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 東国原英夫(ひがしこくばる ひでお)知事の大活躍が連日テレビで伝えられている。ちょっと報道が過熱しているし、経済効果“165億円”の大成功と評価するのも急ぎ過ぎているように思うけれど、知事の伝える力はかなりのものだ。是非、宮崎県の安定した成功に向けてがんばってもらいたい。

 「そのまんま東オフィシャルサイト」で公開している「そのまんま日記」や「過去の日記」を読んでみると、東国原知事が、どんな生活をどんな気持ちで、過ごしてきたのかが垣間見られる。彼は、笑ったり、怒ったり、喜んだり、悲しんだりするフツーの人であることをネットでは隠さないし、何にでも熱くなって、がんばり過ぎるくらいに、がんばる人であることもわかる※1

 日記の中には、忙しい仕事の合間に通う大学の様子も時折みられる。試験前なのに、真面目に勉強に取り組まない学生たちの姿に憤っている様子などが記述されていて、僕も社会人学生からの再チャレンジ組なので、わかるわかると苦笑してしまう※2

 国の成長期が終わった現在でも、がんばらない学生はすこぶる多い。偏差値の高いブランド大学に入ればOKだったころとは違って、今、大学は、知識創造という情報社会を生き抜くための能力を開発する場である。ブランド大学を中位以下の成績で、授業料を払うだけの学生として卒業するくらいなら、フツーの大学の上位でしっかり勉強した方がいい。

 話はちょっと逸れたが、このがんばる人は、大学で熱心に勉強して、ショボイと思われがちな地方行政に目を向けた。宮崎県は、産業社会の成長や活性化という文脈からは、いち早く落ちこぼれてしまった地域だ。こうした地域が日本には無数にある。組織と市場に支えられてきた産業社会の価値観では地域は改善されない。地域社会を情報社会の価値観へと変えなければならない。その転換期にある地方行政は、現在、最も難しい仕事のひとつだと思う。

 宮崎の仕事も大変だと思うが、選挙も、出身地だとはいえ、実績のないタレント出馬なら、国政や、東京、大阪といった浮動票のある大都市部を選んだほうがベターだったはずだ。政治学の入門クラスでは、投票行動を学ぶのだけれど、その教科書には、政党帰属意識、候補者評価、それに争点評価が、投票行動に影響するという「ミシガン・モデル」が必ず出てくる。宮崎県のような家族が代々住み続ける地域では、政党帰属意識も受け継がれて、さらに候補者の実績も積み重なるので、争点評価の選挙にはなりにくいと習う。東国原知事もきっと習ったはずだ。本当に宮崎をなんとかしようと思ったのだろう。

 だから、そのまんま東は宮崎を選んだ。そのまんま日記をみると選挙前に草の根活動を熱心に重ねていたこともうかがい知れる。また、県民も、政党帰属意識や実績よりも、新しい知事を選び、管理や調整の力よりも、情報社会の地方自治にはどうしても必要な伝える力を持つ知事を選んだ。そして、「そのまんま東」改め「東国原英夫」知事は誕生した。

地域社会の信頼と安定を築く長期政権を

 価値観を変えるのは勇気のいることだ。どんなにがんばる人でも、地方自治の再チャレンジは人間のそれのようにたった一人ではできない。知事のマスに伝える力は飛び抜けているから、この力を県内の住民に向けることをいままでどおり大切にして、住民とのコミュニケーションの機会を、忙しいと思うので得意の情報技術をしっかり使って、さらに増やしていってほしい。

 苦しい宮崎だから、知事と住民とのコミュニケーションは、無数の問題に気づきを与えることになる。気づけば仕事は増えるから、全国に向かって情報を伝えて獲得した165億円の経済効果は、砂漠に水を注ぐように消えることになると思う。そして、その見返りは、お金での評価はなくて、知事の貢献にありがとうという県民の感謝の声が返ってくるだけだろう。けれども、その貢献からは、この地域だからこそ長く続く、信頼と安定がもたらされるはずだ。信頼と安定は情報社会の最も大切な価値だ。

 コミュニケーションからは協調が引き出され、いつまでも続く信頼関係は、お互いの利得を生み安定をもたらす。僕は、副知事選びの時に、知事選で争った持永哲志さんを迎えようとしたことから、東国原知事の安定政権の可能性を感じた。地域社会に優れた人材はそういない。そして、相手が対立なら自分も対立でよいけれど、相手が協調を選んだら協調して長くつき合う方がいい。つき合い方の科学の基本だ※3

 僕は、ぶっこわす改革だけで終わってしまう知事じゃなくて、現代の地方自治を学んだ東国原知事には、地域社会の信頼と安定を築く長期政権を目指してほしい。一人でがんばり過ぎないで、県民とも役人とも手をつないで、宮崎県の再チャレンジに挑んでほしい。そして県民がいつもその再チャレンジに気づき手をつなぐことができるように、ケータイのような個人のメディアとテレビのような全体のメディアをつなぐWebの編集を、その優れた伝える力を駆使して、丁寧に重ねてほしい。

 そして、どん底を経験して、再チャレンジしたフツーの感覚の知事だからこそ、住民にがんばれば実るんだということを伝え、それが実感できる自治のシステムへと、芸人学生の時と同じように、急がずにたっぷりと時間をかけて変えていってほしい。「どん底の落ちこぼれ宮崎」改め「信頼と安定の宮崎」に向けて。

【注】

※1 すごくがんばる人だから、かとうかず子さんのような素敵な人が惹かれたんだなぁと思う反面、そのまんま東を再生まで支えたかとうさんも立派だったなぁと思った次第。ファンの一人として、これからの人生にエールを送りたい。そして、今度は、かとうさんに代わって、役所の人たちが、女房役としてがんばる知事について行く。とても大変だと思うけれど、がんばってほしいし、東国原知事も、役人への気遣いを忘れないでください。役人稼業も、踏みつけられても、叩かれても、上からの命令にはYesとしか言えない、それでも社会を支えなければならない苦しい稼業です。世間では意外に思うかもしれませんが、最近、古い価値観に束縛された中で、新しい価値観を求められる地方自治体職員の神経症が増えているそうです。【本文に戻る】

※2 実は僕は役所を2度辞めています。1度目は、役所に勤めて7年目。地方自治の現場での政策づくりはとても難しくて、自分の能力不足は明らかでした。そこで、給料は要らないから休職扱いで大学院に2年間行かせてくださいとお願いしたら、お前が要らないという状態になって、すずめの涙の退職金をもらって、妻と生まれたばかりの長女との無職、無収入証明付きの学生生活となりました。ハングリーだったからがんばったなぁ(笑)。そして、また役所に出戻って10年間務めましたが、3年ほど前に2度目の退職をしました。今度は大学に職があったので安心して辞められました。【本文に戻る】

※3 ロバート・アクセルロッドのつき合い方の科学や対立と協調の科学については、本コラムの第4回をご参照ください。【本文に戻る】