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 「第2回 中等教育における情報教育に関する国際会議(ISSEP2006)」参加レポートの続きです。

 今回は、私(兼宗)の発表を報告します。「各国の状況」セッションで、日本の情報教育の現状と自分たちが進めているプロジェクトを紹介しました。司会はタルト大学(エストニア)のAnne Villems先生です。発表前に、ケラニヤ大学(スリランカ)のChandima H. de Silva教授と挨拶することができました。

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分科会が行われた議員会議室

日本の情報教育

 最初に日本について紹介しました。ヨーロッパを中心とした世界地図で見ると、日本は東の端にあり、まさに極東です。国土の大きさに比べて人口が多く、GDPは世界3位の経済大国です。参加者に「日本の企業を知っていますか?」と問いかけたところ、会場から「TOYOTA」「SONY」など、たくさんの名前が挙げられました。また、今回の発表に対して「日本の進んだ情報教育を参考にしたい」という期待を感じました。

 続いて日本の情報教育の制度を紹介しました。小学校では、総合的な学習の時間などで扱われることがあります。中学校では、技術・家庭科の中で3年間に35時間学習します。高校の普通科では、情報(A,B,C)として3年間に70時間学習します。合計すると約100時間です。

世界的な学力とコンピュータ利用調査

 日本の生徒の基礎的な学力については、経済協力開発機構(OECD)が 3年ごとに行っている国際学習到達度調査(PISA)が参考になります(PISAホームページ文部科学省によるPISA2003の要約)。 2003年に加盟国の15歳の生徒を対象にした調査では、日本は数学的リテラシーで2000年の1位から6位に、読解力も8位から14位に後退するなど、いわゆる「ゆとり教育」を見直すきっかけになりました。しかし、科学的リテラシーは2位、問題解決能力も4位であるなど、現在も国際的な水準を維持しています。

 しかし、不思議と話題になっていませんが、同時に行われた情報機器の活用能力に関する調査「生徒は高度技術社会の準備ができているか?」(Are Students Ready for a Technology-Rich World? What PISA Studies Tell Us) では、15歳の生徒がコンピュータを利用する割合は、日本はOECDの加盟国中で最下位に近いレベルになっています。たとえば、「自宅で学校の勉強のためにコンピュータを使う生徒」は40%台で、40カ国中30位です。韓国やオーストラリアなどの上位10カ国が90%を超えていることに比べると、日本が極端に低いことがわかります。

 さらに、「コンピュータをプログラミングのためによく使う」という割合は、米国で33%、OCED平均で23%ですが、日本はわずか3%と最下位になってしまっています。

 この事実は、聴衆に大きな衝撃を与えたようです。後でご紹介するように、さまざまな国の参加者から「このままで日本は大丈夫なのか?」という意見や質問が出されました。

生徒が利用する情報端末

 次に、携帯電話の普及を報告しました。日本では、中学生の50%以上、高校生の90%以上が携帯電話を所有しています。多くの電話機は電子メールやWebブラウザ機能を備えており、携帯電話さえ持っていれば日常生活で不自由することはありません。

 便利なことはよいことですが、多くの生徒にとって、携帯電話が実質的に唯一のデバイスになってしまっていることは問題です。携帯電話は、基本的には個人間のコミュニケーションと情報の受信のために利用されており、クリエイティブな活動には向いていないからです。

 発表では、「日本の情報教育のひとつの問題は、消費者の育成を行っていることにある」という話をしました。これは高機能な携帯電話を普及させたり、コンピュータの使い方の教育だけを行うことが相当します。

 しかし、日本が今後も工業先進国として進んでいくことを考えると、消費者の育成だけでなく、クリエイティブな人材の育成が必要です。

我々の取り組み

 クリエイティブであるためには、「自分で新たなものを生み出すことができる」という経験が必要です。たとえば美術の授業では、生徒は絵を描く体験を通して、自分の興味や才能に気付くことができます。コンピュータに関しても、出来合いのソフトウエアを使うだけでなく、「プログラムによって新しいソフトウエアを生み出す」体験は、生徒にとってとても貴重なものになります。

 発表では、残念ながらこのような教育が日本では行われていない現状と、それを補うために、いくつかのIT教育プロジェクトが行われていることを紹介しました。成人を含む英才発掘のための未踏ソフトウエアプロジェクト、高校生が合宿でクリエイティブな体験を共有するICTスクールプロジェクト、小中学生を含む生徒に体験の場を提供するITクラフトマンシッププロジェクトなどです。

 そして、小中学校でのプログラミング体験を実現するために、我々がドリトルによるプログラミングや前回ご紹介したロボット制御を使って取り組んでいる教育プロジェクトと学校での授業を紹介しました。

聴衆からの反応

 今回の発表を聴いて、会場からは「ソフトウエアを開発する人を育成せずに、日本は今後も先進工業国を続けられるのですか?」といった驚きの声が上がっていました。

 ロシアのAlexei Semenov教授からは、「日本の状況は各国の参考になるのでぜひ英語のWebページで紹介してほしい。また、今回紹介された教育プロジェクトはぜひ続けてほしい」というコメントがありました。

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ロシアのSemenov教授、右は筆者

今回のまとめ

 今回の国際会議では、世界の情報教育の状況を知ることができ、とても有意義でした。また、自分たちが進めている情報教育プロジェクトの試みが、国内だけでなく世界的にどのような意味を持つのかを考えるよい機会になりました。以上、4回に渡った情報教育の国際会議のご紹介でした。

オマケ:最終日のご苦労様会

 会議も一段落した最終日に、川沿いのショッピングモールで内輪のご苦労様会をしました。街中を歩いていると、トロリーバスがたくさん走っていました。日本では見かけなくなって久しいため、懐かしく感じました。

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リトアニアの古い街並みと、元気に走るトロリーバス

 ショッピングモールの内部は別世界で、日本と変らない空間が広がっていました。

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できたばかりのショッピングモール

 ご苦労様会には、日本から参加したメンバーのほかに、プラハから駆け付けてくれた友人の高橋秀哉さんと、今回の国際会議で発表した韓国のYoo SeungWook先生、 Cha SeungEunさんが参加してくれました。 Yoo先生は中学校の先生ですが、高麗大学でも研究を進めています。今回は韓国の新しい情報教育カリキュラムについて発表しました。 Chaさんは高麗大学の学生で、コンピュータの英才発掘の研究を発表しました。どちらも好評だったそうです。

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ご苦労様会。右は韓国から参加したYoo先生とChaさん

 さて、次回からは、最近話題になっている高校未履修問題について、ゲストの方といっしょに考えてみたいと思います。