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 2006年10月に、多数の高校が必履修科目を生徒に履修させていないという「未履修問題」が発覚、注目を集めました。多くの報道では「世界史」について取り上げていましたが、同じ必履修科目である「情報」の未履修も含まれています。ただし、情報処理学会が声明を発表しているように、「情報」の未履修は、世界史などとは違う、別の問題があります。

 今回からは、東京農工大学総合情報メディアセンター助教授の辰己丈夫と、 早稲田大学商学部卒.早稲田大学メディアネットワークセンター客員講師の前野譲二氏をゲストにお招きし、高校での「情報」未履修問題について座談会形式でお届けします。(編集部)

高校での履修の定義とは

兼宗:高校では2003年から始まった「情報」ですが、現場では選択みたいな意識があるかもしれないですね。

辰己:現状は基本的に進学校ほど未履修の率が高いということがまず1つあります。それから、「情報」は必履修教科です。報道の方もよく必履修の履を省いて必修とかと言っていますが、必履修であり必修とは違います。

編集部:その違いについて教えてください。

辰己:履修というのは教室にいればいいんですよ。単位を修得というのはその学習の成果が満足できるかどうかにかかっているんです。何を以て満足するかは指導要領には書いていないんです。一般には高校とかだと普通ペーパーテストである程度の点を取っているかどうかというので決めるわけです。卒業のために3年間で74単位以上修得しなければ卒業できないんですが、ここにマジックがあって、修得しなきゃいけない単位は必履修とは限らないんです。言い方を換えれば必履修でも実は修得しないで赤点でも卒業できるんです。取得した単位は合計74を超えていればいいので、例えば数学とか理科とかで超えていれば、「情報」の授業は出ていただけで赤点でも一応法律上は何の問題もなく卒業できる。

前野:74単位というのは何から構成したっていいわけですよね。必履修の科目を何から構成してもいいということ。英語も数学も国語も社会も同じ。

辰己:必履修は必履修だから、それは絶対やらなきゃいけないんですよ。

前野:単位とは関連付けがない。

兼宗:ややこしいですよね。

辰己:ただそれは国の制度のなので、公立の場合はそのままですが、私立の場合はその制度を弾力的に運用しており、例えば日本史は選択ですが、それを必修にしている高校もあります。

前野:こういう流れがあるから要するにレポートでもいいやという、そういう話になる。

辰己:ほかに、学校設定科目で「情報」に読み替えるという手があるんですね。高校の場合、教科という中分類があって、その下に科目という小分類がある。地理、歴史という教科の中に世界史という科目があったり、「情報」という教科の中に情報A、情報B、情報Cという科目があったり。今の読み替えをするときには、公民か数学か理科という教科の中に学校が独自に科目を作って、その公民あるいは数学あるいは理科の中の科目で「情報」に関連するものがあれば、それは「情報」の単位として認めてもいい。つまり、読み替えをして修得してもいいよと。履修だけじゃなくて修得まで認めましょうという仕組みがあるんです。

編集部:読み替えの規定というのがあるのですか。

辰己:それがまず“ざる”なんですよ。それを使って私立学校が抜け道をいろいろやりこなしているわけですね。

私立学校はどこまで自由にできるのか

辰己:それから私立学校にはもう1つ大きな抜け道があります。学校教育法の第14条というのがありまして、ここには公立学校は教育委員会が、私立学校は都道府県知事が学校の授業の改善の命令をすることができるというんです。ところが私立学校法第5条というのがありまして、ここに学校教育法第14条の規定は私立学校に及ばないと書いてあるんです。この2つは実は矛盾しているんですね、すでに。

前野:でも特別法が優先だから、私立学校については私立学校法の優先されます。だから原則的に誰も指導できないわけです。

辰己:結局、都道府県知事が私立学校に指導権限がないということになっちゃうんですね。でも、私学助成を決める私立学校振興助成法という法律があって、そこでは、都道府県知事などが私学助成の額を減らすことができるとなっているわけです。これを使うと例えば教科「情報」をちゃんとやっていない学校には私学助成を減らすという間接的な手段で指導することはできます。実はさらにもっと強力な手段があって、それは私立学校というのは都道府県知事による認可なんですね。だから学校法人を取り消すと言えばいいんですよ。これはものすごく強いです。ただし、これをやるとかなり大きな混乱を招くので。

前野:伝家の宝刀でしょうね。

辰己:だから、それは実際は抜けないんですよね。

編集部:今、起きている問題に関しては、「情報」という授業の履修時間数がまったく足りていないというケースなわけですよね。

辰己:そうではないんです。もっと深刻な問題ですね。現状と法律を照らし合わせなきゃいけないんですけど、まず1単位というのは35単位時間履修しなきゃいけないんです。1単位時間は50分なので、50分を35回やると1単位になるんです。ところが今の高校のスケジュールだと、修学旅行あり、文化祭あり、特別活動ありで、35は絶対無理なんですね。せいぜい30がいいところで。

前野:週2時間ぐらいやってそんな感じでした。

辰己:だから結局28とか30ぐらいがせいぜいいいところなんですよ。今回、特例処置で文部大臣とか政府が認めた50でいいよとかというのは、25でやっているところが実際あるんだから50でいいでしょうと言ったよね。70じゃなくて50で認めようと言ってお茶を濁したのは。まずそれが1つあるわけですね。だから35で足りないといっても、実際にはほとんど日本中の学校は35はやっていないです。これは世界史でも「情報」でも同じ。それを70単位時間を50単位時間で済ますことに関しては、それは私もしょうがないだろうと思いますよ。

未履修が問題になっている高校は設備がない

辰己:例えばある工科大学の教授などが、特別な制度を使って「情報」の教員免許を一時的に3カ月だけもらい、高校に補習に行ったりしているんですよ。それは体育館で「情報」Aとかを教えているんです。

前野:全員集めてね。

辰己:そう。体育館に400人集めて情報Aです。情報Aというのは指導要領上、2分の1以上実習を含むことになっているんです。つまり、70単位時間だと35単位時間以上実習しなくちゃいけません。実習って具体的に何をやるかということは実は指導要領には書いていないのですが、明らかに座学じゃないことをやらなきゃいけないんですよ。体育館で400人集めて、実習はどうするのでしょうね。

編集部:実習をサポートするだけの設備というのは。

辰己:高校には普通ないから大学まで行かなければ。

前野:ない高校が多いですね。もちろん学校によります。学校によってはすごくあるところもあるけど、ほとんどないと思います。

辰己:未履修じゃない高校はちゃんとある。未履修が問題になっている高校は設備がないから未履修なんですよ。

前野:両方でしょう。やる気がないから整備していないし、整備するということはやる気があるということなので。

辰己:それはそういう意味ね。つまり、未履修で問題になっていないような高校にはちゃんとコンピューター室はあります。

前野:人気のある私立学校ならお金があるから設備は整っています。地方の県立高校が一番厳しいですね。何も予算がないですから。

兼宗:状況が一番厳しいのは国立大学附属ですよ。それはお金がない。地方交付税もない。

辰己:そもそも、根源的な問題として、「情報」という科目が軽んじられているということがあります。私はこれが今回の本質の、一番の中心だと思います。

次回に続く)