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 先週は、ヨットで行方不明になったマイクロソフトの研究者を見つけようと、シリコンバレーのテクノロジー関係者が協力しているという話を伝えたが、その研究者ジム・グレイは残念ながらまだ発見されていない(2月12日現在)。
ところで、緊急時のテクノロジー動員については、アメリカ海軍がシリコンバレー企業も巻き込んだシミュレーションをここ何年か行っている。それがちょっと興味深いので、この機会に触れておこう。

伝染病発生、テロで通信網破壊、さあどうする?

 このシミュレーションは「ストロング・エンジェル」という名前で、2000年からすでに3回行われている。軍の専門用語で「ドリル(予行演習)」と呼ぶらしいのだが、よく日本の中学校などで行われる避難訓練のような筋書きのあるものではない。緊急事態が起こって、取るものも取りあえずやってきたテクノロジストの集団が、さてここで何ができるのかをリアルタイムで試してみようという「テクノロジー大会」といった様相なのである。

 ストロング・エンジェルIIIでは、何らかの自然災害によって伝染病が起こり、さらにこの機会を狙ったテロリスト・グループが通常の通信網を破壊したというシナリオが設定された。実施されたのは2006年の夏の終わりの数日間、場所はアメリカ海軍の基地に近いサンディエゴ郊外の、あるうらぶれた広大な屋外倉庫である。

 集まったのは230人ほどのテクノロジー関係者たちである。シリコンバレーからは、シスコ・システムズ、グーグル、インテルなど、他の地域からもマイクロソフト、ボーイング、アカマイ、IBM、クァルコムなどのテクノロジー関連企業が参加し、また大学や病院、11のNGO、テクノロジーの新興企業なども加わっていた。みな手弁当での参加である。

 「いったいこれをどうやってまとめるのだろうか」。参加者がやっていることをぐるりと見回して、私はそんな第一印象を持たずにはいられなかった。それほど、みなまちまちな作業をやっているのである。

災害地で組み立て可能な衛星受信システムも登場

 たとえばグーグルは、この倉庫にグーグル・グローブのサーバー自体を持ってきて、GPS付きの携帯電話で撮影された写真とテキストメッセージが自動的に地図上にマッシュアップされるよう、プログラムに取り組んでいる。また、このサンディエゴ地域の住民調査のデータと病院の位置、規模などのデータと組み合わせ、伝染病が本格的に広がるとどこでベッド数が足りなくなるかといったような予想地図データも出している。すべてここへ来てからやり始めたことである。

 ボーイングの研究者は、これまでの産業的な組織とは違った分散的なネットワーク組織で、いかに司令を効率的に伝達できるのかを、大きなチャートを書いて検討している。

 屋外では、ある新興企業が風船のような衛星受信システムをあっと言う間に組み立ててしまった。大型の受信機は現実の災害時には飛行機やトラック輸送などの調整ができず、現地に運び込むのが遅れる場合が多い。この風船は30キロ。トランクに詰めれば徒歩でも自転車でも運び込める。実際インドネシアの津波の際には、13日後にこの風船を現地で立てていたという。

 人里離れたフィールドへ出て、通信インフラを即席で組み立てようとしているグループ、あるいは、ソーシャル・ネットワークの仕組みを利用して、一般市民から届く近所のレポートを統合しようとするグループ、狭いトンネルの中を撮影できるロボットを操作するグループ、多言語間の翻訳システムを開発するグループなど、それは多様なテクノロジーが「自然災害で町が破壊され、伝染病が広がっている、通信システムも動かない。さあ、どうする?」というシナリオの中で独自の解決策を探っていたのである。

スタッフなし、資金なし、オフィシャルな政策もタスクもなし

 このストロング・エンジェルを率いるのは、海軍の医療隊司令官のエリック・ラスムセン。ボスニア、コソボ、スーダン、イラク、カテリーナなど、最近の災害地(自然、人為両方の)にはことごとく足を踏み入れてきた人物である。彼は、「軍と民間が協力して困難な状況から解決策を見いだす、アドホックなデモンストレーション」とこのドリルを説明している。「正規の担当スタッフもおかず、正式な資金源もなく、オフィシャルな政策もタスクもない」。実にゆるい組織というわけだ。

 だが、朝夕に参加者全員を集めてブリーフィングをして、その都度次にすべきことを指示する彼のやり方や、参加者が、それぞれに情報交換をして次々と共同作業を広げていく様を見ていると、テクノロジーがどんどん筋力をつけていくのを目の当たりにするようだった。

 単なる思考上での想像ではなく、無理強いで何かを本当に作り上げてしまうこのドリルという方式にも感心したが、そこへ手弁当で集まってくるテクノロジー関係者の意気込みや、即席にあれこれの解決策を作ってみて試そうという、彼らのフレキシブルでパワフルなアプローチも実におもしろかったのである。こういうところからこそ、テクノロジーの新しい応用性や的を得た政策などが出てくるのではないか。そう感じた。