きな達成感を得られました。考えることが好きな生徒はドリトルのプログラミングを楽しみ、そうでない生徒はロボット制御を楽しむ傾向があり、それぞれ、違った形でコンピュータを楽しみました。

 結論として、プログラミング教育にロボット制御を取り入れることは効果が高いことを確認できました。高いモチベーションを得られ、総合的な学習が可能で、幅広い生徒に適応可能です」

 発表の後、会場からはたくさんの意見や質問が出されました。 MITのクリケット開発プロジェクトで活躍してきた Fred Martin先生(現在マサチューセッツ大学ローウェル校講師) からは、「電気と機械、プログラミングという3つの要素がバランスよく扱われていてすばらしい教育になっている」というコメントがありました。

 紅林先生は、休み時間になってからも、多くの国の参加者から質問を受けていたのが印象的でした。ISSEPに参加した各国の教育研究者に対して力強いメッセージを送り、それがきちんと相手に届いているのを確認できたことは、今回参加した大きな収穫になりました。

 今回は、日本から参加した紅林先生の発表を紹介しました。次回は、私の発表を報告します。