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「ナカノくん、おはよう」
 あっ! サイキ課長! おはようございます!
「ナカノくんは、いつも元気だね」
 何をおっしゃってるんですか。わが社で元気といえば、サイキ課長じゃないですか。
「え、そうだっけ…はは…はは…」
 …お元気ないですね。
「…そうかな…はは…」
 何か、お役に立てること、ありませんか?
「いや、とくに。気にしないで」
 そうですか。では失礼します。

「あのさ」
 はい?
「ナカノくんさ」
 はい。
「過去の自分に裏切られたことって、ある?」
 …サイキ課長、ちょっと、コーヒーでもいかがですか?


「はあ…たまーに、甘いコーヒーが飲みたくなるんだよね…なぜかな…」
 サイキ課長、よろしければ、お話伺わせてください。
「うん…実はね…先日、かなり久しぶりのことなんだけど、クライアントさんに出向いてプレゼンしたんだよ」
 えーっ! もしかして、先週金曜日の?
「あ、うん、そう、あれ」
 うわーっ、そのパワーポイントファイル、見せてください! ここ最近、若い人にまかせておられるって聞いて、もう課長のプレゼンは見られないのかなあ、残念だなあ、って思ってたんですよ!
「いやいや、そんなに言ってもらうほどのものじゃなくてね…」

 そんなに言うほどのものですよ! サイキ課長のプレゼンって、伝説じゃないですか!
「伝説?」
 はい! まだわが社がこれほど大きくなかった頃、ライバルが強くて絶対勝てない、と言われたコンペを次々に勝ち抜いた原動力は、当時最前線にいらしたサイキ課長のプレゼン能力だった、って、いろんな方から聞いてます!
「いや、なんか話が大きくなりすぎてて、こそばゆいなあ…まあ、実際かつてはねえ、プレゼン、そこそこ自信なくもなかったんだけどね…ダメだったんだよ、今回」
 ダメなんて、だって今回もバッチリ契約取ってこられたって。
「うん、契約は取ったんだけどね…」
 課長のプレゼンの成果じゃないですか。

「うーん、それがねえ…自分で言うのも本当に恥ずかしいんだけど、昔はあんなことなかったんだ…」
 あんなこと?
「プレゼンの途中でね、クライアントさんが、あくびしたんだ…」
 それは…たまたま睡眠不足か何かで。
「うん…そうかもしれないけどね…」
 サイキ課長のプレゼンと言えば、大道芸のアクロバット並みに見ている人を惹きつけると聞いておりますので、ショックはお察しいたします。
「嬉しいたとえをありがとう。でもそれも、過去のことなんだ…なんとなく、こう、食い入るように見てもらえないというか、反応がね、悪くはないんだけど、まったりとした、全体に眠い感じだったんだよ。最初に会議室のブラインドを下ろして電気を消した時からね…」

 ちょっとお待ちくださいませ。ブラインドを下ろして電気を消した、とおっしゃいましたか?
「そうだよ。プレゼンの前にはそうするだろう」
 課長、プロジェクターは先方のものをお使いに?
「いや、うちの倉庫にあったのを持って行った。昔、ボクが愛用していた小型のプロジェクターがまだあったんだよ! 言ってみれば相棒だ。これがあれば百人力だと気合いも入っていたもんで、よけいショックが大きくてね…」

 サイキ課長。課長の作られたプレゼンの内容のせいじゃありません。大事な相棒さん、その古いプロジェクターのせいで"眠い"雰囲気になったんですよ。
「どういうこと?」
 最近のプロジェクターは大変性能が良くなり、明るい昼間の会議室でも、くっきり壁に映し出せるようになってきてるんです。久しぶりに暗い室内でプレゼンを見たクライアントさんは、ついつい眠くなられたのでは?
「…そうなの? 最近のプロジェクターって、そんなに進んでるの?」
 はい! 課長、自信をお持ちになってください。うちにも最新型プロジェクターがありますから、次回はそれをお持ちになって、存分にプレゼンなさってくださいませ。

「そうだったのか…ありがとう! ナカノくん! あっ、パワーポイントのファイル、メールで送っておくから、ぜひ見てね! 感想聞かせてね! よーしゃっ! 行くぞぉーっ!」
 行くぞって、どこに…? でもよかった、これでこそサイキ課長!