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 IPを抜く。IPを抜かれる。
 「2ちゃんねる」など、インターネットの掲示板で時折見かける表現である。

 Webページにアクセスしてきた人のIPアドレス(Internet Protocol address)データをCGIスクリプト等を利用して収集する…といった意味で使う。平たく言えば「どこのプロバイダを使ってWebページを見てるか」ということ。

 掲示板の発言記事欄に表示されていることもあるし、サイト管理者だけが収集したデータを閲覧できるようにしてあるところもある。主に「抜く」「抜かれる」という言い方は、表に表示せず、裏でIPアドレスを収集・閲覧している場合に使われることが多い。

 ミョーな言葉である。「知る」「見る」「収集する」「拾う」…と、ほかにいくらでも表現がありそうなものだ。三省堂の「新辞林」によると、「抜く」には次のような意味があるらしい。

(1)引いて取り出す。「草を―・く」(2)中のものを外へ出す。「空気を―・く」(3)省略する。「昼食を―・く」(4)取り除く。「あくを―・く」(5)選んで取り出す。「カードを 1 枚―・く」(6)貫くように向こう側へ出す。「投手の足許を―・くヒット」(7)追い越す。「一挙に 3 人―・いた」(8)スクープする。「特ダネを―・かれる」(9)最後まで…する。「考え―・く」

 1の「引いて取り出す」、5の「選んで取り出す」、8の「スクープする」あたりのニュアンスが混ざった感じだろうか。しかし、それにしても「抜く」には随分といろんな使い方があるんだなあ。ニホンゴ難シイネ。

 「IPを抜く」はあまり一般的に使わないけれど、たとえば「たちあげる」はしばしば使う表現だ。ウチの母がワープロの講座を受けにいった際、講師が「では、たちあげておいてください」と言ったまま席をはずしたという。

 「たちあげるっていう意味がわかんないじゃないの」と激怒する母。
 ワープロやパソコンを使っている人間にとってはごく普通の表現だが、初心者にしてみれば、確かに「何をたちあげるの?」であろう。どうすりゃいいのだ。独立して事業をたちあげればよいのか。たかだかワープロ講座でそんな大掛かりなことを要求されても困るじゃないか。

 というわけで、講師が戻るまで頭から湯気をたててじっと待っていたらしい。テレビを見ていて気になることがあると速攻で局に抗議の電話を入れるという母である。講師、ウチの母にさぞ厳しく責められただろうなあ。自ら招いた災いとはいえ、誠に気の毒なことである。

 その講師も、初心者とオバサン、いや、初心者でオバサンを甘く見ると痛い目にあうという貴重な教訓を得たに違いない。っていうか、母よ、ちょっとしたことですぐテレビ局に電話するのはやめてくれえ。