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 グーグルのクリスマス・パーティー会場で見た「100ドルのラップトップ・コンピュータ」のプロトタイプ。このプロジェクトは、もともとMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボを創設したニコラス・ネグロポンティが始めたものである。

 発展途上国の子供たちに安価なラップトップを配給すれば、子供たちはインターネットに接続し、自分で独自に学んでいく。学校教育もままならず、ましてや図書館もないような途上国にどうやって学習の機会を与えるのか。テクノロジーさえあればそれが可能になる、というのが、ネグロポンティの出発点になった。アラン・ケイやシーモア・パパードなど、コンピュータ界のパイオニアがアドバイザーとしてこのプロジェクトに名前を連ねている。

 100ドルは、子供たちが自分で払うのではない。各国の教育省のような政府機関が100万台単位で買い付け、それを子供たちに支給するというのが構図だ。すでにリビアやウルグアイの政府が購入の意向を表明しているという。アジア、アフリカ、ラテンアメリカそれぞれの大陸に買い付け国を確保し、そこからジワジワと世界中に広げていく戦略らしい。

 パーティー会場にあったコンピュータは、1000台作られたというプロトタイプの1台だった。このプロジェクトには、AMD、イーベイ、レッド・ハット、ニューズ・コーポレーションに加えてグーグルも協力しているが、これを持ってきたのは、サンフランシスコを拠点とするゲイ・サイトを運営する女性だった。彼らもプロジェクトに協力しているらしい。

 これまでプロトタイプの写真は見ていたが、実物は予想以上に小さかった。片手に軽く乗るサイズ。重量は2キロ前後か。小さめだが作りがゴツいのは、砂漠環境や汚れに耐えるようヘビーデューティーになっているからだ。

 一般市場では安くても400ドルするラップトップの価格が、100ドルにまで下げられるのは、スクリーンを35ドル程度で製造できるからだという。スクリーンの大きさは7.5インチで、解像度もいい。またソフトウェアの無駄をそぎ落とし、機能もブラウザー、ワードプロセッサー、電子メール、ビデオ・コンファレンスなど、子供たちに役立つものに絞った。リナックスを使用し、インターフェイスも独自に開発。このインターフェイスがたいそう愛らしく興味深かったが、何せ立ったままのパーティー会場ではじっくり使ってみるわけにはいかなかった。

 ネグロポンティはメディアラボの所長を辞して、現在このプロジェクトに専念している。私はまだ彼が所長時代にこのプロジェクトの話を聞いたことがあったが、彼のこんなことばが印象に残った。

 「電源はゼンマイ仕掛けなどを利用して、電気が通っていないところでも使えるようにします。それにこのラップトップのスクリーンが、子供たちの家で唯一の光源になるということもあるのですよ」

 「ああ、そうか。そういう地域がまだ地球上にあるんだ」と、目が覚めるような思いをしたのを覚えている。その後ゼンマイ仕掛けはやめて、足踏みペダルやリコイルのような方法を採用したらしいが、いずれにしても先進国のわれわれには想像もつかない状況で使われるコンピュータを設計しているわけである。

 インターネットにつなげるためには、衛星による通信、携帯ネットワークによる通信など、各国の事情に見合ったさまざまな方法が模索されているらしい。また近所のクラスメートのラップトップが互いにつながってメッシュ・ネットワークを形成するようにも考えられている。

 ところで、このプロジェクトには批判もある。ビル・ゲイツは「リッチな先進国で想像しているものに過ぎないものではないのか」と、そのコンセプトに疑問を呈したという。コンピュータより教育制度を整えることの方が大切なのではないかという意見も強い。

 このラップトップ、台湾のメーカーで製造されているが、現在の価格は150ドル近くになっている。製造個数が増えれば価格は下がる。その時期をネグロポンティは2008年末と踏んでいるらしい。

 残念なことに、このラップトップが市販される予定は今のところない。「そのうちきっとそうなるわよ」と、プロトタイプを見せてくれた女性は言っていたが、さてどうなるか。

 100ドルなら、おしゃれなレストランに行くのをちょっとあきらめればいい。先進国の人々が大挙して買えば価格を押し下げるのにも協力できるのだが、そういうわけにはいかないものか。そんなことを考えながら、パーティーから帰ってきた。