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 「申し訳ないんですがもうしばらく、できれば半年くらい契約を続けていただけませんか。短期で解約されてしまうと、うちから携帯会社に違約金を払わないといけないんですよ」。

 11月末のある日、私はある携帯電話会社の系列販売店から電話を受けました。実は、記事執筆に際して携帯電話のサービスを検証する必要があったため、11月初頭に回線の新規契約をしました。電話機自体は編集部に余っているものがあったので、これを販売店に持ち込んで使用可能にしてもらう、いわゆる持ち込み新規と呼ばれるものです。1カ月弱使用し、記事の執筆も済んだので解約を申し込んだところ、冒頭のような電話を受けたというわけです。

 短期での使用を前提としていたので、いわゆる年間割引のたぐいのオプションは付けておりませんし、事前に長期契約して欲しいとの話も受けておりません。そもそも携帯電話会社と販売店との間でやりとりされる違約金は、ユーザーにとっては関係のない話です。ということで丁重にお断りし、そのまま解約したわけですが、久々にこの業界独特の、一般ユーザーからは見えない複雑怪奇な商習慣を肌で感じた次第です。

ドコモ、KDDI、ウィルコムにも「注意」

 2006年12月12日、公正取引委員会は携帯電話事業者4社の広告に対する調査結果を発表しました。新聞各紙を含め広く報道されている通り、ソフトバンクモバイルが10月下旬から大々的に展開していた「通話料、メール代0円」という広告に対し、公取委は「警告」を出しました。

 「通話料、メール代0円」には多くの条件が付いています。無料となる対象はソフトバンクモバイルの端末宛ての通話やメールに限定されること、夜間の通話には上限があること、料金プランとして「ゴールドプラン」を選択し、かつ割引サービス「新スーパーボーナス」を契約することが前提であること、などです。これらの制約を十分に示さないまま「通話料、メール代0円」だけを強調することで、あたかもソフトバンクモバイルに契約すれば無条件ですべての通話やメールが無料になるかのように誤解を与えた、というのが警告の理由です。ちなみに公取委が出す措置は3段階に分かれており、「警告」は真ん中にあたる重さのものです。最も重いものが「排除命令」、軽いものが「注意」となります。

 今回私が注目したのは、公取委がNTTドコモとKDDI、そしてPHS事業者のウィルコムに対しても「注意」を出したことです(PDF形式の発表資料)。

 NTTドコモは「ファミ割ワイド」と「2カ月くりこし」、KDDIは「MY割」と「無期限くりこし」、ウィルコムは「ウィルコム定額プラン」の広告がそれぞれ問題視されました。ソフトバンクモバイルと同様、サービス内容が実際よりもお得であるようにユーザーが誤解しかねない「有利誤認」のおそれがあるとの判断です。

 また、通常「注意」にとどまる軽微なケースは公表されないことが多いのですが、NTTドコモとKDDIについては「注意」を与えたことを公表しました。公取委に聞いたところ、「携帯電話は国民生活に密着した商品である。料金体系も複雑で、ユーザーからの意見も多く届いている。こうした業界の特殊性を考慮して、啓もうの意味も込めて注意を公表することにした」(景品表示監視室)とのことでした。

 つまり、携帯電話の料金をめぐる問題は、単にソフトバンクモバイルの「0円」広告の問題ではなく、もっと広範で根の深い問題であるのです。複雑なサービス体系を作り、ユーザーが十分理解できるような説明をせず、プラス面ばかりを強調する恐れがあるという点では、各社とも五十歩百歩だと言えます。

「1人1台時代」だからこそ、求められる透明性

 携帯電話の契約数は9000万台を超え、飽和が近いと言われて久しい状態です。携帯電話事業者各社もここ1~2年は、既存ユーザーをつなぎ止めるための割引サービスを強化する一方、高齢者や小学生など、これまで携帯電話をあまり使っていなかったユーザー層の開拓に力を注いでいます。ユーザー層は今まで以上に多様化し、携帯電話サービスに何を重点的に求めるのかも分散してくることでしょう。

 「少しくらい高く払わされても、とにかく携帯電話を持って使いたい」というユーザーが大半であった成長市場の時代は終わりました。成熟市場になってくると、既存ユーザーから幅広い支持を得ることが重要になってきます。その大前提として、自社の提供する料金やサービスをきちんとユーザーに説明し、誤解なく分かってもらう社会的責任があると私は考えます。ユーザーに説明し尽くせない、あるいはユーザーに誤解されるような複雑なサービスがあるのならば、それは廃止するか、誤解されないよう改定していくべきです。政府の許認可により保護され、4グループしか存在しない規制産業であれば、なおのこと社会的責任は重いと考えます。

 上述した短期契約の扱いや割引サービスの条件、以前にこの「記事の芽」欄で執筆した端末の販売奨励金(インセンティブ)制度(関連記事)以外にも、ユーザーに事実をきちんと伝えたがらないという携帯業界の問題点は多数存在すると、私は考えています。いくつか例を挙げると、「人口カバー率」は市町村の役所・役場がサービス圏内かどうかを示す指標に過ぎないこと、データ通信速度の表記において理論上の最高速度が出るケースはほとんどないこと、新機種の発表時に発売時期を明示せず、製品によっては発表後店頭に並ぶまでに半年近くかかること、海外では当たり前のSIMフリー端末が国内にはほとんど存在せず、逆に端末のSIMロックが当然とされていること(関連記事)、などです。

 たまたま今回は「0円」広告と、それに対する警告という形で問題点が指摘されましたが、それはあくまで氷山の一角に過ぎず、NTTドコモやKDDIも一方的にソフトバンクモバイルを非難することはできません。携帯電話事業者各社には、公取委が全事業者に対し注意を促したことを重く捉えてほしいと思います。そして今回の件を契機に、外部からの指摘を待たずに自主的にサービスを見直すよう取り組んでほしいと考えています。