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 インターネット先進国として東アジア随一の存在感を持つ韓国での情報教育はどのように進められているのか。韓国・高麗大学教授の李元揆氏にインタビューしました。韓国では学齢期人口のインターネットの利用率は日本より高いものの、情報教育という観点では日本と共通する課題も多いようです。今回から3回に分けてお届けします。(編集部)

教育現場でのコンピューター活用は進んでいない

兼宗:韓国ではインターネットの普及率も高いですし、教育現場でもIT機器の活用が進んでいる印象が強いです。今回は、韓国ではどのように情報教育が行われているのか、その歴史も含めてお伺いできればと考えています。

李:韓国は情報化施策が成功したとよく言われていますし、日本の政府関係者の方も視察にいらっしゃいますが、実際にはまだまだ課題が多いと私自身は感じています。

兼宗:それは意外ですね。

李:韓国で教育現場にパソコンや通信回線の設置を本格的に進めることになったのは1996年のことでした。その直後の1997年に国際通貨基金(IMF)への支援要請を行うなど、韓国経済は危機に陥りましたが、何とか2000年までにはネットワークにつながったインフラが整いました。

 それ以降、2005年までは、構築されたインフラをベースにICT(インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー)活用の促進を政策として進めてきました。

 2006年からはさらに高度なサービスをしようという方針になっています。ただ、本当に情報教育が実を結んだかについては、少し考えてみる必要があると思います。

 2003年に行われたものになりますが、PISA(国際学習到達度調査、経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに行っている。本コラムの12月13日分も参照のこと)の調査を見ても、韓国の15歳の子供たちは96.5%はICTを活用しているということになっています。でも、この報告書をもう少し詳しく見ていくと、家庭でコンピューターを使っている割合が9割近いのに対して、学校で使っている割合は3割程度に過ぎないんです。

兼宗:日本では家庭で使っている割合は約4割、学校で使っている割合は3割弱です(笑)。

李:日本の数値が低いのは、2003年の調査であるということもあるでしょう。今はもう少し割合が高くなっていると思います。

 いずれにしても、教育現場でのコンピューターの活用は日本同様あまり進んでいません。さらに、この報告書が示している点でもう1つ重要なのは、韓国の学生はコンピューターをインターネット検索やエンタテインメント、ゲームに主に使っているという点です。つまり勉強にはほとんど使っていないんですね。これは日本も同じです。いや、巨額の国費を投下しているのに、そのインフラで遊んでばかりいるという点では韓国の方が問題が大きいかも知れません(笑)。

 情報教育への投資の成果の1つとして、家庭が教育に費やす費用、すなわち私教育費を減らすことを可能にしたということも盛んに言われています。公的機関が大学入試対策のための番組をインターネット放送で行っていることなどを指してのことですが、実際には、統計を見ると韓国の家庭の私教育費は減っていません。

 情報教育の成果として、ネット経由での受験勉強ということが上げられることもそもそも大きな間違いだと思います。たとえば、フィンランドやノルウェーなど学生や国民のICT活用能力が高いと言われている国では、自分で問題を設定して、それを解決するという点が優れているのです。韓国の情報教育が目指すべき方向はまさにここにあると思います。

 インターネット検索、ワープロ、表計算、といったソフトの使い方を学ぶだけでなく、基本的な問題解決能力の育成にこそ重点を置いていく必要があるでしょう。

兼宗:同感です。

李:もう1つ韓国の情報教育を巡っての課題は、インフラですね。過去に構築した情報教育のためのインフラ、つまり各学校に設置されているパソコンは老朽化が進み、CPUに「Pentium 2」を使っているものが残っているなど、約6割は今すぐ廃棄してもおかしくない状態です。

 では、再度、インフラ構築に予算を割くことができるかというと韓国の財政事情はかなり厳しいのが現状です。韓国では日本以上に、少子化の進み具合が深刻です。現在、国の政策の重点は少子化対策へ移っています。1996年から2000年にかけて行ったような情報インフラへの投資を期待するのは難しい面があります。我々はコンピューターを使わずにいかに情報教育を行っていくかという難しい課題に今、直面しているのです。

次回に続く)

お知らせ:3月10日(土)に一橋大学佐野書院にて、情報処理学会情報処理教育委員会の主催によるプログラミングの教育利用をテーマとしたワークショップが開催されます。詳細は情報処理学会情報処理教育委員会の「教育用プログラミング言語ワークショップ2007」をご覧ください。