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 前々回、前回と、「Web2.0時代の地域のあり方に関する研究会」について紹介してきた。といっても、背景となる考えや状況の説明だったので、今回は第1回、第2回の研究会でなされた意見交換の様子を具体的に紹介する。

 この研究会は、毎回テーマを設定し、そのテーマに関連する特別委員が参加して、座長を含む5人の委員がディスカッションを重ねてゆく。毎回とても活発な議論になる。そして国の会議では珍しく、人数に限りはあるけれど、申し込めば誰でもオブザーバーとして参加することができる※1

 住民参画をテーマとした第1回の研究会は、自分は出席できなかったのだけれど、北海道小樽市のまちづくりの担い手として有名な小川原 格(おがわら ただし)さんと、Web2.0世代の経営改革を提案する(株)コネクティの服部恭之(はっとり やすゆき)さんが参加した※2

 小川原さんからは、観光客との正直なコミュニケーションが観光まちづくりを支えていること、服部さんからは、コンテンツの制作者と閲覧者がイコールになったことが主張された。地域づくりは、行政じゃなくて、その地域に関わる人々とのコミュニケーションから創造されることは成功事例に共通している。だれでも簡単に情報が発信できるWeb2.0時代だから、地域にがんばる人がいて、その結果を発信すれば、フツーの人があれこれと気軽に手伝いはじめてくれる。

 がんばる人とフツーの人とのコミュニケーションは、相手の状況に気づき、それを知り、どんな行動を起こすべきかを教えてくれる。そして、不確実な地域づくりは、確実なものへと導かれていく。

 地域づくりは、誰かがアイデアを出したらパッと街が変わりましたー! なんていうドラスティックなことは起こらない。地道に人づくりを進め、まちづくりの結果を目に見えるかたちにして、地域の人々に気づいてもらう努力を積み重ねなければ、地域づくりは成功しない。根気のいる仕事なのだ。

 だから、もう一つ、地域づくりで大切なことは、長く続くということ。

 第2回の研究会は、NPO法人バリアフリー協会専務理事の沢田藤司之(さわだ としゆき)さんにお話をいただいた。沢田さんは「街のコンシェルジェ」という事業を東京都品川区中延で実践している※3

 街のコンシェルジェは、有償ボランティアのようなシステムだけれど、でも、ちょっと違う。サービスを受ける人は1時間800円のクーポンを買う。サービスを提供する人は、提供後、地元の中延商店街で使える500円分の商品券をもらう。残りは事務局経費だ。商品券だから500円は必ず地元で消費される。サービスを受ける人も提供する人も街のコンシェルジェの会員で、会員は、商店街にある街のコンシェルジェのセンターから、半径700m程度の範囲の人に限っている。700mは商店街の商圏でもある。だから、地域のみんな顔見知りになる。それに、長年同じ地域に住んでいる人同士だから、その関係はいつまでも続き協調が引きだされてくる。

 同じく特別委員として参加した(株)ドリコム代表取締役の内藤裕紀(ないとう ゆうき)さんは、20代の起業家で、まさにWeb2.0時代のビジネスの仕掛人だ。沢田さんの話を聞いていた内藤さんは、高齢者がアナログな顔の見える関係の中で信頼を創り出すのに対して、若者はネットを利用した非対面のコミュニケーションが既に主流になっていることを指摘していた。私事化はさらに進行するだろう。

みんなが社会の問題に気付く仕掛けを

 それでは、人々が緩くつながることを好むネットワーク社会で信頼と協調を引き出すにはどうしたらよいのだろう。Web2.0時代に新しいソーシャル・キャピタルを蓄積するための大きな課題だ。Web2.0の技術で、前回紹介したパットナムの指摘する4凶をどう乗り越えるかが問題だ。

 時間のプレッシャーからは、インターネットが少しは開放してくれて、郊外の人たちも、インターネットで地域のことを知ってくれるようになった。今からおよそ15年前、僕が郊外の役所に勤めていた頃はひどくて、地域の計画づくりへの住民参加率が人口に対して0.2%なんていう状態だった。それがインターネットを利用して、現在は10~25倍くらいにはなった※4。それでも、まだ95%以上の人は自治に参加していないのだけれど……。

 自分の関心領域に閉じてしまいがちな私事化する人々に、地域の多様な価値にどのように気づいてもらって、協調を引き出すのか。自分ひとりで気ままに暮らせばよいと思っている人だって、いずれ一人では生られなくなる。家族の関係も変わろうとしている。気ままに暮らしてきた人が身体を悪くしたり、お金を使い果たしたりしたとしても、現行制度の中で行政はその人たちを支える力を失っている。

 知ろうと思えば知ることのできる環境は、Web1.0が実現してきた。でも、みんな気づこうとしない。だから関心も湧かない。それゆえ地域のことを知らない。Web2.0では、みんなに社会の問題に気づいてもらう仕掛けをつくることが大切だ。

 次回は、第3回の研究会の様子とWeb2.0時代にやるべき課題についてお話したい。

【注】
※1 「Web2.0時代の地域のあり方に関する研究会」は、事務局となっているNTTデータ経営研究所のサイトから、誰でもオブザーバー(傍聴者)としての参加申し込みが可能です。残念ながら会議中は、発言できないことになっていますので、会議の後にでもお声をお聞かせください。【本文に戻る】
※2 研究会に提出される資料は総務省のサイトに全部公開されています。よく、本当は裏でなんとかみたいに、行政モノを疑う人が多いのですが(苦笑)、委員の僕が当日もらう資料と、ここに掲載されている資料は、寸分違わず同じ物です。【本文に戻る】
※3 沢田さんの街のコンシェルジェ・ブログからは、ご高齢の沢田さんが中延で奮闘する様子が手に取るように伝わってきます。社会貢献をエネルギーに生きる沢田さんは、いつも元気なのです。【本文に戻る】
※4 僕がインターネットを利用した地域づくりの有効性に気づいた頃の古い論文です。小林隆、日端康雄「都市マスタープランの策定過程におけるインターネットの活用可能性に関する考察 -大和市の計画策定事例を中心に-」日本都市計画学会一般研究論文、『都市計画』No.215、(社)日本都市計画学会、pp77-85、1998年11月 【本文に戻る】