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 永年愛用していた自宅のFAXが故障し、新しい製品を購入することにしました。一般的な家庭用FAX電話機を購入してもよかったのですが、紙の書類をPDF化して保存したり、パソコンで作成した書類を印刷したりといった用途も考えていたことから、予算を若干積み増してFAX複合機を選ぶことにしました。

 メーカー各社と家電量販店のWebサイトで下調べし、数機種に的を絞った上で店頭へ。東京近郊の大型家電量販店でしたが、訪ねたのは日曜の夜9時を回っていたので、店内は既に閑散としていました。メーカーからの派遣と思われる販売員の方が「何かお探しでしょうか」と声を掛けてきたので、いろいろ話しながら選ぶことにしました。

 声を掛けられたときに私が見ていたのは、4色印刷のカラーインクジェット複合機。古いFAXとさほど変わらない設置面積であることに加え、大量の原稿を一度に読み取れる自動紙送り装置(ADF)や無線LAN機能を備えつつ、価格は私の描いていた予算を大きく下回るものでした。ランニングコストはさすがに若干高かったのですが、本体価格の安さを考えれば十分に元が取れるかな、と感じました。

 30分以上かけてさまざまな機能やユーザーインタフェースなどについての説明を聞き、ほぼ「これで決まり」と思ったところ、販売員の方のある一言が気になりました。それは、「インクジェットをいつでも使用可能にするよう、2~3日に一度、自動的にヘッドをクリーニングする仕組みになっています」という言葉。インクが液体である以上、噴き出し口の目詰まりを防ぐため定期的にクリーニングすること自体は理解できます。かねて保有しているインクジェットプリンターも同様に、電源を入れたり切ったりするたびに頻繁にヘッドクリーニングをしています。

 引っ掛かったのは、「ヘッドクリーニング作業をいつ実施するか指定できない」という点でした。私の自宅には両親が一緒に住んでいて、FAXの設置場所は両親の寝室から非常に近い場所にあります。仮に真夜中に何の前触れもなくヘッドクリーニングが始まったら、両親が目を覚ますかもしれません。展示品で実際にヘッドクリーニングの様子を見せてもらいましたが、「ウイーン、ガチャガチャ」という大きな稼働音がします。クリーニング中の機械音に両親が慣れてくれるかどうかが気になり、結局私はインクジェット機の購入を見送り、若干高かったのですが予算ギリギリで収まっていたモノクロレーザー機を購入しました。

 もちろん、特定メーカーの特定機種を攻撃することが本稿の目的ではありません。定期的なヘッドクリーニング自体は、電源を入れっぱなしにするインクジェット型のFAX複合機にとっては重要なメンテナンスです。使おうとしたときにノズルが詰まっていたとなれば、むしろその方がユーザーの使い勝手を損ねることになるでしょう。一連の話で私が気になったのは、ヘッドクリーニング作業の時間をユーザーが指定できず、真夜中に突然作業が始まるかもしれないという事実が、メーカーのWebサイトや店頭に置いてある製品カタログを読んでも気付かないという点に尽きます。

 「安物買いの銭失い」ということわざがあります。江戸の御代の下駄や羽織だけでなく、現代の電子機器にも当てはまる言葉です。特にここ数年は、デジタル家電全般において多くのメーカーが容易に参入できるようになり、価格競争が激しくなっています。その結果、微細な部品の一つひとつに至るまで、爪に火を灯すように製造コストを切りつめるよう、メーカーが気をつかうようになりました。

 単に価格が安くなるだけならばユーザーにとっても歓迎すべき話ですが、時としてそれは、ふとしたことでユーザーに不信の種に植え付けるような使いづらさにつながります。往々にしてそうした使いづらさは、Webサイトやカタログではほとんど言及されておらず、購入してしばらくしてから初めて気付くものだったりします。そのことがユーザーをして「なんで事前に情報提供してくれないんだ」という思いを抱かせ、結果としてユーザーとメーカーの双方にとって歓迎すべきでない心証を芽生えさせる一因となる可能性があります。

 といって、「いろいろ不安があるなら、とりあえず高級機を買っておこう」というわけにもいきません。各種のデジタル家電が備える機能の多くが、往々にして購入から廃棄まで日の目をみないままであるのはご存じの通りです。潜在的な不安のために宝の持ち腐れを推奨するのも本末転倒と言えます。

 2~3年前、私が日経エレクトロニクス編集部に所属していたころ、機器メーカーへの取材時にしばしば「デスバレー(死の谷)」という言葉を耳にしました。先端技術の研究開発で多数の成果を挙げながら、それらの大半が商用化されることなく、企業内で死蔵されていることを表した言葉です。

 同様のことは、メーカーの商品開発部門とユーザーとの関係においても言えると私は考えています。ユーザーが商品に対して代金を払うのは、メーカーが商品に込めた付加価値をユーザーが評価したからこそです。しかし、その商取引を済ませた後に、付加価値に対して疑問符が付くような使いづらさをユーザーが発見したならば、不信感を抱くのは当然のこと。これが積み重なっていくと、メーカーとユーザーとの間の溝が広く深くなり、長期的にユーザーの購買行動に深い影を落とすことでしょう。

 そうした不幸な関係を避けるには、ユーザーにとって使いづらい機能やインタフェースなども含めて十分な情報提示をし、ユーザーに十分納得してもらった上で購入してもらうよう、メーカーが努力する必要があります。もちろんメーカーだけでなく、日経パソコンをはじめとする雑誌も、メーカーとユーザーとを橋渡しする立場として、こうした情報提示が重要な役割であると感じています。

 来週末に読者の皆様にお届けする2月26日号では、製品紹介の特集が2本並んでいます。特集1は仕事に役立つデジタルグッズの紹介、特集2はページプリンターとデータプロジェクターの購入ガイドです。いずれも担当記者が実際に製品を試用しながら、読者の皆様が機能や使い勝手について十分納得して購入できるよう考えて構成したものです。一つひとつの製品、ひいては電機産業全体に対する記者の思いを、誌面で感じながらご覧いただけると幸いです。