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 携帯電話のマナーが問題になって既に久しい。「ペースメーカーに影響を与える可能性があるので満員電車の中や病院の中では使用しない」とか「注意力が散漫になって危険なので自動車や自転車を運転中に使用しない」などは、マナーというよりも、携帯電話使用者が必ず守らなければならない事柄だが、では、「歩きながら携帯電話を使うな」とか「電車の中でメールを打つな」といったあたりはどうだろう。しばしば、新聞の投書欄などで見かける苦言である。

 往来の真ん中を大声で携帯電話で話しながら歩いている輩が前にいると、誠に邪魔である。「ねえ」などと親しげな声がするので、ビックリして振り返ると携帯電話で話しているヤツだったりして、腹が立つやら脱力するやら。

 電車の中で並んで座っている友人同士らしき若い者たちが、互いに会話をせずに黙って携帯電話に向かっている姿は気味が悪いなどという人もいる。

 しかし、考えてみてほしい。

 泥酔して放歌高吟しながらよろよろ歩く輩とて大迷惑である。いや、酒など入っていなくても、キャーキャー騒ぎながら道幅いっぱいに広がって歩く迷惑な集団にはほとほと閉口する。おまえらは「Gメン'75」か。これは若い者の専売特許というわけでもなく、中年の女性たちにもよく見られるシーンである。

 電車の中で静かに読書をしている分には文句を言われることはないのに、携帯電話に着信したメールをチェックしていると白い目で見られるのは何故だ。カバーをした文庫判の本に読みふけっていれば、そのカバーの中身が漫画だろうがアダルト小説だろうが「読書をする感心な人」、携帯電話を見つめていると「全く今どきの若い者は…」となってしまう。

 食事や立ち居振る舞いなどに関するマナーには、たいていルーツがある。無論、最初は「食べやすいように」「見苦しくないように」といったところから始まったものだろうが、そのうち王室や武家のしきたりだの宗教だのが絡んできて独自のマナーができあがる。「箸の使い方」とか「上司と車に乗る時の席順」とか「訪問先で上着や帽子を脱ぐタイミング」とか、それぞれ「○○家の作法」「ヨーロッパ○○国の王室から伝わったマナー」とか、なんらかの根拠にのっとっているに違いない。

 だが、携帯電話のように世に出て日の浅いアイテムには、まだ確固たる作法がない。トイレットペーパーの先を三角に折るのはマナーにかなっているのか、はたまた少々品下れる行いなのか。甲子園球場7回裏、ロケット風船は真上に飛ばすべきなのか、あるいはグラウンドに向かって飛ばすべきか。さすがの小笠原流の教本にもトイレットペーパーの美しい折り方や、阪神ファンのロケット風船飛ばしの作法が書かれたページはないだろう。

 かように、新しく登場したアイテムに関するマナーはわからないことだらけなのである。といっても、「あ、オレだけどさー、今、表参道。もうすぐ渋谷に着くから。で、誰が来てるのぉ?」などと電車の中で埒も無い事をぐだぐだ喋っているヤツを見かけたり、急いでいる時に道幅いっぱいに並んで携帯メールを打ちまくってる女学生どもをなかなか追い越せなくてイライラする時は、「マナーなんてどうでもいいからとにかく誰かこいつらから携帯を取り上げてくれ!」と心の中で叫んでしまう私なのだった。