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 世界史の未履修問題の陰に隠れるような形となっていますが、情報の未履修には新教科ゆえの問題もあるようです。その一つが情報を担当する教員を取り巻く環境の特殊性です。2003年にスタートした高等学校の必履修教科「情報」を教える教員は、移行措置を経て2000年からの3年間で約9000人が誕生しました。その後の教員養成はどう進められているのでしょうか。

 前回に引き続き東京農工大学総合情報メディアセンター助教授の辰己丈夫氏、早稲田大学メディアネットワークセンター客員講師の前野譲二氏をゲストにお迎えした座談会形式でお送りします。(編集部)

「情報の先生」になるための方法は7つあった

前野: 「情報」という教科は、教育現場の中でも位置付けが軽いように思いますね。必履修とされている割には支援体制も十分ではありません。

辰己: 今回の未履修問題について、補習等を行えば問題が解決するかというと、全然違います。まず一番大きい問題は、高校の情報の先生は高校の中で非常に軽んじられているということにあります。ここが問題の始まりです。

 情報科目が必履修になったのは2003年。当然のことながらそれ以前は情報という授業を教える教員はいませんでした。その影響もありますが、「情報」を担当する教員はほとんどが他の教科と兼務しています。

前野: 情報専任の教員を置いているケースは少ないですね。私もほとんど見たことがありません。

兼宗: 情報の教員資格を取るのは簡単だったわけですか。

前野: そんなことはないと思います。ただ、移行措置の段階では、座っているだけで情報の教員免許を取れたようなケースもあったと思います。

辰己: 高校で教科「情報」を受け持つ資格を取る道は、これまで7つありました。そのうち2つはもうなくなっていますが、現状を理解していただくために解説しますね。

 まず、認定講習会で認定を受けるという方法。これは理科、数学、家庭、商業、工業など一部の教科の教員免許を持つ人が15日間の講習会を受ければよいというものです。この方法では、2000年から2002年までの3年間で約9000人の教員が「情報」の免許を取得しました。

 高校の教育課程に新しい必履修教科ができる、新しい教員免許ができる、じゃあ誰がそれを担当するのか。認定講習会に参加できる対象は、一部の教科に限定されているわけですから、校長や教頭や教員委員会は、その教科の教員の中から、情報を担当する人を選ぶことになります。新教科の担当というのは、現場からすれば、天から降ってきた追加の仕事です。結果として、校内の力関係を反映するように、若手が講習会に行かされたわけです。大半の高校では、こういうプロセスを経て、「情報の先生」が決定されていると思いますよ。

 認定講習会で情報の教員免許を取った若手教員だって、最初は「3年たったら元の専任教科に戻れるから」などと言われて、情報を担当することになったはずですが、現状はほとんど戻っていないんです。さらに、情報を担当していると、校内の情報システム全般、下手をすると校長の自宅のパソコンのメンテナンスまで押しつけられることもあると聞きます。こういった現状をみても、「情報」という教科が置かれている立場がわかりますよね。

情報免許認定試験の合格率は司法試験並み

前野: 教員免許を得るための2つめの方法は「情報免許認定試験」に合格することですね。これは2001年、2002年の2年間だけ実施されたものですが、合格率は3%程度でしょうか。1000人ぐらい受けても20~30人しか受かっていません。先の4教科以外の教員で情報の免許を得たいという人のほかにも、広く社会一般から人材を集めようという意図で用意された制度でしたが、昔の司法試験並みの難しさでしたから、この方法で情報の教員になった人はほとんど見かけないでしょうね。試験の内容は、数学的な知識も含めて問われるし、実際、難しい問題だったようです。

辰己: 教育課程を経ていない人も対象でしたから、行政に関する知識や、教育科学、教育哲学なども試験範囲には含められていましたね。

兼宗: 私たちのような数学専門の人間が受けたとしても通ったかどうか。

辰己: 難しかったかもしれませんね(笑)。

 結果として大半の人が落ちてしまっているわけですけれど、落ちた人は本当にがっくりしていましたね。その気持ちはよく分かります。例えば、英語の教員として、コンピューターを使って英語の授業をずっと行っていて、いざ高校で情報科目が設置されるなら、俺もやるぞと思っていたら、自分の担当教科は認定講習会の対象にはならなかった。じゃあ、試験で受けようと思ったら、その試験がとんでもない難関だったわけです。結局2年間やって50人程度しか受かっていないんですよ。やる気がある人をうまく生かせなかったという点では課題が残りましたね。

 残りの5つは今も残っている情報の教員になるための道です。

 3番目の方法は大学による教員養成課程。これは他の教科と同じです。

 4番目の方法は「臨時免許状」略して臨免を与えるという方法です。普通免許状を持っている人を雇えない状況で、都道府県の教育委員会が認定した場合に限ってオーケーなんですね。へき地にある学校であるとか、学校側に特別の事情があることが大前提となります。また、3年が上限です。

前野: 情報に限らず、運用されている制度ですね。臨免で教える場合には教育委員会の認定をもらわなきゃいけません。その教科を教えるにふさわしいだけの知識を持っていることを認定される必要がありますね。

辰己: 5番目の方法は「特別免許状」を与えるという方法です。これは、社会人の学校現場への活用を目的として5年~10年の期間限定で免許状を与えるものです。

 以上で「免許状」を利用する方法はすべてです。残りは免許状を利用しないで合法的に教える方法です。

 6番目の方法は、特別非常勤講師制度です。産業界などでの経験を経て、特殊な技術を持っている人が授業をできるというものです。この場合は都道府県教育委員会への届出が必要で、教員免許を持っていない人が対象となります。

 7番目の方法は、「免許外教科担任」という制度で、都道府県教育委員会の許可の元に、他の教科で雇われている教員が一定の条件を満たしている場合に「情報」を教えることができる1年間の期限付きの制度です。

 以上で7通り。これですべてです。

 今後、情報を教える教員は3番目のプロセス、大学における教員養成課程を経てきた人が本流になっていかなくてはいけないですね。ところが困ったことに、大学の卒業生たちは情報の免許だけを持っても就職できないんです。その最大の原因は情報の教員免許だけでは就職できませんという各都道府県の採用基準にあります。

 大半の都道府県では、情報に関してだけは、情報以外の教科の免許も持っていることが条件となっているんです。これはほかの教科ではありえないことです。情報という教科で先生になろうとするとすごく狭き門になるんです。

前野: そうなると免許を取ろうという学生の側も、情報という授業に対して、最初からやる気がなくなってしまいますね。「おまけ」で持っていれば使い出があるくらいの意識になってしまうかもしれません。

兼宗: どうして情報だけほかの教科の免許も必要とされるんでしょうか。

辰己: 教科「情報」は将来、なくなるんじゃないかという懸念を教育委員会がぬぐい去れないでいることも一因だと思います。我々としては学生にしっかり勉強させて、教員免許を出すように頑張っているんですけれども、せっかく取った学生が入り口ではねられてしまうことは非常に残念です。

次回に続く)

■変更履歴
本記事公開当初、東京都では教科「情報」の教員免許のみでも教員採用試験を受けられるという表現がありましたが誤りでした。平成19年度の採用試験では「数学」もしくは「理科」の免許も必要とされています。
また、教科「情報」の教員免許を取得する方法についての辰己氏の発言中、「認定講習会で認定を受けるという方法。これは理科、数学、技術、商業の教員免許を持つ人が15日間の講習会を受ければよいというもの」という表現がありましたが、正しくは理科、数学、家庭、工業、商業のほか(一部条件を満たした農業、水産、看護)の教員免許所有者が対象でした。以上、お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2007/01/05 16:19]