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 午前中は都内で開かれた国の会議に出席して、午後は岐阜県の会議、それから、また、横浜に戻ってきて仲間との新年会に顔を出して、夜の11時過ぎに自宅に戻ってきた。妻がコーヒーを入れてくれたのでホッして飲んでいると、「ねえ、国の会議とか県の会議とかいうけど、何をやっているの? ねえ、おいしいお弁当とか出るのォ?」と聞かれた。

 そういわれてみれば、映画で出てくる国の会議っていうと、黒いスーツを着込んだ権力者が、大きくて立派な椅子が並ぶ会議室で、自分のことだけを考えて意見や文句を言って、踊る大捜査線の室井慎次(柳葉敏郎)を困らせるような感じだ※1

 そんな感じの会議もあるのかもしれないけれど、僕の出ている会議の雰囲気はみんな前向きだ。だから時折、国や地方自治体の身近な政策づくりの現場を報告するのも、僕の大切な役割だろう。そこでその第一弾として、総務省が立ち上げた「Web2.0時代の地域のあり方に関する研究会」をご紹介しようと思う※2

 1回分では伝え切れないので、何回かに分けて書くけれど、今回は、この研究会への参加の想いからお伝えしたい。あ、そうそう、妻の質問に答えていなかった。最近の国や地方自治体の会議では、財政難の折、どんな支出も抑制されているが、特に食料費は徹底削減対象だから、ほとんどお弁当は出ない。

若い皆さんの将来は明るい

 さて、前回のフラガールの話で、産業社会は衰退期に向かっていて、そのうえ、人口は、減少して、高齢化すると書いたので、たくさんの人が将来に不安を感じてしまったらしい。心配させてすみません。特に若い人は、自分の関心領域に閉じこんでしまう傾向があって、意外と保守的だから、将来を不安に思ったようだ。

 確かに、これまで産業社会の流儀でやってきた人たちは、やり方が変わってしまうことを辛く思うかもしれない。これからの約50年もの時間の流れの中で人々の価値観は、どうせ大きく変わってしまう。今から20年前にインターネットがこんなに普及するなんて、だれも知らなかった。けれども、若いみなさんは心配なんかしなくてもいい。

 高齢社会は、天寿をまっとうできて、80歳くらいまでなら元気に活躍できる社会だから、情報技術を駆使して、将来をしっかり予測しつつ、計画的に天寿をまっとうすればいい。パワー・スーツなんていう身体能力を超えるための道具も開発されているくらいだから※3、若い人はもちろんだけれど、女性だって、高齢者だって、誰だって当たり前に働いて、みんなが協調することで、安心して暮らせる社会が創れるだろう。

 高齢になったらいつ死んでもおかしくない、食も医療も貧しい社会のほうが辛いに決まっている。20歳くらいから60歳くらいまでの男性が中心に働いて、女性と高齢者を支えるなんてことを基本にしている今の社会システムのほうがよっぽど困ったものだ。多くの人々が、古い社会システムがそのままになっているので、疲れ切ってしまっている。

 これまでの流儀や価値観にこだわると、社会が変わることに不安や絶望を抱いて精神を壊してしまったりする。だから、古い価値にしがみつかないで、新しい価値にちょっとの不安はあるけれど、不確実性に立ち向かって歩きはじめる方が幸せになる。うまくいかなくてガッカリしたり、一時的にはカッとなったり、仲間とケンカしたりして、失敗もするけれど、人間は基本的に協調を選択し、未来に向かって不確実性に立ち向かうことを喜べる。だから、基本的に将来は明るい※4

 「ものづくり」だって、中国などの産業化が進行中の国々が、どんどん大量生産をして、モノを安価にしてくれている。近い将来、日本にモノが不足することはないだろう。アメリカから日本へと、ものづくりの生産拠点が移ったころ、アメリカ人の一部の人たちは大騒ぎしたけれど、アメリカは情報産業を創り出してがんばっている。ヨーロッパだって、アメリカよりもずっと前に、栄華の時代を経験したけれど、経済の持続可能性を維持するために、EUを創ったりしてがんばっている。

 「まちづくり」だって、日本ではどんな田舎道も舗装してあるし、道案内の標識がきちんと付いている。これを見た韓国の友人は「やっぱり日本は経済大国だ」と言っていた。僕が子どもの頃は東京にだって砂利道がいっぱいあった。まちの美しさにはちょっと問題があるけれど、まちの基盤は大体整っている。これから、そうしたことにお金をたくさん使わなければならない国に比べれば、格段に優位だ。

 そのうえ、ものづくりや、まちづくりのころの元気印なやり方で、e-Japanだってやってきたから、びっくりするような速さで、光ケーブルは日本中を駆け巡り、携帯電話の通じないところはどんどん少なくなっている。カラオケ店が火災になったってケータイで119番して、どうすればいいかと指示を仰いだ中学生は命拾いをしたし、山に入って遭難した高齢者は多機能ケータイで救助隊と連絡して救出された。情報社会の基盤も既に整いつつある。

 日本は、小学生からお年寄りまでが、ケータイという名の究極のパーソナル・コンピュータを所有している国なのだ。ワンセグだって始まっているから、そのうち全員が、テレビをポケットの中に納めて歩くだろう。住民票はまだだけど、IC技術は、切符を買わずに電車に乗れるようにしたし、小銭入れだってなくす勢いだ。新しい価値を創り続けてきた国だから、いろいろな失敗はあったけれど、日本は、こんな風に情報環境でもすごい国になった。

Web 2.0で地域社会が変わるためには

 でも、そんなすごい国に暮らしているのに、がんばらない人が増えている。

 社会のトラブルを行政の責任だ、とばかり言っている人の姿には、どこかさびしい気持ちになる。他人がやったことをダメだダメだと否定して、自分じゃやらないネガティブな姿勢は、人々の元気を失わせる。役所に勤めていたころ、税金を払っているのだからと、息巻く住民が多くて嘆きたくなった。住民自治は、地域社会の基本だけれど、自治は住民が自ら自主的に社会を治めることだから、行政は他人のものではなくて自分たちのものだ。それなのに、ご近所の底力を発揮して協調する人々はまだまだ少ない※5

 地域社会だけでなく、企業でも同じようにがんばらない人が増えているようだ。かわいいマスコットで有名な老舗のお菓子屋さんの品質管理問題もそう。工場の社員さんだって、アルバイトさんだって、きっと、多くの人が、その問題に気づいていたはずなのに、ずるずると問題を先送りにしてしまった。

 なぜ、情報社会の人々は、こんなに情報があふれて豊かな社会に暮らしているのに、自分の関心領域以外のことに、気づかないのか、気づこうとしないのか。知ろうとしないのか。ましてや、行動を起こそうともしないのか。

 インターネットが爆発的に広がりはじめたころ、僕たちは、普通の人々が情報発信の手段を獲得したことに感動した。そして、お互いの情報を共有することで、人々は、気づき、知り、そして、爆発的に貢献的な行動を起こして、新しい価値が次々に生まれ、イノベーションが起こるだろうと考えた。でもそうじゃなかった。人々は自分の関心領域に閉じてしまっている。

 Web2.0なんていうけれど、やっぱりバージョン2.0なので、自律、分散、協調的で、貢献的な参加に支えられるというインターネットの基本的な性質は変わっていない。Web2.0は、blog、wiki、SNSのように、ユーザーがインターネットの性質を簡単に利用する技術で、その利用結果をAmazonのレビューのようにユーザーの利便性に対して応用する技術ととらえればよいのだろう。

 だから、「Web2.0時代の地域のあり方に関する研究会」では、地域社会が不確実性と闘うために、人々が地域のことに気づいて、知って、行動を起こして、その結果を簡単に人々にやさしく伝えるための政策を提案したい。一委員の想いである。

【注】
※1 踊る大捜査線は、フジテレビ系列で1997年から放映されたドラマで、その後、同名の映画も作成されている。室井慎次(柳葉敏郎)は、東京大学ではなくて、東北大学出身のエリート警察官僚。東大出とおぼしき超高級官僚に、会議でいじめられるシーンが何度か出てきました。【本文に戻る】
※2 「Web2.0時代の地域のあり方に関する研究会」は、新しい自治体や地域のあり方、それに向けて国及び自治体が取り組むべき方向性を示すために、2006年11月から発足した総務省の研究会です。座長は、慶應義塾大学総合政策学部教授の國領二郎先生です。【本文に戻る】
※3 パワー・スーツは、例えば、筑波大学大学院システム情報工学研究科教授 山海嘉之先生の研究室のロボットスーツ「HAL(Hybrid Assistive Limb)」などをご覧ください。【本文に戻る】
※4 人と人との関係がいつまでも続くという条件が満たされるならば、人々の間には協調関係を引き出すことができます。また、人は、協調して不確実性に立ち向かうことで喜びを感じることができます。ご関心のある方は、本コラムの「しあわせな恋をするために」と「映画『フラガール』にみる不確実性への挑戦と喜び」をお読みください。【本文に戻る】
※5 「難問解決! ご近所の底力」は、2003年からNHK総合テレビで放映されている番組です。そう簡単に難問は解決できないと思うので、ちょっと成果を急ぎすぎな感じもするけれど、地域の問題に立ち向かうご近所の人たちの顔が楽しそうで好きな番組です。【本文に戻る】