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「おっと! 失礼!」
 あっ、こちらこそ失礼…あら、タグチくん、相変わらず走り回ってるのね。
「あっ、ナカノさん、こんにちは!」
 これから外回り?
「はい、できればすぐにも出たいんですけど…出られなくて」
 どうして?
「クライアントさんに見せる試案が、まだ決まらないんですよ」
 えー! それ、まずいんじゃないの? 新年度の挨拶に行く前に見せるのが恒例だったんじゃ?

「そうなんですよ。先方もかなり前から『まだ?』って待っててくださって…だから今日明日にはぜひとも持って行きたいんですけど…」
 毎年そんなにもめたっけ、年度末の試案。
「もめるんですよー。みんなヤケに張りきって『とことん練り上げよう』とか言っちゃって」
 あー、その空気はわからなくもないわ。年度最後の総仕上げだから、全力でいいもの作りたいって気持ちになるのよね。
「確かに、営業全体がクリエイティブな空気で盛り上がってますし、それがいいことなのもわかるんですけど、それだけ盛り上がるんなら、クライアントさんに持って行くボクの立場も、少しは考えてほしいです」

 確かに。で、その試案、誰のところでつっかえてるの? 課長? それとも作成チームのリーダー?
「誰っていうか、全員ですよ」
 全員?
「最初に作ったたたき台の案は、まあたたき台、って言うくらいですから、みんなでたたいていろいろ変えるのはわかるんです。でも、とっくにまとめて仕上げる段階なのに、必ず誰かが『ここはもう少しこうしたら』とか言い出して、全然完成しないんです」
 なるほどねー。
「Wordで書類作って課長に送って、直しが入って戻ってきて、それをチームリーダーと直してチームに回すと、誰かがまた直しを入れて、それを直して課長に送ると、また課長の直しが…」
 キリがないのよね。
「ああっ、もうっ、オレは会社の中でチマチマ書類作るの向いてないんですっ! 外に出てバリバリ話して、やりとりしたいんですよぉー!」

 ねえタグチくん、あなたのその“バリバリ話したい”っていう気持ちを、試案作りに活かしたら?
「ええっ、活かせますか? どういうふうに?」
 試案作成に関わってる人を全員、会議室に集めるの。そして、プロジェクターで、今現在の試案を壁に映すの。
「プロジェクターですか? PowerPointじゃなくてWordの書類ですけど」
 プロジェクターはPowerPoint専用じゃないわ。WordでもWebブラウザーでも、何でも映していいのよ。
「なるほど。それで?」

 全員でその書類を見ながら、ここはこう、あそこはこう、って話して、その場でリアルタイムに直すのよ。
「あー。壁を、パソコンのモニター代わりに使うってことですか?」
 そうそう! いちいちファイルを回覧してると、全員の意見を聞くのに時間がかかるでしょう? しかも途中で変わるから余計話がややこしくなるんだと思うの。
「それ、いただきます! 今日の午後、会議室押さえて、一気にやります!」
 頑張ってね。全員集めて一気にその場で意見を聞く、って決めれば、後から追加でなんのかんの言うのはナシ、って言えるわよ。
「ありがとうございます!」
 いえいえ。

「ぜひお願いします!」
 …お願いって?
「ナカノさんも出席して、『後から追加でなんのかんの言うのはナシ!』って言ってください!」
 えっ! なんでわたしが…。
「それをスパーッと言えるのは、わが社でナカノさんだけですよ! 時間決まったらご連絡しますね! それじゃ!」
 あーっ、タグチくんっ!…どうしてこうなっちゃうのかしら…(涙)。