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 押入れを整理していたら、古いビデオが何本も出てきた。
 ラベルを貼っていないビデオが多くて、要るものか要らないものか、中身を確認するのに時間がかかる。頭から見ても、早送りしても、一体何を録画しようとしてたのかわからないのもあったりして、過去のずさんな自分を叱りつけたい気分である。

 その点、市販のビデオはいい。押入れから発掘されたビデオの中に、クイーンのライブビデオがあったのだが、ライブ会場も曲目もちゃんとパッケージに書いてあるから何も迷うことはない。

 というわけで、久しぶりにクイーンのライブを堪能。クイーンには好きな曲がたくさんあるけれど、このライブでボーカルのフレディ・マーキュリーが、表がイギリス国旗で裏がハンガリー国旗という派手なガウンをまとって登場する「RADIO GAGA」は特にお気に入り。思わず繰り返し見てしまう。
 しかし、それにしてもビデオを巻き戻すのって、こんなに時間がかかったっけ? 我が家のビデオデッキが古いせいなのか、見たいシーンの頭出しをするのも大変である。すっかりDVDとHDDレコーダーに慣れてしまった身には、カラカラと乾いた音を立ててビデオが巻き戻っていく時間がとてつもなく長く感じる。
 思えば、レンタルビデオを借りたときは、見終わったらきちんと巻き戻してから返却するのが不文律(「巻き戻してから返却しろ」という注意書のあるレンタル店もあるかも)。ジョン・ウォーターズ監督の映画「シリアル・ママ」では、公衆道徳に厳しい主婦が借りたビデオを巻き戻さないで返した人を射殺するという無茶なエピソードがあったっけ。
 最近はレンタル店でDVDばかり借りていたので、この感覚を忘れかけていた。家庭用ビデオが発売されてからというもの、人類は、見終わったビデオを巻き戻すという生産性のない時間をどれだけ費やしてきたことだろう。って、ちょっと大げさすぎますか。
 そういえば、CDしか知らない若い世代にはピンとこないかもしれないが、LP レコードも似たようなものである。好きな曲を繰り返し聴くためには、レコードに刻まれた溝をいちいち慎重に数え、その溝に傷をつけぬよう息を殺して針をそっと落とすという作業が必要だった。でも、不器用な私は大事なレコードに傷をつけるのが怖くて(20数年前の中学生にとってLPレコードがどれだけ高価だったか!)、レコードの最初から最後までを繰り返し聴くことが多かった。
 そのおかげで、若いころ、繰り返し聴いたLPレコードは、曲の順番を鮮やかに覚えていたりする。シングルカットされず、コンサートでもあまり演奏されなかったようなシブい曲も唄える。
 もし、私がCDしか知らなかったら、地味な曲は飛ばして気に入った曲ばかり聴くのが当たり前だと思っていたに違いない。もちろんCDアルバムは必ず最初から最後まで通して聴くという人もいるだろうが、“飛ばし聴き”スタイルの人も少なくないと思う。
 そうなるとアーティストも大変である。アルバムの全曲を通してなんらかのコンセプトを伝えようとしても、シングルカットされたメジャーな曲だけをセレクトして聴く客層にはその手法は通じない。ものすごく売れたアルバムに収録されているにもかかわらずほとんど人々に聴かれることのない可哀想な曲、なんてのもあるかもしれない。
 デジタルメディアは本当にベンリである。見終わったビデオを巻き戻す虚しい時間を過ごさなくていいし、苦労して頭出しする必要もない。もう一度ビデオとLPしかない時代に戻れと言われてもお断りだが、巻き戻す時のカラカラという音や、LPの溝に針を落とした時のブツッという音になんとなく郷愁を感じたりもするのである。