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「ちょっとちょっと、ナカノくん」
 あら、ミヤモトくん。どうしたの?
「ちょっと、こっち来て、こっち」
 え、何よ、オフィスでこそこそして。あ、わかった。バレンタイン、義理チョコすらもらえないから、わたしにくれ、とか言う気でしょ! かっこつけちゃってー。もらえないならもらえないで、平気な顔してればいいのよ!
「おいおい、何言ってんの? チョコなら、すでにいっぱいもらってるよ。予約も入ってるし」
 へー、そうなんだ。予約って、何?
「『ホワイトデーには、これこれをください』って」
 お返しの予約!? まったくミヤモトくん、人がいいんだか、なんだかなあ…。

「そんなことはどうでもいいから、ちょっとこっちに来てくれよ」
 何よー。
「ここから見たオフィスの風景、なんか変だと思わない?」
 えー。デスクがズラッと並んでて、みんながパソコンに向かって仕事してて…普通でしょう?
「あの、パーティションの上のところ、よく見て」
 パーティションの上…何あれ?…電線?
「昭和か! っていうかなんで屋内に電線?」
 確かに変な風景ね。なんか、パーティションに沿って、空中にケーブルが渡ってる、よね?

「うん。渡ってる。パーティションと似たような色のケーブルでカムフラージュしようとしてるみたいだけど、明らかに。はるばるササキ課長のパソコンから」
 えーっ! ササキ課長のデスクって、あそこから1つ、2つ、3つ、4つ先じゃない…あんなところから? いつ気づいたの?
「ついさっき、だよ。チョコのお礼に、あちこち回っている時、あのパーティションの先で、ケーブルにけつまづきそうになったんだ」
 空中じゃなくて、床で?
「そう。あのケーブル、パーティションの先で急降下して、そこから床を這ってるんだ」
 …はあーー!?

「危ないんだよ、ガムテープで固定してあって。あの辺の連中は、ちょっと前から気づいたらしいけど、なんか言い出せない雰囲気らしいんだ」
 質問を拒否する空気が漂ってるわけね。
「うん。それでね、なんでササキ課長のLANケーブルだけ、あんなに長く伸びてるのか。あまりに謎だから、ナカノくんに一緒に考えてほしくてさ。それで呼んだんだよ」
 うーん…なぜかしら…。
「何かワケがあって、課のネットワークから追い出された、とか」
 ササキ課長、真面目で評判いい人だし、それはないんじゃない?

「そうだよなあ…ちょっと見てくる」
 何を?
「配線だよ。ケーブルが最終的にどこにつながってるのか確かめてくる……見てきた」
 どこにつながってた?
「隣の課のプリンター」
 ワケわかんないー!
「しかもLANケーブルじゃなくて、USBケーブルだった」
 えっ、USB?
「ますます謎が深まるなあ」
 そうねー。
「いったい、どこから探してきたんだろう、あんなに長いUSBケーブル?」

 謎って、そっち!?…あー、でも、たぶんわかった。
「え、どこで売ってる?」
 そっちの謎じゃないわよ。課長、何かの間違いで、ネットワークプリンターを削除しちゃったのよ。それで…。
「まさか! 複合機に15メートルのUSBケーブルで直結? 普通考えないだろう、そんなこと!」
 ササキ課長、真面目だから、自分でネットワークをなんとかしようとして、でもできなくて、自分でできる解決法が、USB直結だったんじゃないかしら。
「…なるほどな…。絶対ひとに迷惑かけたくない、って人だからな」
 結果として、足下危うくして迷惑になってるのが残念ね。
「残念って、そんな言い方するなよー、意地悪だなあ。よし、オレがササキ課長のプリンター、再インストールしてくるよ!」
 やだー、冗談よー、ミヤモトくん!…行っちゃった…ちょっと男気の、いいところもあるのよね、たまにね。義理チョコぐらい、あげようかな。