PR

 ここ1週間、シリコンバレーの新聞はふたつの記事が紙面を賑わせている。ひとつは、サンフランシスコのニューソム市長が、親友で彼の選挙運動の指揮官も務める男性の妻との数年前の浮気を告白したニュース。ニューソム市長が俳優ばりのイケメンで、彼へ注目はこれまでも高かったが、今回は各紙がボロクソにけなしている。「親友の妻と寝るとは。クリントンもそこまで落ちてはいなかった。男として最低」と、男性コラムニストが書いている。侮辱にさらされ、市長の政治生命もここ止まりかもしれない。もうひとつのニュースはこれとは正反対。シリコンバレーから多大な尊敬を集める人物、ジム・グレイについてである。

ブログでの呼びかけにグーグル創業者が最初に返事

 ジム・グレイ(63)は、マイクロソフトのベイエリア(サンフランシスコ湾周辺地域)研究所を立ち上げた有名なデータベース専門家。彼が共同開発したテラサーバーは、航空画像をカタログ化した大規模なインターネット上のデータベースで、Google MapやマイクロソフトのVirtual Earthの元にもなっている技術だ。電子取引技術での業績もあり、コンピューター界で名誉あるチューリング賞を受賞している。最近は、インターネット上の仮想天文望遠鏡の構想を詰めていた。そのグレイが、1月28日にヨットに乗ってサンフランシスコ沖へひとりで出掛けてから行方不明になっているのだ。

 沿岸警備隊が出動して数日間にわたって捜索したが、ヨットの影も金属のかけらも水面に浮くガソリンも見つからない。沿岸警備隊がもう捜索を打ち切ろうとした時に立ち上がったのが、シリコンバレーのテクノロジストたちである。

 グレイと共同研究を行っているカリフォルニア大学バークレー校のコンピュータ・サイエンス学部のヘラーステイン教授のブログに、最初に返事を出してきたのがグーグル共同創設者のセルゲイ・ブリン。グーグル・アースの担当者に手伝ってもらおうというのだ。その後次々とNASAやアマゾン、衛星画像の専門会社デジタル・グローブなどが手を上げ、ボランティアらも多数加わって調査が始まった。プライベート機も数機飛んで、海上を捜索したという。彼らは友人、共同研究者、博士論文を指導してもらったかつての学生とさまざまなかたちでグレイとつながっているが、みな彼の業績と人柄に並ならない尊敬を持っているのである。

海上捜索をネットから可能に

 アマゾンでは、同社のサービスであるMechanical Turkに、デジタル・グローブ社の衛星画像を細分化したものをアップロードした。ボランティアたちがインターネットでこれをひとつひとつ目で見て、何かグレイのヨットに結びつくものがないかを確かめる作業を続けている。

 NASAは通常の任務飛行の際に、グレイのヨットが航行した可能性のあるオレゴン州からカリフォルニア州南部までの海上を飛び、ビデオとカメラで撮影を行った。この飛行機はスパイ機並みの性能を搭載していて、このカメラも5万フィート(15240メートル)の上空からボートが見分けられるのだという。この画像にGPSタグをつけ、グーグルの社員を含めたボランティアらが目を凝らして見ている。グーグルも自社の衛星画像を沿岸警備隊に提供している。

 マイクロソフトのバーチャルアース・グループは、やはり衛星画像を分析しつつ、それを船を自動的に検出する同社のもうひとつのソフトウェア、オーシャンビューと組み合わせているという。

 緊急事態にテクノロジーがどう有効に使われるのか。皮肉なことに、これは一度何かの犠牲がなければ見えてこないものでもある。ボランティアが自宅に居ながらにして救助に関わることができる。今回の出来事は、まだ未開拓のテクノロジーのそんな潜在力を見いだしたのである。

 なお、ジム・グレイの捜索活動については以下のブログで最新情報がアップデートされている。  
 http://www.openphi.net/tenacious/